オピニオン メディアビジネスの新・未来地図 その3
【デジタルヲ読ム、読マセル、ト謂フコト~プリントメディアの近未来を語る~】
コミュニケーションの必然性は重い
2010年07月26日 美和晃(電通 電通総研 コミュニケーションラボ チーフリサーチャー)、倉沢鉄也、浅川秀之、山浦康史、今井孝之、紅瀬雄太

(美和)それは普及戦略のステージの話でしょうね。例えばマクドナルドの店内だけで読める端末を用意して、カウンターにチェーンか何かでくっつけておいて、公衆無線LANから好きにダウンロードして読んでいってください、というようなプロモーションは有力ですね。
(倉沢)ファミレスや居酒屋で10インチくらいのペンタッチディスプレイを持ったメニュー端末が増えてきました。あれは過去も2,3度トレンドがありましたが、今回は定着しそうな勢いですね。注文ツールとしてはそこそこよいものだと感じますね。それはメニューと注文の必然性が極めて高いから、かろうじてそこに広告や占いなどのフローコンテンツを抱き合わせられるということかと思っています。
必然性というのはそう堅苦しいことでなくてもよくて、例えばかつてソニーやアップルのPCが実現した単純なかっこよさだけでも、時代を捉えれば十分必然性になりうるということが言えます。
(美和)ファミレス等でのメニュー端末も、かつて1990年代半ばぐらいに第1波が出回っていましたが、まだiモードもはじまっていない時代の一般ユーザーのリテラシーの前に、消えてしまいました。2005年くらいから、技術や価格もさることながら、ユーザーリテラシーの定着によってようやく第2波のメニュー端末が定着を始めたと思います。このメニュー端末の趨勢の話は、デジタルプリントメディアのデバイスの話に近いですね。これまでさんざんしくじってきた電子ブックですが、今回はようやく可能性が出てきたかなという印象です。
(倉沢)iモードから10年ちょっとたって、モバイルデバイスの小さい画面を長い時間見て操作する、という文化がようやく定着して、ここからでしょう。
(美和)必然性については、倉沢さんの言う機能的な必然性、ファッションとしての必然性、に加えて、コミュニケーション渇望の必然性も忘れてはいけないと思っています。今のインターネットに慣れた人たちが求めるのは、オフィシャルなコンテンツをネタにしていかに自分たちがコミュニティーで楽しめるか、コミュニケーションでつながり続けていられるか、ということです。ネタの消費を共有する場を持っていることが大前提の生活をしている人たちに、出版業界が1対nでオフィシャルコンテンツを流すだけでなく、それを素材にしての双方向性、またn対nでのコミュニティーの形成、といった取り組みを提示していくことが大事な突破口で、それを取り組まないと紙の単純再生産で終わってしまうのです。
(倉沢)そこは、一般ユーザーがさらに先に行っているという点で、問題提起してみます。いわゆるダブルウインドウ視聴について、30インチ・2mのテレビと、2.5インチ・30cmのケータイ、さらには17インチ・50cmのPC、という画面を複数同時に使いこなすことが当然のようになってきている中で、ネタを読んでしかもコミュニケーションを行うディスプレイの大きさは10インチくらいでも苦しいのではないかと思うのです。
デジタルプリントメディアの端末に10インチのディスプレイが与えられたときに、人はどういうふうにこの大きさのディスプレイと付き合っていくのか、エンタメとコミュニケーションを一つの画面でこなせるのか、テレビ+ケータイでなしえたやり口を1個の画面でできるのだろうか、というあたりは電子書籍配信の近未来形として、見物というかお手並み拝見、という印象を持っています。
1画面でできることの限界の例は、ワンセグがわかりやすいでしょう。テレビを見てサイトに飛んでいく、テレビに戻って来られない、という仕組みの問題もあって、通信キャリアとしてはワンセグ搭載によるパケット回線利用増加策は、見事にしくじったという現状認識をしています。緊急または手持ちぶさたに見るテレビでしかなかったというのは、この5年ぐらいのワンセグ利用の実態ではっきりしたということです。

(宮脇)2ちゃんねるでもテレビの実況でどんどんコメントがありますから、それのiPhone版というべきものですね。現代はケータイで長文を打ちまくる人も多くなってきていますしね。
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