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オピニオン メディアビジネスの新・未来地図 その4

【ブログパワーは、どこから来てどこへ行くのか】
米国新法の影響:広告表現のゆり戻し?

2010年07月20日 須田 伸(サイバーエージェント コミュニケーションディレクター)、倉沢鉄也、今井孝之、今井孝之


(倉沢)そうした法律が敷かれてしまうと、広告について逆のアプローチも出てくる可能性はないでしょうか。商品への誘引の要素をなるべく削除して、ファクトをただ淡々と並べた情報と、まったくマジカルでクリエイティブな抽象的表現、の両極端、あるいはその2つの合体による広告表現も出てくるのではないかと思いますが、いかがでしょう。

(須田)それが現場にとってはもっともよい形の突破口だと思います。映画的にファンタジーを表現した世界でのクリエーティブを競うという、本来CMが最も得意としてきたところが、この10年ぐらいネガティブに語られてきました。広告が効かない、売れるためには、という目的を追求しているうちに、購買誘引のPR的なくどい手法に突入していったのです。そこにたまたまインターネットが成長してきて、その購買誘引にちょうどいいツールだったのでますます加速して、ブログユーザーに商品サンプルを渡して書かせたり、専門家に電話して聞いて90%が推奨していると言ってみたり、ということがエスカレートしてきたのです。そろそろゲームのルールを見直さないと、アウトとセーフの境目がはっきりしないね、その基準は消費者保護からいきましょう、というのが米国の新法なのでしょう。1990年代までは、売らんかなのえげつない物言いはユーザーに嫌われます、という流れで来たものを、この10年どんどん取り組んで、今になってユーザーが騙されたと後で思うような格好で説得するのはだめだよ、と歯止めをかけつつあるのです。広告業界が本来得意としてきたマジックはOKだけれど、マジックと詐欺は違う、という話だと思います。

(倉沢)広告のクリエーティブも、芸術的に感動させるやり方もあれば、かつて佐藤雅彦さんが「モルツ」や「文豪」で一斉を風靡したような、商品名を音声や映像で連呼するというスタイルもあると思います。佐藤さんは販売促進担当出身と聞いていますので、CMプランナーとしても、売るために刷り込む、というアプローチだったと聞いています。またアートディレクションとしても、瞬時に映して刷り込むというサブリミナル広告手法も、規制ギリギリの効果的手法がまだ残されているのではないかと思います。ブログに話を戻しますと、そうした表現で、なんとなくクリックしてもらう、ということをネット上でどう表現するかというアプローチはまだ広告主ともども開拓の余地があるのではないかと思うのです。

(須田)Viral Movie(心理面へ感染力の強い映像)のアプローチも言われて10年くらい経つと思いますが、明確に広告効果を向上させたバイラルムービーの事例はまだきわめて少ないと思いますね。米国のサブリミナル広告の規制は厳しいですし、そこに注力するよりもレコメンデーション的なアプローチを突き進まざるを得なくなっていたのだと思います。

(前田)今回の米国の新法について、日本の関係者の声はどうなっていますか。

(須田)日米の業界関係者とも同じことを言っています。これがそのまま適用されたら大変なことになるという認識です。米国では、これはオバマ政権の経済刺激策の一環なのではないかという冗談すら聞いています。つまりこの新法導入で、紛争解決や防衛策のために弁護士の仕事が増え、広告も全面的に作り替える必要が生じて発注が増えるので、景気が刺激される、というブラックジョークです。日本でも、現在(2009年11月)の消費者担当大臣であればこの施策を実施に移しかねない、できるだけそうならないうちに、業界の自主規制をきちんと実践しておかねばならない、という話になっています。

(倉沢)この自主規制が、インターネット広告、特にブログでの広告では、手間として重たいですね。マスメディアは媒体も広告主もプレイヤーの数に限りがあり、通販業界も淘汰されて何とか数えればわかるレベルまで来たでしょう。こうした表現上の自主規制の集団に、2ちゃんねるも含めた有力なISPが参加していないケースがありますね。「申し合わせの場」にいないプレイヤーにどこまで自主規制を期待できるのかについての評判は、まじめに対応しているISPにもネガティブに働いてしまうリスクがありますね。

(須田)そこは悩ましいですね。インターネットのいいところの一つは、参入障壁が低くて20年前には存在もしなかったような会社が、GoogleやYahoo!や、国内ではサイバーエージェントやミクシィのように出現してきたという点にあるのですが、逆に今になってビッグプレイヤーも多くいる中で、後発の新しい会社がおかしなことで儲けようと思った時にも簡単に入ってくることができ、それを見た広告主が「こういうサービスをやっている会社もあるんだから、アメーバブログでもやってほしい」ということを言われるケースもないわけではないのです。ですから、マスメディアはおっしゃるとおりにプレイヤーが限られますし、免許などそれぞれの政府の規制もありますので、いまさら法律で規制する必要はないのだと思いますが、やはり全部のメディアに対して最小限の規制があったほうが、インターネット上でまっとうなビジネスをやっている会社にとってメリットがあるのは事実です。規制のさじ加減は難しいところですが、まったく規制がないことの損害のほうが、ビッグプレイヤーにとってはもはや大きいかもしれません。

(倉沢)まっとうなビジネスにさらに網をかけようとしている携帯電話のフィルタリング、あるいは自治体の条例で動き出してしまった「子どもは携帯電話を所持禁止」という話は、少なくともアメーバブログのビジネスから見ると余計なお世話でしょうし、先ほどの新聞社説の話も同様の反動的な権力濫用という気がします。政府としての動きは現在控えめですが、雰囲気で左右されそうなことでもあり、しばらくは要注意だと思っています。

(須田)消費者保護や青少年保護については、以前からもせめぎ合いはあって、政治のスタンドプレーが目立つ、という印象は正直言ってあります。最終的にはより健全な方向に向かっていくと信じたいし、そうなる働きかけを、アメーバブログとしても、ユーザーや関係各方面に対して地道に行っていくしかないのかなと思います。

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