クローズアップテーマ
【その2】紙はいつまでも芳しいか ~新聞の今、これから~ 11. 報道にゆり戻すテレビ;コストダウンと中高年志向の狭間で
2009年06月05日 前田純弘氏 (朝日新聞社 グループ戦略本部 電波セクション 主査)、倉沢鉄也、、叶内朋則、紅瀬雄太
11. 報道にゆり戻すテレビ;コストダウンと中高年志向の狭間で
(紅瀬)キー局のテレビ番組も、ここへきてバラエティー番組を抑えて、ドキュメンタリーを増やしている傾向があります。テレビ朝日も「報道発 ドキュメンタリー宣言」が初回に長門・南田夫妻のいい話で20%を超えたようですが、テレビ局も硬派なほうに揺り戻しが来ているように見えます。
(倉沢)ゴールデンタイムに報道番組で20%を超えるということは、若者に見せていない、オヤジに見せている、ということですね。

(前田)ご指摘の通り、BSデジタル放送の視聴率調査がまだない時期でしたが、ある調査でBSデジタルの視聴者と朝日新聞の購読者層の重なりが多いというデータを聞かされたことがあります。中高年、高収入というようなデータだったかと。asahi.comの「どらく」というコーナーはその線をいこうとしています。
一方でテレビのキー局の硬派寄りという話は、今のテレビの編成に飽きてきて、打破したいという部分とともに、バラエティーにカネがかかりすぎる、というコスト面の理由もあると言われています。2009年4月の改編でTBSが毎日19時から2時間ぐらいニュースをやることになりましたし、他局も追随の動きがあるようですが、脱・クイズバラエティーだけではなさそうです。
(倉沢)個人的にはその硬派に行く方向は好ましいのですが、その方向に行き過ぎると、アメリカの4大ネットワークの番組のようになって、視聴率もそのようになってしまう危険をはらんでいます。
番組制作、広告市場、媒体の力関係の構造が日米で大きく違うということはありますが、現在4大ネットワークの自社でつくっている番組は、ほとんどがニュースとトークショーという感じです。トークショーも、たとえば背景が真っ黒で、2人がいすに座ってしゃべっていて、下にテロップの広告が流れるだけ、といった絵を、アメリカのホテルでテレビを回すと、よく見かけます。究極の低コストとはいえ、それで結局視聴者が有料放送に流れてしまって久しく、スポーツの目玉番組を持ってきても視聴率としては3%も行けばいいほう、となっている状況を考えると、考えなしにニュースに突き進めばいいということではない、と考える必要もあります。時間単価のコストがひどくかかるバラエティーのドタバタも一概に否定はできない、それを待っている日本人も2割か3割いる、という状況は踏まえた上での方向転換が必要だと思います。

(前田)たしかにその時間帯は、たくさんの人に見てもらおうということより、宣伝のための時間帯ですね。理論的にあり得るでしょうが、ちょっとイメージしにくい気がします。
続きへ
このページの先頭に戻る
目次に戻る
関連リンク
- 1. 新聞社インターネット事業十年余の歩みと、いま取り巻く環境
2. 「ニューメディア事業」の教訓は、技術進歩を疑わないこと
3. 紙という端末ハードウェアの未来は暗い
4. 新聞報道のトータルコストを、ネット事業が背負えるのか
5. ネット広告の悲哀に耐えて、報道に見合う収益を得る、ということ
6. ローカルでの新聞の姿とは、ネットの時代にも「紙」か
7. 速報素材は、素人投稿でもいい。報道機関の生命線は「掘り起こし、選ぶ」こと
8. 記事を書き、選べる人材は、現場で書いて、選んで、育つしかない
9. 記事を「選ぶ」という、報道のコアコンピタンス;人気投票とは違う!
10. 人は、新聞の何に対価を払うのか;紙の「確定権威」の近未来
11. 報道にゆり戻すテレビ;コストダウンと中高年志向の狭間で
12. 既存資産のマネタイズの道は険し;金に代えられないもの、金にならないもの
13. 女性、子ども、シニア‥‥セグメント化は増収につながるか
14. 新聞社の百年後?;残すコアコンピタンスと切り出すコストの行方