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オピニオン メディアビジネスの新・未来地図 その3

【デジタルヲ読ム、読マセル、ト謂フコト~プリントメディアの近未来を語る~】
雑誌そのものの魅力は維持できているのか

2010年08月09日 美和晃(電通 電通総研 コミュニケーションラボ チーフリサーチャー)、倉沢鉄也、浅川秀之山浦康史、今井孝之、紅瀬雄太


(山浦)最初にすべき質問だったかもしれませんが、そもそも雑誌をデジタルに移していく必然性がビジネスとしてどれくらい強いのでしょう。現状で紙媒体としての雑誌の市場が減っている理由は、端的に整理するとどうなりますか。

(美和)それは間違いなく、一番に人口動態の変化すなわち若者の減少、二番にインターネット利用の浸透、でしょう。

(山浦)インターネット利用は新聞のストレートニュースであれば紙媒体より明らかに優位性があると思うのですが、雑誌の場合は、テーマの多様性、詳細記述、美しさ、紙媒体自体が持っているファッション性、といった部分を読者が紙媒体に本質的に求めていたはずです。それが目減りしてきているというのは、人は雑誌を求めていないということなのでしょうか。その中で雑誌が電子媒体になって、無機質な部分だけがインターネットに移行したときに、雑誌本来の魅力自体が電子媒体上で維持できていないので、市場の縮小は止まらない、だから市場の打開策に本当になるのだろうか、と思えるのです。

(美和)2009年後半というのは、デジタルプリントメディアのビジネスにとって過渡期ですので、現象面で明確な展望は描けないのは仕方ないところです。デジタル化してインターネット上にプラットフォームを形成することによって、今まで紙で捉えることのできなったターゲットもある程度ビジネスの対象とできるのはないか、という間近の「プラスオン」の要素と、とはいえ長期的には紙媒体市場は縮小傾向ですので、デジタルでのみ成し遂げられる中長期的なビジネスの裾野拡大のために、今から仕込んでおこうというプラスアルファの要素、とが混在して取り組まれているのが実情だと思います。

(倉沢)広告タイアップという意図的な編集記事だけでなく、これだけ情報があふれかえっている時代に、雑誌の記事が広告主に対して純粋に独立性を保って書かれることは難しいです。そういう「ぶれない主義主張」は、雑誌よりもインターネット上の意見書き込みのほうが相対的に充実してしまったのではないでしょうか。その点で、雑誌側が残された魅力を表現する場所として、オープンインターネット上のWebブラウザーでない場所、すなわちデジタルプリントメディアの課金プラットフォーム上にビジネスの仕組みだけでも先に作っておくことが急務だと言えます。

(倉沢)ただ、ここまでも議論したように、出版業界のインフラ的なコストを支えてきたのが、雑誌の中でも報道的機能を持った週刊誌であって、そこが最も市場縮小幅の大きい分野なので、ファッション月刊誌などのリッチコンテンツさのデジタイズだけで事は済む、ということではないところが難しいですね。

(美和)手厳しいですね……。そのとおりではあるのですが、まだこの市場は、同じものをデジタルという品に変えてプラットフォーム上に出しておくだけでも、一定層の人は買ってくれる市場だと思うのです。そこを収益上のつなぎにしながら、次のステップを仕込まなければならないとは思います。

(倉沢)週刊誌についても、今は紙ベースでは沈滞していますが、デジタルで端末の中に入れてしまえば、ちょっとエロ系、ちょっとグロ系、ちょっとバカ系、の記事をこっそり読みたいな、というニーズにも応えられる可能性がありますね。

(美和)端末の向こうで何をしているのかわからないという部分は重要ですね。瞬間で折りたたみができたり、横から見えなかったり、端末もそういうことに対応したものにしないといけないだろうと思います。
電車の中で派手な写真週刊誌を読んでいると最近女の人の目線がきついなという声も聞いています。この端末だったら読めそうだという男性、あるいはひょっとすると、これまで男性誌を実は読みたかったが絶対に手に取れなかった女性のニーズにこっそり答えるマーケットは、あり得ますね。

(倉沢)そういう軽い視点も、あるいは編集部としてポリシーを持って雑誌を作れているのか、という重い視点も含めて、まず電子雑誌の根本として、雑誌そのものの魅力は維持できているのか、という議論は今後も必要でしょうね。
長時間、日本総研メンバーも含めて、どうもありがとうございました。

(完)

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