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オピニオン メディアビジネスの新・未来地図 その3

【デジタルヲ読ム、読マセル、ト謂フコト~プリントメディアの近未来を語る~】
プラットフォーマーは、通信キャリアか、端末メーカーか

2010年07月12日 美和晃(電通 電通総研 コミュニケーションラボ チーフリサーチャー)、倉沢鉄也、浅川秀之山浦康史、今井孝之、紅瀬雄太


(美和)通信キャリアがデジタルプリントメディアの配信サービスに本気で取り組むもう一つの方向性としては、SIMロック解除以外の手段でも、契約の現状を柔軟にするというアプローチがあります。同じ通信キャリアに対する契約であれば2枚、3枚のSIMカードを同一契約と見なす、とかプラス数百円で2契約できます、というやり方もあると思います。これもまだ動きとしては不透明ですが。

(浅川)そうすると電子ブックの市場が進むためには、キーを握るのはコンテンツプロバイダーではなくて、通信キャリアと端末メーカーの二者だということですか。

(美和)コンテンツかインフラかの二者択一ではありませんが、通信キャリアと端末メーカーの役割は重要だと思います。例えば電子辞書は何ら通信を用いなくても今250万台の出荷規模を持っていますが、その規模の端末の出荷ロットが潜在的に稼げます、ということを、端末メーカーやプラットフォームを目指す事業者の戦略として証明できると、次には通信キャリアも独自開発したい、あるいは既存メーカーに開発してもらって回線モジュールを積もう、という流れになると思います。

(倉沢)その端末製造とプラットフォーム形成の両方を通信キャリアの外側で立ち上げたAppleとGoogleは強いということですね。

(美和)そうです。

(浅川)コンテンツ業界はどうですか。

(美和)新聞社は本当に思いきってやればそういったところまでできるほどの規模を持っています。出版社は1社では難しいでしょうし単独でリスクを負うメリットも少ないでしょうね。

(宮脇)新聞社や出版社の連合体ならありえますか。

(倉沢)そういう動きはもうあるのですよね。ただ、古い業界が技術を後追いするような合従連衡の新しいビジネスモデルというのが日本のメディアの世界でうまくいったためしがないので、正直期待できないと思ってみています。

(美和)随分と手厳しいですね。雑誌出版社の連合体である日本雑誌協会では、業界専用端末のようなものを2011年頃につくって出しましょうというロードマップが動いています。また業界団体挙げてと言わずとも、すでに集英社、小学館、講談社などでゲーム端末向けに配信する会社は動いています。

(宮脇)ただ、DSやPSPに配信したときに、これらのゲーム端末のディスプレイは電子書籍専用端末と違い、意外に静止画や文字を読むのに最適とは言えないスペックであることも注意しておく必要があります。

(美和)現行のポータブルゲーム機ではそうかもしれませんね。次世代のゲーム機というのが出現するでしょうから(注:対談は2009年10月実施。任天堂は2010年3月、2010年度内に3D液晶を搭載した次世代ポータブルゲーム機を発売すると発表)、プリントメディアのコンテンツにあてはまるかどうかが突破のカギかもしれません。メーカーとプリントメディア業界で、ハードウェア端末の開発情報の事前共有という踏み出し方にはそうそう進まないとは思いますが、注目しておくべきではあるでしょう。

(前田)電子書籍により影響を受けるのは、出版業界のみでなく、印刷業界も含まれると思いますが、印刷業界は現在電子書籍ビジネスとどう関わっているのですか。

(倉沢)DNPも凸版も、もうお金出して会社を作っていますよ。

(美和)印刷業界は、刷りの直前のデジタル製版されたデータを持っているのが強味です。デジタル上でもそのままさまざまな形で再現できる潜在的な能力と技術があるのです。刷りの部数で稼いでいた部分は縮小しました。だからこそデータが活用できる別の市場を作り出すためにデジタル(電子書籍)取次ビジネスに乗り出しているのです。

(倉沢)印刷業の付加価値の中心は、紙ではないです。紙が必要なのは製紙会社です。印刷業は、ITの基盤プリントもやりますので、デバイス開発のサプライヤーでもあります。デジタルプラットフォームに対して、版ができれば印刷会社のビジネスは成り立ちます。

(前田)ということは、紙で刷ることを完全にやめない限りは版が存在するから異業種に完全に抜かれてしまうビジネスモデルではないのですね。しかし紙があまりに縮小している中で、「維持」と言える収益状態を保てるのですか。

(美和)デジタル展開しようと思えば書誌情報や素材のメタデータをインデクシングできる基盤はあるということです。印刷業界はいろいろやることは増えますがそこが強味だと思いますよ。

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