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【その2】紙はいつまでも芳しいか ~新聞の今、これから~ 13. 女性、子ども、シニア‥‥セグメント化は増収につながるか

2009年06月19日 前田純弘氏 (朝日新聞社 グループ戦略本部 電波セクション 主査)、倉沢鉄也、、叶内朋則、紅瀬雄太


13. 女性、子ども、シニア‥‥セグメント化は増収につながるか

(倉沢)私たちの世代は子どもの頃から新聞が知的権威の一つなのだと刷り込まれて、新聞を読め、という教育を受けてきました。朝日については、小学生のある時期に無理やり「天声人語」を読まされたりしました。「少年朝日年鑑」を何度か買った時期もありました。教育的配慮において新聞を読まされたのですが、現在子どもは新聞を読まされないのですか。ここで読んでおけば、大人になって読む可能性が広がると思いますが。新聞社の社会科見学が減ったりしていますか?
(前田)いや、社会科見学については相変わらずたくさん来ていますね。学校によると思いますが、私の子どもの体験で言うと、新聞を読まされて、新聞記事を切り抜いて持ってこいというような勉強は、現在ないような気がします。

(宮脇)昔、リテラシー教育に新聞を使っていたけど、今はそれが情報教室でインターネットを検索することに変わっているようです。記事を並べるのでなくて、検索結果を並べる時代なのですね。

(前田)ただし、「朝日小学生新聞」は、ここしばらく部数も広告収入も順調です。

(西窪)広告のほうは、少子化で、学校や塾の競争が激しくなり、集客がシリアスな問題となり、その手段としての広告が増えているということだと思います。

(倉沢)セールスをかけられている側から考えると、テレビもネットも情報過多で、質のいい情報悪い情報が混在している中で、何が質のよい情報なのかを順序だてて示す、まずこれだけは読ませておきなさい、情報の倫理基準です、といった拠り所を、親が必要としているのだと思うのです。テレビでも、NHK総合の「こどもニュース」はよくできていると思います。そういう、教科書としてのニュースの整理はニーズが確実にあるのだと思います。

(前田)中高年でも小学生でも、セグメントを見つけて、きちんと続ければマーケットを確保できるということだと思います。先ほどお話に出たように、800万世帯全部に同じ情報をお届けしますというのは、限界があるのではないかと感じるところはあります。最近、朝日新聞は本紙に挟み込む形で「Globe」という新しい形態の新聞をはじめました。高級紙的なものを目指そうと思ってやっています。今は隔週で、800万世帯全部に折り込んでしまっているので物理的にセグメントはしていませんが、実際に手にとって読む人はセグメントされているのではないかと思います。新聞としては一つ一つの記事が非常に長くて、ほとんど読み物です。

(倉沢)こうした専門紙の記事は、読む能力のある人が限られますので、800万すなわち全世帯の15%からに読んでもらおうとするのとは違うボリュームのビジネスでないといけないということです。その点で、この数年来の朝日新聞のテレビコマーシャルは、僕は個人的には好感を持っています。

(前田)一方で、ニュースを安く買い続けているYahoo!ですら、Yahoo!ニュースの事業が利益面でどうかというと、大儲けということではなさそうです。読売のサイトには女性にターゲットを絞った「大手小町」がありますが、独自で広告をようやくとれるようになったというところのようです。ページビューで言うと読売オンラインの月間3億ページビューのうちの1億ページビューが「大手小町」と「発言小町」になったらしいのですが、ではコストを含めて3分の1を稼げる広告がついているかというとそうではないようです。

(紅瀬)月間1億ビューあるというのは、十分にセグメントされていると思います。もっとうまく売る方法はあると思いますね。
(西窪)女性サイトをいくつか調べましたが、「大手小町」はかなり興味を持たれていて、その割に広告が十分出ているとは見えません。奥ゆかしすぎるとさえ思います。

(前田)振り返ってみると、大手のポータルサイトや新聞社のサイトも、立ち上げて最初にターゲットにしようとしたのが女性、女性の次が子供で、子供の次がシニアという順番のようです。asahi.comも以前、女性専門コーナーの「532」(本社住所の中央区築地5-3-2から命名)を立ち上げました。たぶん読売よりも早かったと思います。それなりにロイヤリティは高まっていたのですが、コストと広告収入が見合わないということなどが理由で、断念しました。「大手小町」は、何とか続けていらして、それが今になって花開きつつあるということでしょう。

(西窪)女性専門サイトは一時期たくさん出現して、軒並みうまくいかなかったと思いあす。ここへ来て、アメリカから「Glam」という、女性向けサイトをバーティカルに束ねた広告ネットワークが入ってきています。「大手小町」も入っていますが、関係者は動きを様子見ですね。

(大木)女性サイトという括り自体がビジネスとして甘いと思います。女性は自分の関心のあるところだけ見に行きますから、ターゲット自体がもっと細分化しています。それがこれまで広告がうまく入らなかった原因ではないでしょうか。

(西窪)細かいセグメントをバーティカルに束ねていけば一定規模のマーケットになるとは思うのですが、日本でうまくいくのかは不透明です。

(前田)媒体の現場から見ると、サイト内に細かくセグメントされたコーナーを設けても、「セグメントごとに広告が入ってどの程度のビジネスなの?そんな細かいところに広告を出さないよ」、という言い方をされるケースが多かったです。広告主側は到達の効率を考えますので、セグメントされていても届く人数が少なければ広告出稿の魅力はないということですね。自動車のように莫大な商品単価を持つ広告主であれば別でしょうが。
一方でアドネットワークの技術は進んできたので、束ねて出せますというセールストークが出てきているのでしょう。ただやはり、広告主側も読者側も、細分化して見せられたときに、その広告情報を見て購買につながるのかということと、媒体側にそこまで細かく広告媒体を管理運営して収益規模を確保できる見通しがあるか、という2点がマッチしないと、商売としては成立しないのではないでしょうか。ようするに、広告主が出したいと思えるサイト、読者が広告をクリックしたいと思えるサイトになっているかどうか、なのですが、それが難しいですね。
(倉沢)asahi.comというサイトのプレゼンスをバラバラに売って、広告媒体の価値が高まるとは思えないです。ネット検索でニュースを一覧できる前の時代に、asaihi.comは確かに一定のプレゼンスを獲得していました。ターゲット向けにセグメントされた媒体だけでasahi.com全体の広告を支えるわけにいきませんから、個々のページを埋めるのではなくて、媒体側として全体のプレゼンスと広告価値を連動してあげなければいけないでしょう。そのための「どらく」でもありましょう。

(前田)厳しいご指摘ですが、そうですね。まさに、何のために朝日新聞はネットでニュースを見せているのか、誰のために広告を見せているのか、という領域の議論ですね。

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