オピニオン メディアビジネスの新・未来地図 その3
【デジタルヲ読ム、読マセル、ト謂フコト~プリントメディアの近未来を語る~】
本を電子化するだけで、作るほうも読むほうも今は手一杯
2010年06月28日 美和晃(電通 電通総研 コミュニケーションラボ チーフリサーチャー)、倉沢鉄也、浅川秀之、山浦康史、今井孝之、紅瀬雄太
(宮脇)倉沢さんの言っているところは、現在紙になっている「本」を電子化して読むのですか?という話ですよね。今、美和さんが言っていることの端々には、電子ブックでなければ見られないコンテンツが出現してくるので、それこそを電子ブックで読みましょう、ということを感じました。そもそも紙の雑誌の発行部数が減っている一方で、接触時間があまり変わらない、そこに電子ブックが立ち上がる、ということは、新規に本ではないものが電子ブックによって読まれる、それは一定の需要がある、という理解をすればいいのでしょうか。少なくとも紙が電子に単純に置き換わるだけではビジネスとして花開かないのではないかと思うのですが、どう考えたらいいですか。

ところが書籍全体というのは、マンガ以上に膨大なラインナップになります。これをデジタルプラットフォーム上に載せていく初期作業だけで一苦労です。
(倉沢)そこでGoogleは「俺たちだったらできる」といってやってしまって、やってくれたことは実はありがたいのだけれどそこで高いマージンをとるのは許せないというので、いま、本に関わる世界中の人を相手に裁判しているわけですね。
(美和)デジタル化する体力との勝負で言えば、国立国会図書館を除くと民間企業ではGoogleがやらずして誰にできるのかという現実に直面しているのですが、電子化した後のの出口の小売市場を育てるときに、純文学なのか、売れ線の映画タイアップ小説なのか、どこから取り組むのが得策なのかについて細かく検討していかなければならないと思います。
(前田)雑誌の中でマッシュアップしてほかの音声や映像のコンテンツと結びつけていく動きは現在始まっているのでしょうか。

(前田)まず雑誌をデジタルで読むという概念設定をビジネスとして確立させるということが重要なのですね。
(美和)技術的には、ご指摘のマッシュアップも含めて様々な対応が可能ですので、対応は徐々に柔軟にしていくことになると思います。あとは、マッシュアップの手間の問題になりますね。
(倉沢)マッシュアップというのは、口で言うのは簡単ですが、制作面の手間も大きいですし、広告セールスも含めた収益モデル上の手間も大きいです。その両方をクリアできる採算、それはすなわちアクセス数の規模を獲得しないと、マッシュアップの段階に入っていきません。まずはデジタル雑誌を買ってもらって、紙とデジタル一体で雑誌広告を売って、規模の拡大を待つしかないというのが現実解なのでしょう。
続きへ
このページの先頭に戻る
関連リンク
- 1.おさらい:出版業界にデジタル化以外の突破口なし
2.解題:黒船も動き、国内の巨人も動く。いま種をまくしかない
3.広告媒体としての値付けを賭けて「デジタル上でプレゼンスを築く」
4.ネット広告に起こる、視聴時間と収入のアンバランス
5.MID(MOBILE INTERNET DEVICES)でデジタルプリントメディアが救えるのか
6.異業種の会話は、強者からレベルをあわせる必要
7.誰が、いつどこでどう読むのか
8.本を電子化するだけで、作るほうも読むほうも今は手一杯
9.同じデジタルでも、新聞と雑誌とマンガは別々の議論
10.ディスプレイの大きさ、薄さ、通信速度、の妙がカギ
11.プラットフォーマーは、通信キャリアか、端末メーカーか
12.フラッグシップは、またも黒船待ちなのか
13.「雑誌のような広告」の姿はいかに。ビジネスはいかに
14.「デジタルプリントメディアデバイス」の必然性を強める
15.コミュニケーションの必然性は重い
16.ターゲットは「86」や「76」の上、購買力ある中年男性か
17.大手出版社の活路と市場が、ほんとうにあるのか
18.出版業界にプロデュース人材は存在するのか
19.広告主はこのメディアを一緒に育ててくれるのか
20.雑誌そのものの魅力は維持できているのか