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【その2】紙はいつまでも芳しいか ~新聞の今、これから~ 8. 記事を書き、選べる人材は、現場で書いて、選んで、育つしかない

2009年05月15日 前田純弘氏 (朝日新聞社 グループ戦略本部 電波セクション 主査)、倉沢鉄也、、紅瀬雄太、西窪洋平


8. 記事を書き、選べる人材は、現場で書いて、選んで、育つしかない

(倉沢)報道の究極のコアコンピタンスは、ニュースを選ぶ能力だと絞り込んで見ることができると思います。この訓練を時間をかけて受けた人材がいなければならない、しかしそれを十分に習得できている人はコストカットのためにいよいよ減っていく、ということになります。ニュースを選ぶ役割の人の持つべき能力や資質は、どう鍛えればいいのでしょうか。

(前田)いわゆる記者修行として新聞社はどういう訓練をさせているかというと、新聞では締め切りまでの時間が勝負なので、短時間でたくさん取材して、それを手際よくまとめて記事にするということは、各社共通しているはずです。記事の書き方や流儀といったものは、少なくとも私が新人記者だった25年以上前には、言葉遣い等の非常に基本的な部分以外では、マニュアルとしてかっちりあるわけではないけれど、その組織が継承しているものに従って先輩が原稿を見て直し、デスクが見て直し、というOJTを繰り返す中で、力をつけていくという流れでした。
取材の手法もまた、あるファクトを見つけてきて、取材して、書いてまとめるということを繰り返したくさんやっていくうちに、取材の仕方、ファクトの見つけ方も磨かれていく、ひたすらに訓練、ですね。もちろん、いろいろな種類の研修もありますが、頭の鍛え方という点では、場数を踏んで、たくさん書くことに勝るものはないと思います。
ネットやテレビはまた多少違うとは思いますが、報道の訓練という点では共通していることも多いと思います。ただ、今はどの社も研修をかなり充実させているようです。

(倉沢)しかしその訓練自体を支えるコストを報道部門に割くことができないとなると、ある程度近い訓練を受けた人を中途採用していく流れも作らなければならないのではないでしょうか。
前田さんに怒られるかもしれませんが、多くのファクトから大事な情報を選ぶ能力というのは、たとえば私たちコンサルタント・シンクタンカーという人たちも、取材・調査をして、まとめ上げて、ボリュームを小さくして書き、特定少数の人に話して伝える、という訓練を積んでいたりします。もちろん新聞とは、スピード感やアウトプットの文字の量が大分違いますが、脳の訓練としては近いことをしている業種が、報道分野以外にもいくつかあります。言わば純粋培養で育てている記者の世界以外にも、一定の訓練を受けている人を見つけて、業界独自の訓練を加えていくということは、もっと取り組まれてもいいように思えます。
私は昔、同じ職場に新聞記者を10年くらいやった人がいて、彼も「流儀が違うけど、新聞もシンクタンクも使っている脳は同じだ」という趣旨のことを言っていましたので、新聞社あるいは報道機関としての足腰強化策はあると思うと同時に、私もまた、仮に転職でもして、そこそこの流儀を訓練すれば、ある程度の記者仕事はできるのではないか、と思ったりしています。

(前田)それはあるかもしれません。実態としてどうなるのかはわかりませんが、体験談として言えることは、新聞記事の書き方というのは、言葉遣いも含めて、中学生にもわかるように書け、変に専門用語を書くな、と言われますね。5W1Hでファクトを押さえて、後ろのほうが紙面の混み具合によって切られてしまっても、何が大事かわかるようになるべく短くまとめて書け、ということを言われました。いわゆる連載ものの場合はちょっと書き方が変わってきますので、それは他業種の経験が直接活きるケースもあると思います。

(倉沢)コンサルティング・シンクタンクと、新聞との違いは、読者がものすごく限定されていて、読者のレベルもものすごく違うということです。相手のためにわかりやすくという意志はありますし、わかりやすさを強要するクライアントも多いですが、一方で自分たちが消化しきれない情報でも相手が消化してしまうケースもありますので、知的レベルを自分で引き上げていかないとクライアントに負けてしまう、ということに対応しなければならないケースもあります。タイムラグ、情報の量、論理のツリーの細かさ度合い、といった部分がだいぶ違うと、新聞社出身の私の先輩も言っていました。

(前田)どの業界でも、書いていないと選べない、選べないとお金をもらえない、お金をもらえないと書き続けられない、書いて痛い思いをしないと成長しない、ということだと思います。
実は、報道機関の人材育成という側面で言うと、どの新聞社も、新人の記者はまず、地域の警察関連の取材を担当させられることが多いはずです。それは、警察関連の取材をすると、それこそ森羅万象を扱うことになるのと、警察という組織が強い守秘義務を負っている一方、逮捕等々大きな権力を持っているので、取材が一番難しくかつ報道機関としてはきちんとウオッチする必要があるからです。また、朝であろうと夜中であろうと事件は起きますので、事件があれば出ていって、現場を見て、警察に負けないレベルで取材して書きなさい、ということで訓練されます。私に関して言えば、怒られてばかりでしたが(笑)。
ですので、「書く」という行為だけ見ると、他の業種の経験が生きることがありますが、総体としての記者はどうかというと、少し違うのでは。それは、倉沢さんがおっしゃるアナリストの資質や仕事の中身に特有な部分があるのと一緒だと思います。

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