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【その2】紙はいつまでも芳しいか ~新聞の今、これから~ 9. 記事を「選ぶ」という、報道のコアコンピタンス;人気投票とは違う!

2009年05月22日 前田純弘氏 (朝日新聞社 グループ戦略本部 電波セクション 主査)、倉沢鉄也、、紅瀬雄太、西窪洋平


9. 記事を「選ぶ」という、報道のコアコンピタンス;人気投票とは違う!

(倉沢)報道のコアコンピタンスの話に少し戻らせてください。
NHK文研の調査を見ますと、2007年のニュースについて、時事通信が選んだ10大ニュースと、ネット上での検索キーワード上位10位、というものを比べたときに、ひどくラインナップが異なっています。
ネット検索について、「mixi」「YouTube」といった、次のポータルに渡るためのキーワードを別にしてニュース記事としてみたときに、安倍総理大臣が辞めるということがネット検索のトップ10にも入りません。検索数イコールネットユーザーが重要と考えている、とは言い切れませんが、当時のニュースとして「亀田一家」「朝青龍(サッカー問題の処分関連)」「NOVA」「世界陸上」といったものが、自分の国の総理大臣が理由もわからず突然辞任したということよりも関心を持った人の数が多いという見方もできなくはないです。記事を選ぶ報道機関が、人気投票で記事を決めては絶対にいけない、ということは一目瞭然という見方でいいと思いますが、さらに踏み込むと、総理大臣が辞めて代わるということが、日本国民にとって本当に一番重要なニュースか否かという究極の問題を一応思考実験しておく貴重な機会だとも思うのです。まあ、間違いなく一番大事なニュースだと思いたいところですが。

(前田)時事通信がそのようにランキングをつけたということは、単に読まれるかどうかということではなく、これは大事だという判断をしたということですね。一方で検索キーワードというのは、言わば生のデータです。一定の知的な判断で並べたものと、生のデータのランキングを比べること自体に無理があるという見方をして、挑発的な比較として受け止めた上で、報道機関で重要性を判断する力は、取材して、記事を書いて、読んで、つけていくもの、と考えたいところです。

(西窪)それはインターネットの普遍的な話ではなくて、日本特有の状況だという見方もあります。たとえばウィキペディアの編集頻度のランキングというものを見ると、英語版だと、「ジョージ・ブッシュ」「キリスト」「イスラエル・レバノン紛争」など、フランス語だと「フランス」「薔薇十字軍」などが高頻度で書き換えられるそうです。ところが日本だと2007年の上位はほとんどマンガ・アニメの登場人物やストーリーにかかわること、だそうです。書いている層が違っていて、内容の深さや議論や書いている目的が全然違うのだと思います。

(紅瀬)そうだとすると、いまネットに一生懸命書き込んでいる日本人は若者が中心で、彼らの中には新聞を読まない、テレビのニュースも見ないという人も多いはずです。ニュースはネットでチェックして、話題を掲示板に求めていきますから、多くの若い人は報道機関の記事にほとんど触れずに日々暮らしている、一定の価値判断をして選ばれた記事の積み重ねでなく、個人的関心を検索キーワードにして、素人同士による掲示板の書き込みを鵜呑みにしていく、ということになりますね。

(前田)悲しい感じもしますが、実態はそうですね。

(倉沢)ニュースを選んでいる人はそれなりに勉強と人徳を積んだ人なんだ、だからニュースのどれが大事なのかは信じて欲しい、ということが伝わらないといけない時代になってきたんでしょうか。そういう意味で、記事を選ぶ人がヤラセをやると読者側の信頼が根本から崩れてしまうので、立ち居振る舞いからちゃんとしていないといけない、という話になりますね。あまり職業倫理的な話をしても仕方ないのですが、「人としてちゃんとしていること」が報道機関と営利収入を両立させるものなら、そこまで視野に入れて議論しなければならないのかもしれません。

(前田)新卒で新聞記者になる動機というのは、物を調べたり書いたりが好き、ということもありますが、社会に正しいことを伝えたい、青臭いけれど自分が書いた記事で何かがよくなることの一翼を担いたい、といった、ある種の使命感があって入ってくるものです。そういう初志をきちんと育てていく、守っていく、ということを報道組織として取り組む必要は、いまさらながらありますね。

(倉沢)過去、そのへんの琴線に触れる発言をしてしまったのが、ニッポン放送問題のときのホリエモンでしょう。買収したら、産経新聞は、新聞記事をネット上の人気投票にかけて、一面トップから順番に出す、と言っていたと思います。本人はたぶん本当にそう思っていたのでしょう。報道機関がどうやってニュースを選んで作っているのかということに対する重大な挑発だと感じました。報道機関を経営するということについて、メディアビジネスをしている人、とくにニュースをコンテンツにしている人みんなが、一度きちんと考え直さなければいけない大事な教訓として残ったと、私は思います。

(前田)あのとき、ライブドアが独自の報道取材陣を立ち上げましたが、あれはもうなくなったんでしょうか。記者クラブに加盟できなかったとか、報道の中身をあまり掘り下げられないので、結局ニュースを買っても同じという結論になったりしたのでしょうか。

(西窪)ライブドアの報道部門は、証券取引法違反の事件から1年くらいたって、解散となりました。理由は主にコストの問題でした。


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