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オピニオン メディアビジネスの新・未来地図 その4

【ブログパワーは、どこから来てどこへ行くのか】
ブログが形成するマス・オピニオンのパワーは如何に

2010年06月14日 須田 伸(サイバーエージェント コミュニケーションディレクター)、倉沢鉄也、今井孝之


(倉沢)そうした裾野の広がったユーザーボリュームを使って、ブログ運営側としては広告やコマースを中心としたビジネスをしないといけないのですが、いかにもビジネス臭いテレビや大手ポータルのバナーと違って、個人的なやりとりをしているブログの横から下から広告が飛び出したり、次々にメールが来たりすることは、裾野の広がったユーザーからは商売臭く見えたりしないのでしょうか。ヘビーユーザーはそうしたことに慣れているから気にならないという考えもあれば、広告効果がない、逆に裾野が広がったら商売臭いものに食いつきやすいユーザーが増えた、広告市場が成り立ちやすくなった、という見方もあります。

(須田)何を持って商売臭いかという定義が難しいのですが、基本的にメディアというものはNHKを除けば広告料金がビジネスとして成り立たせていることは暗黙の了解でしょう。まったく無料で広告も何もないのなら、急に何かを買わされたりしないか、という不安を感じる、ということもあるかと思います。
ふつうにバナー広告が置いてあることで、ああ、ここで利益を得ているんだね、ということがユーザーに明らかなほうが、安心感、健全感を持ってもらえるのではないでしょうか。

(倉沢)なるほど。安心感と商売臭さは同居するということですか。eコマースと直結するのにイメージ広告というわけにもいかないでしょうし、ネットの場で買えることを望んでいるケースも多いでしょう。広告主も媒体側もブランドを自ら壊すような広告は出さないのだから、あまり心配しなくてもよさそうですね。
そうやってマスボリュームの地位を獲得してきたブログは、個々には個人的な情報発信や返信なのでしょうが、ブログサイト全体としてマス・オピニオンを形成するということが起きるのでしょうか。サイト運営側としてあるネタを一斉に配信したとき、多数派のレスポンスはもはや無視できない人数にのぼると思うのです。それは今お話のあったコンテンツや広告の受動的なマス効果の側面も、ビジネスとしては成立するのではないかと思うのです。

(須田)何をもってマスと呼ぶかも難しいですね。少なくとも、かつての紅白歌合戦、視聴率70%当たり前、のようなマス・インパクトをインターネットがすぐに実現できるかというと、そんなに簡単なことではないです。
テレビのすごさは、一瞬で数千万人に届くリーチ力と、チャンネル数が限られている、という2つの要因によると思っています。
インターネットがブロードバンド化して放送のような動画素材を大勢の人がアクセスしても十分サーバー事業者の収支が成り立つ、という時代も間もなく来るでしょうが、かつてのテレビが享受した圧倒的な寡占状態をインターネット上で実現するプレイヤーが出てくるとは思えません。おそらく数百、数千、数万というチャンネルが常に放送されている状態になるでしょう。
ただ、エンターテイメント系のコンテンツ側から面白い動きも出てきています。先日U2(アイルランド出身の大御所ロックバンド)がYouTube上で世界同時配信ライブを行ったのですが、Twitter上でハッシュタグというものをつけて、「今U2のライブを見ているよ」という人たちがどんどんコメントしたものが一覧できる、という仕組みをつくりました。世界中の人が同時体験している、それを臨場感として味わいながら、ライブのカメラがどんどん切り替わって、自分の知っている曲が次々と歌われる、というもので、個人的には、インターネット上のライブ配信でちゃんと見て面白いなと思ったのは初めてと言っていいぐらいの経験でした。この同時体験性というのは今まで日本のテレビの枠組みでは実現しなかったものなので、今までとは違ったマスの姿を見た思いがしました。今後どういうふうに進化していくか興味深いです。

(倉沢)ブログが世界を変えるのだ、これは市民革命思想だ、ということを、明言はしなくてもオーラとして出しているインターネット論者が、ネットにもリアルにもたくさん出現しました。その中で、ワールドワイドに政治的、社会的、あるいは証券市場が乱高下するような経済的な合意形成がブログの場から発生する、というものの見方に対して、個人的にどうしてもネガティブに思ってしまうのです。音楽やスポーツなどのコンテンツはご指摘のように世界中の共感を生むにはちょうどよいものだと思いますが、そういう意味での、商売臭さと表現したのとは逆の意味でのきな臭さ、火薬臭さとでも言うべきコミュニケーションの可能性はどうお考えですか。

(須田)そういう合意が形成される場面もあるかもしれないですが、むしろ障害になるのは言語の壁ではないでしょうか。ネット上の英語や中国語を翻訳して読むということも難しくなくなっていますが、やはり完全ではないですし、少なくともリアルタイムに異なる言語で話し合うことはまだ当面できそうもないです。これに関する議論は最近よく聞きますが、日本語教育を強化すべし、いや英語教育を充実させるべし、ということも含めて、議論はもっとさかんになるのではないでしょうか。

(倉沢)その言語という側面で見たときに、運営側は運営上の言語の問題さえクリアできればワールドワイドに活動展開が可能ですよね。このブログ・SNSの産業はドメスティックで完結するのでしょうか、逆に黒船は来るという認識はあるのでしょうか。英語圏では国際競争があるでしょうから、まだ日本に来ていないのは単に言語が参入障壁になっているだけなのでしょうか。

(須田)英語圏ではfacebookも含めてワールドワイドペースの国際競争は確かにあります。やはり日本語の壁というのは、運営側にも参加側にもあると思います。Mixi、楽天、Yahoo! Japanは日本企業と日本人個人の資本がかなり入っている会社です。まったく外国資本のGoogleとの比較で言えば、Yahoo!がまだ検索において強い。中国の検索サイト百度(バイドゥ)もドメスティック企業として健在です。言語固有の問題としては、やはり1バイト言語(アルファベット)か2バイト言語(それ以外の文字)か、の影響も大きいと思います。
アメーバブログとしても、日本のマーケットの中である程度頭打ちとなったときに、英語圏での国際競争に入り込んでいくという選択肢はあります。実際に、facebook上で動く忍者ゲームを実はサイバーエージェントが提供しています。まだ始めたばかりで、ほんのささやかな取り組みですが、いくつかの国際競争に参加し始めています。

(倉沢)インターネットに参入障壁も何もないのですが、念のため、黒船対策という観点で、制度面など何か期待することはありますか。

(須田)来るべき黒船は来るし、来ないものは逆に日本語の壁ではじかれてしまうので、産業保護として制度面で期待することはとくにないですが、逆に言えば健康的な競争が国内で保たれることが一番いいのかなと思います。産業政策の恩恵や国の免許制度に対して、ほぼまったく恩恵を受けないでやってきた業界なので、規制や保護の関わりを持つとかえって面倒で非効率なことがたくさん起きるような気がします。もちろん一定の規制が必要となってくる局面もあると理解しています。

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