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【その2】紙はいつまでも芳しいか ~新聞の今、これから~ 6. ローカルでの新聞の姿とは、ネットの時代にも「紙」か
2009年04月24日 前田純弘氏 (朝日新聞社 グループ戦略本部 電波セクション 主査)、倉沢鉄也、、紅瀬雄太、西窪洋平
6. ローカルでの新聞の姿とは、ネットの時代にも「紙」か
(倉沢)地方支局にいらっしゃったときの地方紙の読まれ方について、当時の中央紙の支局記者として気になっていたことはありますか。記者の視点からの読まれ方、地方紙の存在といったことは、気になるものでしょうか。むしろ営業や販売の方が心配する性質のことですか。
(前田)読まれ方は、やはり気にしていましたね。記者としては、地方紙のほうが人数もたくさん配置していますし、事細かに報道しますので、量で圧倒されているという感じでした。
(倉沢)今、インターネットの時代になったときに、地元の記事をネットで見る人はほとんどいないのではないか、地方紙のウェブのアクセス数がひどく少ない状況はその表れだろうと思うのです。地元の情報として載る市民の側も、「うちの父ちゃん、新聞に載ったべ」という感覚が大事で、ウェブ上に出ることのありがたみは、ないかもしれませんね。
(前田)そのへんはいろいろ工夫を重ねているのではないでしょうか。地方紙はもともと大量の地元情報を集めてきていますから、それをどう生かすか。地方紙はその地域では圧倒的なシェアを持っている場合がほとんどです。全国紙と言ってもその地域に限っての影響力は、部数の比較という面では限られています。地方紙の力は強いと言わざるを得ないのに、そこのウェブビジネスが伸びていないとなると、じゃあ、個人の皮膚感覚的にはある意味もっと薄められた情報を扱っている全国紙はどうなるの?という危惧につながります。
(西窪)広告媒体という観点で見ると、インターネットは県レベルといった細分化した地方エリアに対してものすごく弱いというメディア特性を持っていると言えます。アメリカでもそうです。
(倉沢)やっぱりインターネット、イコール全国、全世界、なんでしょうね。
(西窪)地方の人が地方のコンテンツをインターネットで見ていないです。広告もそうです。それで、ローカルに細かく広く告知したい広告主にとって、ネット広告が使えないがゆえに、ナショナルスポンサーが一通り使いこなしてみて以降、ネット広告の評価が広告主からすごく低くなってきているという話も聞こえてきます。ネット広告代理店の大手では、地方紙のホームページのバナーをバンドルして販売する、同じマーケットプレイスに載せる、といったことを試みようとしています。いわゆる全国ネットでなくて、ローカルの広告主に対して、地方紙のローカルパワーを統合して使ってもらっていく、ということは進めていくべきところで、そこはネット広告の力はまだまだ弱いです。
(前田)アメリカでの地場の広告というのは、要するにクラシファイド広告ですね。日本の新聞ではほとんど扱っていませんが、ウェブでの展開は、特に地方紙は検討可能ではないでしょうか。地場の人が地場で見たいものを地場に発信する広告ですから。
(西窪)アメリカではもともとクラシファイド広告にけっこうな市場規模があります。日本だと何をクラシファイド広告と定義するかということが固まっていないと思いますが、リクルートが雑誌でやってきた市場こそあれ、新聞にはあまりないです。ネット上だと、オークションが一種のクラシファイド広告とも言えますが、それくらいですね。
(倉沢)なるほど、いま手元で地方新聞社のサイトを見てみると、クラシファイド広告はもちろんのこと、ローカルスポンサーの広告もほとんど見当たらないですね。地域独占を活かして単体でビジネスをしようという意図は見てとれません。
(前田)昨今の経済情勢は厳しいですので、それを割り引いて見なくてはならないのでは。でも、例えばローカルのテレビ局でローカルの広告主となると車のディーラーや酒造メーカーのような地場産業などと業種が限られるようですから、地方紙がネットの広告枠を売る場合に、選択肢がいくつもあるということではないかもしれません。クラシファイドの市場がないとなると、そう見えるかもしれませんね。
(倉沢)さっきのお話をしたブロードバンド・トリプルプレイのビジネスも、広告を集めようとすると、クラシファイドも含めたローカルあるいはもっと狭いエリアの広告主しか手がつけられないという実情があります。地上波テレビの構造と比較して言うと、いまのブロードバンドの広告というのは、いわばローカル局が自社制作の番組をつくって、自社でローカル広告を入れる、という形と同じ構造になっていて、全国ネットの番組と広告で実質的に持たせているビジネス構造と比べて最も効率の悪い広告ビジネスになってしまっている、しかしこれが最も先端を行っているはずのメディアの広告収入、という状況になっています。地方紙についても、まじめにネットビジネスで損しないようにしようとすると、広告営業先がチラシとかぶることになります。
(前田)地方新聞社の方と話していると、やはりその地域では圧倒的な影響力をお持ちなだけに、紙への依存度の大きさが伝わってくることが多いです。ですので、地方新聞社でウェブサイトを運営する人の中には、しばらく前に私が体験したような状況をいま社内で味わっていて、なおかつ「ネットの時代なのに、お金にならないじゃないか」という批判を受けながら仕事をしている方がいると思います。
では本気でローカルの情報を掘り起こしてウェブに載せ始めると、本当に紙側の広告主、チラシの広告主とのバッティングの可能性があって、社内調整が難しくなりそうですね。地方新聞ほどローカルな細かい情報を記事で載せているからこそ、ナショナルスポンサーのエリア販売広告も効くのだ、ということが営業トークの論理になっているところがあるでしょうから、さらに細かい広告集めには、社内的にもなかなか切り込みにくい部分があるのかもしれませんね。
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