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オピニオン メディアビジネスの新・未来地図 その3

【デジタルヲ読ム、読マセル、ト謂フコト~プリントメディアの近未来を語る~】
解題:黒船も動き、国内の巨人も動く。いま種をまくしかない

2010年06月07日 美和晃(電通 電通総研 コミュニケーションラボ チーフリサーチャー)、倉沢鉄也、浅川秀之山浦康史、今井 孝之、紅瀬雄太


(美和)1998年くらいに雑誌のあり方といった仕事に取り組んだのですが、当時はまだデジタルの「デ」の字も雑誌業界には聞かれなかった時代で、その頃は「雑誌のブランディング」つまり創刊休刊が相次ぐ雑誌を媒体として安定した存在に昇華させるにはどうするか、という問題意識が強かったことを思い出します。
その直後、本格的なITブームが来て、情報通信周りの仕事が多くなりまして、私自身はそういう意味ではデジタルプリントメディアの話は「ちょうど一周してきたな、ここからが面白いところだ」という感覚でいます。
さて、ご紹介のとおり、弊社もこの9月から雑誌をiPhone上で購入してぺらぺらめくり感覚で読むことができる「MAGASTORE」というサービスを始めました。
大局的に見れば、今後数年の間に現在のICTインフラが更新されていく時期にありますし、一方でiPhoneのように端末側の進化と価格低下が両立する進化形が出現してきて、App Storeという有料コンテンツや有料アプリの販売をするプラットフォームを充実させてきています。また米国でAmazonの電子ブックKindleが流行り、日本向けにも出荷開始(ただし、英語の出版物のみが読める)という状況になってきています。そういうタイミングで、雑誌媒体でも有料モデルが成立するのではないかと考える出版社も出てきている中で、弊社のMAGASTOREもそこに貢献すべく自然に取り組んでいると見ていただければよいと思います。

(倉沢)私が長々と述べた、オヤジ臭いネガティブな現状認識について、事実誤認はありますか?

(美和)ご紹介のありました通り、現在の出版業界は、ピークに達したのが1997年前後で、その後10年以上、新聞業界もそうですが、プリントメディア業界はあまりいい材料がないまま過ごしてきています。特にマンガ雑誌はそうですね。当時、ちょうど1990年代の頭がピークで、週刊少年ジャンプ650万部、といった時代があったのですが、今の発行部数はその大きくいえば半分を下回り3分の1ぐらいです。デジタルを含めた新しい取り組みが「焼け石に水」というご指摘もありましたが現状では取り組まざるを得ないというのが実のところだと思います。

(倉沢)産業としてうまくいってないのと同時に、家庭からの情報支出のシェアで見ても、プリントメディア業界は現在厳しい状況に立たされています。新聞と書籍のシェアがどんどん小さくなる一方、移動通信の電話・通信料はシェアがアップしています。

(美和)コンテンツの接触機会も支出も、デジタルプラットフォーム上で増加していることは明らかで、その主役がインターネットでありモバイルであるということも確かでしょう。20年~30年後、このデジタルプラットフォームが、少なくとも個別市場の拡大・縮小はあるにせよ全体として縮小しているという予想はないだろうと思います。国内産業のコミュニケーションプラットフォームとして伸びていくことが考えられる可能性があるのはデジタルだということです。
したがって、この2009年から2010年にかけてのタイミングで、プリントメディアについてデジタルプラットフォームのビジネス成長の種をまいておくことは、理にかなったことなのではないか、というのが、私が今日言いたいことのほぼすべてです。

(倉沢)これまでの出版とは、本というたった一つの商品群を作り出し、取次と書店をほぼ一気通貫する流通プラットフォーム上に乗せているビジネスだと言えます。新聞もまた、基本的には月額の宅配ビジネスを販売店が取り次いで、たった一つの商品群を売っている、というチャネルで完結してきました。そうではない時代だ、ということですね。

(美和)映像や音楽などを含むデジタルコンテンツ市場のプレイヤー(登場人物)には、端末メーカー、通信インフラ事業者、媒体広告、コンテンツ制作者などがありますが、これ以外のプレイヤーも含めてのバランスを取りながら、もしくは競争をしながら、出版社としてのプレゼンスを築いていかなければいけないというタイミングなのだということが、重要だと考え方えます。
Amazonが米国で出した初代のKindleは、今からすると非常にぎこちない形をしています。しかしこのプラットフォーム上では、ベストセラー級の書籍が9ドル台で読めてしまいます。サービスの開始時で9万冊を品揃えしていましたが、直近では約35万冊と、非常に速いペースでサービス内容を拡大させています。Kindle自体の出荷台数でも、2008年で約50万台、2009年はクリスマスシーズンまで加味した予想では競合商品(ソニー・リーダーなど)も含めて約300万台出荷されるとの報道があります。米国で300万台という規模は成長率を無視すれば決して大きくはありませんが、日本(人口4割強)で言うと120万台強、かつてPDAがいちばん売れていた時期以上、という勢いだと考えればいいです。

(倉沢)日本では単体の電子辞書の出荷台数が直近で250万台くらいですね。学生が学校で使うという需要が大きいですからね。

(美和)そうですね。今後日本でそこまで伸びてくる可能性は十分持っていると見るべきだと思います。Kindleの35万冊の品揃えという状態は、ロングテール部分のタイトルまで充実させてきたことを意味します。加えて、ニューヨークタイムズやウォールストリートジャーナルなどの新聞も月額10~15ドルで読めます。
米国の単行本の価格も、ここへ来てかつてほど高い値段では売ることができなくなってきているようです。最近の報道では、ウォルマートがベストセラー本を軒並み8.99ドルで売る「という暴挙に出た」とあります。8.99ドルだとおそらく仕入れ値を下回るのではないかと思います。単行本の販売合戦はデジタルかアナログ(紙)かにかかわらず米国でも始まっています。

(浅川)電通さんがはじめたMAGASTOREのプラットフォームは、GoogleのAndroidにも展開できるつくりなのですか。

(美和)ニュートラルに展開できるプラットフォーム、アプリとして構築されています。

(倉沢)そこは電通の鉄則で、おつきあいする企業を選ばずにいかなるメニューも出せます、という構造に最初からなるのです、という話は1990年代からあれこれとありました。広告主あるいは製造業がインターネット媒体を新規に作りました、という事態に対してどうオールラウンドに付き合うかは、電通という広告代理店に限らず、日販・トーハンも含めたあらゆる流通業態の悩みです。広告代理店と出版社の関係とは、雑誌広告の営業パートナーの側面と、書籍という製品を売る広告主の側面とが、本来的にあるわけです。私の電通に対する古いままの認識ですと、雑誌広告媒体担当と出版広告主担当は共存共栄の風土があります。やはり電通の動きは注目せざるを得ないですね。


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