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オピニオン メディアビジネスの新・未来地図 その3

【デジタルヲ読ム、読マセル、ト謂フコト~プリントメディアの近未来を語る~】
MID(Mobile Internet Devices)でデジタルプリントメディアが救えるのか

2010年06月21日 美和晃(電通 電通総研 コミュニケーションラボ チーフリサーチャー)、倉沢鉄也、浅川秀之山浦康史、今井孝之、紅瀬雄太


(倉沢)iPhoneをまだ持っていない人間としてあまり強く主張できないところですが、iPhoneはソフトバンクの携帯電話・メールマシンとして使えるから買うという側面もあって、もしこれが「データ通信機能付きiPod」として先に世に出ていたなら、少なくとも日本でiPodの1ラインナップとしてのボリューム以上に成長したのかはわからないな、と思います。

(美和)一方、iPhoneだとしてもこのままの端末筐体では電話であることが基本であることが条件だと思います。AmazonのKindleが日本で成功するかどうかはさておき、プリントメディアをディスプレイに映す以上はそれに適した大きさや持ち具合の端末が出てこなければなりません。それを可能にするのが端末メーカーとか通信キャリアの動きだと思っています。
Appleも早晩、8インチ9インチといったiPhoneとMacbookの中間のサイズのディスプレイの端末を出すことになるでしょう(注:対談は2009年10月実施。2010年4月にiPadが米国で発売)。Appleはアメリカの出版社回りを始めているということのようですので、Kindleに対抗するような電子書籍ビジネスを始めるであろうことは容易に想像されます。

(倉沢)今、流行りのMID(Mobile Internet Devices)ですね。でもそれは、PCの画面やケータイの画面で見ることを前提として作られた現在のインターネットのコンテンツを見るにはいかにも不都合な感じがします。ビジネストレンドと逆行するのかもしれませんが、そこで書籍を見せるというなら、PCやケータイでインストールする専用ブラウザーのように、見やすい、読みやすいグラフィカル・ユーザー・インターフェースを構築しないと、買ってもらえるものも買ってもらえないのではないかと思うのですがいかがでしょう。

(美和)それは確かに当たっていて、その点でMIDの「Internet」という言葉はくせ者で、日本のマーケティングでは今後名前に工夫が必要かもしれませんね。
iPhoneはインターネット端末か、というと、今は端的に言えば楽曲やアプリを買って楽しむ端末であって、インターネットを閲覧すること自体を最終目的として利用している人は少数なのではないかと思います。オープンなインターネットの世界に不自由なくアクセスできるが、その中に半分コンテンツ流通を囲い込むプラットフォームがある、しかもPCでもケータイでもアクセスするよりも明らかな利便性や快適さがあるという、多くのデジタル端末ユーザーにとって心地よい世界をどう作れるかという点に、今後注目が集まってくると思います。iPhoneもその点ではまだ最終形とは言えませんが、独自のデジタル端末の中でできることについて独自の世界観を提示している際立った存在ではないかと思います。だからこそ、一般のユーザーが反応して買っているのだと見るべきでしょう。

(倉沢)さらに言えば、1990年代以来、iモード以前の時代に、携帯「電話」をモバイルデバイスにつないで映像を見たりメールを書いたりブラウジングしたり、という端末がいくつかあったのですが、ほぼすべて歴史のかなたに消えていきましたね。冒頭申し上げたとおり、私はどうしてもそれがひっかかって、「MID?名前はいいからさ、今度はほんとうに大丈夫なの?」と思ってしまうのです。

(美和)過去、ノートPCとケータイ、ゲーム端末を除くあらゆるデジタルデバイスがニッチでとどまってしまっている根本的な理由は、少し考えておく必要があるなと思います。ノートPCからネットブックへの流れは、ネット接続の自在性やPC利用者の裾野の拡大という点が重要な切り口だと思うのですが、電子書籍端末を含むMIDの場合はコンテンツレイヤーの魅力的なサービスを統合してみせなければいけないところが大きな違いではないかと思います。
とはいえ、いまMIDと呼ばれる端末の開発に向けて各社の開発が進んでいることは事実で、PCやケータイのキープレイヤーたちが、性能上はネットブックと何ら変わらない高性能な端末を作り出そうとしています。CPUが1GHzという話も聞こえてきています。

(倉沢)通信ビジネスがデータ端末だけでも商売ができる時代になってきたということなのでしょうね。このタイミングだからこそ、多岐にわたる事業者が参画してくる状況が出現してきている、だから電通のように、多岐にわたる媒体ビジネスを行ってきた企業も当然パートナー候補としていろいろな声がかかることになります。一方で電通は日本中のほとんどの大企業から広告主対代理店という形でお金をもらっていますから、どの勢力争いにも加われずに中立的に動かねばならない難しい側面はありますね。

(美和)会社自身がどうこうということではなく情報やコミュニケーションの生態系全体について責任を持って考えていくべき立場にあると思います。インターネットが無料の情報のチャネルとして非常に伸びて、バナー広告で支えてきたのだけれども、最近伸び悩みがある、各契約者の通信料金はかなり高い水準に達している、という中で、別の収入形態であるコンテンツ課金にもう一度、光を当て直してみるべきだと思います。デジタル上でも商売しようとしている出版社や新聞社にとって次にどんな取り組みが必要なのか、を電通としても広告を基点にしつつ広告だけに留まらずに考えている、現在進行形の状態だと言えます。

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