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オピニオン  メディアビジネスの新・未来地図 その3

【デジタルヲ読ム、読マセル、ト謂フコト~プリントメディアの近未来を語る~】
おさらい:出版業界にデジタル化以外の突破口なし

2010年06月07日 美和晃(電通 電通総研 コミュニケーションラボ チーフリサーチャー)、倉沢鉄也、浅川秀之山浦康史、今井孝之、紅瀬雄太、山浦康史


(本稿は、2009年10月に実施した討論会の再録です。所属、肩書きはいずれも当時。見出しは日本総研が作成。当時の予想や未確定情報に関わる一部記述に、お読みの時点から公知となった情報があり、事実と異なる記述がある点ご了承下さい。)

(倉沢)美和さんとは十数年一緒に過ごしてきましたが、美和さんが雑誌とデジタルの話に取り組んで、もうずいぶん長くなりましたね。
ここにいる日本総研のメンバーはみなメディアコンテンツ分野を得意としていますが、あえて出版のデジタル化に関わる基本情報をおさらいしておきます。
私の理解で結論を先に言うと、出版業界を救うには、今のところデジタルに突っ込んでいく以外の明るい道はなさそうだな、ということです。結果として、デジタルプリントメディアをモバイルツールで読む、つまりケータイで行われているビジネスの世界に出版業がどう入っていくかという話になっていきます。したがって、通信コンテンツに出版物、出版ビジネスというものが果たして馴染むのか否かを、読者(ユーザー)のことも頭に置いて考えていく必要があります。
売上高や冊数の推移で明らかなとおり、現状では斜陽産業といわざるを得ません。しかし規模としては相変わらず「兆」の桁で末端市場が存在しています。ビジネス面の数字だけを見ると、「書籍」の数字はあまり減ってない、むしろ微増の時もある、その代わりに「雑誌」がひどく落ちている、ということになるのですが、では書籍はイケてるのかというと、全然そうではないという認識を念頭に置かなければなりません。
「出版取次(とりつぎ)業」の話が、今回何度か出てくることになります。出版物の流通を担う業界ですが、ここがおそらく世界的に特殊な業界構造になっています。日本ではネットも含めて出版物の98%くらいが取次を介しますが、欧米では3割4割程度でしかないようです。そして日販とトーハンというわずか2社で8割程度のシェアを持っています。ネット上書店を含めて出版物のビジネスを全部把握しているのが、たった2つの会社なのです。
取次は、出版ビジネスのリスクを負う構造を持っています。出版社への支払と書店からの収入のタイムラグを支える優秀なキャッシュフローを持っていますし、注文がなくても新刊本を自動的に一定量「配本」してくれる役割も担います。書店での売れ残りは取次を経由して出版社に戻す仕組み、これを委託販売と呼びますが、書店に負荷をかけない仕組みを成り立たせている立役者でもあります。商品の在庫を自分で抱えることは長らくしてこなかったのですが、ネット書店の隆盛で取次自身も在庫を保持するようになりました。したがって、日販とトーハンが今後デジタルに対してどう動くのか、どう動かされるのかというのは重要な論点になります。
ネット書店は、最大手のAmazonが数字を何も公開していないのですが、推論に推論を重ねていくと、2兆円/年の出版市場のうち実はネット書店で400億円程度ではないかと考えられます。セブンアンドアイや楽天などの大手も150億円程度ですので、ネット書店全体が大きく見ても2割(4000億円)に過ぎません。つまりあと8割はいまだにリアルの書店で買われている本だ、ということです。一方そのリアルの書店で昔懐かしい書店注文している人は1割を切っていますので、要するにオンデマンドで本を買うという行為は実は出版市場においてまだマイノリティーなのです。本屋にふらっと寄って、立ち読みして、その場で買いたくなったものを買う行為がマジョリティー、という状態が続いています。
しかしそのリアルの書店が次々に閉鎖していく(書店数が激減する)という状態はビジネスの構造としては根本的におかしい、やばい、という状態を迎えていると解釈すべきだと思います。
出版不況と言われて久しいですが、何が不況かとうと、雑誌とくに週刊誌が売れないことに尽きます。雑誌の広告が入らないから雑誌が休刊・廃刊に追い込まれ、雑誌数が減ります。そして出版業界では長らく雑誌の儲けを書籍に回すという社内取引がずっと行われていて、書籍流通のインフラ整備コストを含めて出版物が安定して配られているという状況も全部雑誌が支えてきたものですから、雑誌ビジネスが崩壊すると出版流通の仕組みそのものが崩壊する危険が出てきます。
