オピニオン メディアビジネスの新・未来地図 その4
【ブログパワーは、どこから来てどこへ行くのか】
CtoCレコメンデーションのeコマースは、ビジネスの本命か
2010年07月12日 須田 伸(サイバーエージェント コミュニケーションディレクター)、倉沢鉄也、今井孝之
(倉沢)須田さんがおっしゃるような、ギリギリの線を広告主と進もうとしたときに、購買まで結びつける流れがブログやSNSですでに充実してきていますね。個人のeコマース全体というマクロなデータで見るとまだ少数派のようですが、ブログなどのCtoCのコミュニケーションに起因するeコマースのレコメンデーションは、ブログビジネスの本命として取り組まれていくのでしょうか。
(須田)現在のビジネスモデルが数年で抜本的に変わるということは考えにくいですが、ブログ内のコミュニケーションによる商品のレコメンデーション力は、ある一定の影響力は常に持っていると思います。その上で、日本では、ユーザーの認識レベル、政府として設けるべき最小限のライン、広告主や媒体側が設けるべき自主規制のライン、といったものの共通のグラウンドをどこに見いだすか、という議論が、伸びていくこのマーケットの中で当然なされていくと思います。

しかし、特に法律は、主要企業の自主規制でも排除できないような最小限の線引きであるべきで、例えば振りこめ詐欺的なもの、押し売り的なもの、悪質な広告サービス、を取り締まるために機能すべきです。本線は、運営側やユーザー個人がモラルを意識して行動することが重要だと思います。
(倉沢)最小限の規制については、すでにテレビも含めたマスメディア業界、通販事業者業界、大手広告主などの自主規制ガイドラインや事例があり、犯罪に近くなれば消費者保護の各種法律がすでにありますから、その延長上で拡張して適用されていくでしょう。問題は、プレイヤーが媒体側も広告主側もこれまでとは大きく違うということですね。

米国で2009年12月1日施行の、新たな法規制があります。FTC(Federal Trade Commission:連邦取引委員会。独占禁止や消費者保護を管轄)が、Guide Concerning the Use of Endorsements and Testimonials in Advertising(広告における推奨広告もしくは実証広告・証言広告に関する規定)を1980年以来30年ぶりに改定しました。1件1万1,000ドル(100万円弱)の罰則金がついて、すべての推奨(レコメンデーション)広告についてケースバイケースで判断をする、となっています。
これは、ブログ運営者と広告主の関係のみならず、ブログ運営者とブログユーザーとの関係も規定します。つまり事実上ユーザーがエントリーする内容へも規制がかかり、管理責任は運営者が負うことになります。そうなった経緯としては、やはりブログの影響力は大きかったようです。
ブログユーザーとは決して無名の個人だけではなくて、ハリウッドスターなどの著名人も含めて、Twitterも含めたブログ上で「この商品、いいよね」と書いている場合、実は裏で広告契約、モニター契約がある、金品の授受がある、ということならそれは推奨広告であって客観的記述ではないので、消費者保護の観点からもし被害が届けられたら、あるいは記述内容が純粋に客観的でない場合や多面的に検証した実験結果でなかった場合、そのことを告発されると書いた本人も罰則の対象となる、という仕組みです。
日本で同様の規制が作られる可能性がどれぐらいあるのか、規制が作られた場合、米国と同様にすべてのメディアが対象となるのか、摘発対象となる事例は結構な数あるのではないか、という点が問題になると思います。あるいはインターネットだけが規制の対象になるのかもしれません。テレビや新聞の報道の立ち位置を見ている限り、そうなる可能性もあるなと注視しています。
(倉沢)実態を定量的にはわかっていませんが、そもそもマスコミの中でもテレビや雑誌の特集では紹介する商品や店舗と少なからず金品のやりとりはあるはずです。広告露出費用と取材謝礼で相殺になっているとしても、事実上は相互の利益供与ですよね。それがCtoCの出現でよけいに目立つようになって来ました。
(須田)実際に日本で規制がかかった場合、「地獄の釜のふたを開ける」ことになってしまうのは、ターゲット別雑誌、具体的にはハイファッション誌、クルマ雑誌、旅行誌、などではないかと思います。そうした雑誌の記事自体が推奨広告規制の対象であり、そのジャーナリストがブログに同様の趣旨のことを書けば、これがまさに推奨広告規制の対象になります。こうしたことが米国ですでに現実となり、すべてのメディアが対象ですので、特集記事、タイアップ記事的な内容を伴うすべての「Paid-Publicity」コンテンツできわめて多くの事例が規制の対象となっていくことから、事態の趨勢を関係者が強く懸念している状態です。
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