コンサルティングサービス
経営コラム
経済・政策レポート
会社情報

経営コラム

オピニオン メディアビジネスの新・未来地図 その4

【ブログパワーは、どこから来てどこへ行くのか】
米国の推奨広告規制はじまる

2010年07月12日 須田 伸(サイバーエージェント コミュニケーションディレクター)、倉沢鉄也、今井孝之、今井孝之


(宮脇)米国では対象はすべてのメディアですか。厳しいですね。

(須田)すべてのメディアですね。テレビも、インターネットも、です。インターネット上で80ページほどの資料全文をPDFで入手できます。この中で規制対象事例をいくつか紹介してみます。
例えば、ダイエットの使用前使用後でこんなに違う、というケースを広告として出そうとする場合、その健康食品を30日間飲んで体重が60キロだった女性が40キロになりましたという内容について、日本では「個人の感想であり、商品の効能を保証するものではありません……」と書きますね。英語でも「Result Typical」という、日本語と同じ内容を記せば許されてきました。こういうことが2009年12月1日から全部禁止になるはずです。あくまでも一般の人が普通の生活の中でこの健康食品を飲んだら、誰もがある程度享受できるであろう効果・効能しかうたってはいけないという規制になっています。20キロ痩せたという人が、この健康食品以外は毎日生野菜しか食べなかった、なおかつジムに毎日6時間行ってワークアウトした、その結果20キロ痩せたという場合にはそれを全部書いた場合だけ20キロ痩せたという結果を言ってもいいのです。それは見た人が、「確かにこのお茶以外は生野菜しか食べないで、1日に6時間もジムに行ってて、しかも体重が60キロあったんだったら、それは20キロくらいは痩せるよね」、というように認識できる内容はOKだけれども、単にこの健康食品を飲んで、あとは日常の食事に気をつけて、毎日軽い運動をしていたら20キロ痩せました、という表現ではアウトだ、と書かれています。
また、本の出版社の社員がその本に関してAmazonなどのネット書店にレビューを書く、というケースがあります。これは利害関係者の記述内容ですから、この本に関わる自らの身分を明らかにしないで、それを読む人が「普通の人だ」と思って読めてしまったらそれはアウトになるのです。「著者です」「出版社の担当編集です」「担当はしていませんがその出版社の社員です」と記すならOKだということです。本のレビューの場合、献本を受けた人も利害関係者になる可能性があるとのことです。2000円なりを出して買っていない人は客観的な記述ではない、という解釈になるようです。

(倉沢)具体的に取材に協力した人はともかく、ある種の敬意や日常の御礼として献本されることを、著者や出版社からの利益供与と考える人は少ないでしょう。これは厳しいですね。

(須田)あるいは、「米国科学協会の実験の結果、ダイエット効果があることが証明されました」という表現を使おうとしたとき、この米国科学協会とやらの資本構成がどうなっているのか、当該食品の製造・流通に関わる企業の資本や取引関係があれば、アウトになります。もし資本関係的にはまったくクリーンな団体による調査だったとしても、ダイエット効果を検証する実験の費用、関わったスタッフの費用がそのメーカーから委託研究業務として拠出されていれば、その委託の存在を明らかにして、実験結果を示すならOKだが、それを述べずに実験結果のみ示すのはアウト、となります。
また、運動選手が自宅トレーニング機器のCMで「今まで使ったどんなトレーニング機械よりもこれは一番いい」と言っているのに、実際に彼の家にはその商品がなかった場合はアウトになります。これは普通の広告の中で使われてきた手法ですが、「この人は本当に自分のことを言っているんだな」と思わせたらアウトで、意図的に作っている場合には、この原稿はCMプランナーが書いたものである、と明示しないと、広告主、代理店、撮影にかかわったスタッフ、そして出演した運動選手本人が規制の対象になり、罰金を負い、消費者の訴訟があれば負けることになります。
次の事例は興味深いです。あるセレブがCMの撮影現場に行きます。丸ごとチキンを焼くのに、このバッグに入れると30分で完璧に焼き上がるという商品でした。ところが撮影現場に行ってこのセレブはスタッフが30分でチキンを焼くテストをやったところ、5回やって5回とも失敗して、実際には1時間焼かないと焼けなかった、という事実を見たあとで、さてカメラの前でこの台本読んでください、と渡されてカメラが回りました。まだ焼かれてないチキンをそのバッグに入れ、オーブンAに入れます。次のカメラカットで、オーブンBからすでに完璧に焼き上がったチキンを出して、一口食べて、渡された台本にあったとおり、「あなたも30分で完璧なチキンを自宅で食べたければ、この商品を買うべきです」と話すとします。このセレブは、故意に虚偽の証言をしたのでこの規制の対象となるのです。 現場で台本に逆らって真実を物言うタレントなどいません。責任としては過剰でしょう。しかしこのセレブはわざわざ自分の営利機会のためにCMの撮影現場に行くという意思決定をしているので、その判断と真実を言う責任は必ず表裏一体のものである、という論理です。
購入した一般の人が常識的に考えてうそだとわかってしまうCMの制作に加担したら、そのセレブも有罪、広告主も有罪、広告代理店も有罪、となります。
映画を見た人たちを集めて「すごく感動しました」とか「ハンカチが涙でぐっしょりになりました」という手のものは、映画の感想というのはかなり主観的なものだという社会通念上の理解があるから、褒める発言だけを集めてCMはOKなのです。ただし、この取材過程で「いいこと言ってくれたらフリークーポンをあげますよ」という撮影が行われた場合はアウトです。
Endorsement Testimonials(専門家によるお墨付き)の発言も厳しく規制されます。「エンジニアの倉沢さん推薦」「ドクター須田も効果を激賞」という広告表現もよくある手法ですが、食品加工のエンジニアが専門家としてクルマを推薦したらアウト、眼科なのにダイエットの専門家としてコメントしたらアウト、となります。同様にエキストラもダメです。髭剃りのCMでよくある、「今朝剃ってきたばかりなのに、こんなに剃れた!」という表現は、本当の通行人を使って撮影したのならOK、モデルエージェンシーにギャラを払って調達したプロのエキストラを使った場合にそのことを明示しなければアウト、ユーザーを騙している、ということになります。
編集された場合はどうなるか。トークショーに出たタレントが、せっかくそうした利害関係の注釈を説明していたのに、ディレクターによって放送前にカットされ、放送としては説明していないようになっている場合、著作権者である制作会社や放送局の責任は免れませんが、そのタレントや所属事務所や広告代理店の責任についても記してあります。それは、表面上はOKとなりますが、ケースバイケースとしてFTCによる調査が入って、テレビ局から収録テープ全編を調達したときに、そのテープの中で利害関係の説明を話していればOK、その中でも言っていなかったらアウト、となります。
ご紹介が長くなりましたが、倉沢さんが指摘されたようなブログの商売臭さに、影響力上の責任が生じるという流れが日本で起きてしまったらどう対応すべきか、何が課題か、ということを、現在研究中です。

(倉沢)英米法の体系では実態に即さない法律はすぐに見直したり、政権が変わると廃止したりする傾向があるというのが、日本の法律体系と大きく異なりますので、それを含めて米国を注視しておく必要がありますね。

続きへ

このページの先頭に戻る
経営コラム
経営コラム一覧
オピニオン
日本総研ニュースレター
先端技術リサーチ
カテゴリー別

業務別

産業別


YouTube

レポートに関する
お問い合わせ