出版社がつぶれるリスクも増えてきます。中小出版社はどんどんつぶれてしまっていますが、大手出版社は本来のリアルな本の売り上げ以外の部分、具体的にはキャラクタービジネス、海外に版権を出す、映像化権を得る、電子書籍、電子雑誌、特定クライアント作業で雑誌制作を受注する、というビジネス群で収益増を図ってはいます。これはボリューム面では焼け石に水と言わざるを得ません。テレビ局のこの手のビジネスと同じです。30年後に大手出版社がこのビジネスに転換している、というのはちょっと考えがたい、しかし、今じたばたせざるを得ない、ということです。
では、一般市民はみな本を読んでいないのかというと、ちゃんと読んでいます。相変わらず接触率の高い媒体ではあり続けていて、その側面で見ると雑誌の広告価値は実は変わらないのですが、近年のネット広告の影響が大きく、広告主は広告のアウトカム(認知されたか、広告が読まれたか、商品が売れたか)を細かく求め、部数と読者ターゲットでしか説明できない雑誌広告は避けられてしまいます。もちろん広告市場全体が不況で低迷中ですが、媒体接触の実情と広告取引において、インターネットに敗北している端的な姿のひとつではあろうと思います。
今日の話の電子書籍は、市場規模としては2兆円の中のたった500億円の話ではありますが、どんどん伸びていますので今後どうなるかわからない、特にケータイの公式サイト向けが伸び続けるだろう、という話として位置づけることができます。そのうち多くが公式サイトの売上だということは、ケータイキャリアに対してちゃんとした形で古い出版社が入り込んでいるという構造ゆえです。電子雑誌もはじまっていますが、雑誌は紙の雑誌を売るためのアウトレットとして位置づけているので、どうしても単体で採算を採っていくという構造になりにくいし、今はまだ遠く届かないというところです。
雑誌広告が悪いというなら、フリーペーパーはどうなのだ、という指摘もあるでしょう。2008年まではフリーペーパーは調子よかったのですが、不況が直撃して対前年比94%か 95%まで落ちました。3000億円を超える侮れない市場規模ですが盛衰が激しいので、古い出版社の将来をかける場所ではどうもなさそうだ、という認識なのだと思います。
電子書籍ユーザーというのは、昨今流行ってきたケータイ小説に象徴されるようなイメージもあるでしょうが、データで見ると「若い女性が無料でマンガを読む」に尽きると言えます。人づての話ですが、女子高生あたりがケータイ小説を書いて大流行り、という手のブームが急激に終わりつつあるらしいとのことです。読む側は読みたいようですが、出版社が作者に対して「紙の本に出して売る権利」を保持して投資回収しようとすると、若々しい作風がなくなっていくというような話を、不確かですが、聞いたことがあります。
いずれにしてもまだ使っていない層が圧倒的に多いので、市場のフロンティアはありますよ、とも言えます。
すでに電子書籍について新しい動きも出てきています。電通の話もあるので美和さんも話しにくいところかと思いますが、私見で申し上げると「電通がまた書籍流通を乗っ取ろうとしていておどろおどろしい」という認識があるならそれは根本的に間違いだと言えます。それは追って議論しましょう。
最後に、日本の出版ビジネスはどこへ行くのかと言うと、理論的には3通りあります
1つめは「世界で一番書籍が安いと言われる国・ニッポン」を改めて書籍の価格を引き上げて出版流通システム全体を支えることですが、荒唐無稽です。2つめはコストダウンですが、これももうずいぶん取り組んできたので画期的な成果は無理です。そうすると残る手立ては、流通形態の改善をして生産性を向上させること、特に返本率を下げなければいけない、ということになります。外科手術的な改善策としては「委託販売」をやめて「売り切り」すなわち書店に在庫リスクを抱えて売ってもらう、という話なのですが、より現実的にそこを解決しようと思ったときに、デジタル書籍というルートがある、デジタルであれば日販トーハン以外もできる、あるいは日販トーハンもできる、ということで、ネットでやろうという方針が業界全体の唯一明るい話題にならざるを得ない、というのが現状です。
ただ、電子ブックデバイスの類は過去ろくすっぽうまくいったものはないことも明らかです。「今回は今までと何が違うのさ!」というオヤジ臭い問題提起をとりあえず出しておいて、今回はどう本物っぽいのか、というあたりを美和さんから教えてもらおうと思っています。
前振りが長くなりましたが、美和さんから昨今の取り組みについて聞かせていただきます。

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