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第2部 パネルディスカッション
「幸福な最期」を選び取るために


(紀伊) では、次のパートでは「医療の在り方」について、佐々木先生からプレゼンテーションいただきたいと思います。よろしくお願いいたします。
(佐々木) 皆さん、こんにちは。私は在宅医療をやっております内科の医師の佐々木淳と申します。
 「超高齢社会における医療のあり方」ということで、「治す医療から幸福を支える医療へ」というテーマでお話をしたいと思います。



 私たちは現在、首都圏に12カ所の診療所があり、76名のドクターが、常時約4,000名の患者さんの人生の最後を24時間体制で見守っています。年間1,000名ぐらいの方が亡くなられて、そのうちの約7割の方をご自宅や下河原さんがやっていらっしゃるような高齢者向け住まいのなかでお見送りしています。



 最期をどこで迎えたいかということについて、先ほどの齊木大さんのプレゼンテーションと重なりますが、おおむね半分を超える方々が「できれば最期は自宅で」という意思表示をされていらっしゃいます。しかし、実際は、8割ぐらいの方が病院で亡くなっている。OECD加盟国のなかでも、このギャップが日本はかなり大きい、ということが以前から言われています。
 亡くなる方がこれからどんどん増えていきますし、これまではずっと増加する死亡者を病院が受け入れてきたのですが、ベッドはこれ以上増えませんし、病院も治せない人たちは受け入れないようになってきています。そうすると、ここから先、増えていく死亡者をどこで受けとめるのかというと、やはり自宅や老人ホームなどの高齢者住宅ということになるのだと思うのです。



 各国で比較をすると、オランダ、スウェーデンは病院で亡くなる方が約3~4割ですが、日本は8割近い方が病院で亡くなっている。残りは自宅と施設とを合わせて約2割ですが、この在宅死のうちの約半分は、「明るい孤独死」とは異なり、何となく誰にも気づかれずに、警察によって検案されて死亡と判断されるケースです。実は、きちんと看取られている人はかなり少ないですね。こんな状況で果たしていいのか、というところです。
 なぜ、日本人は病院で死ぬのか。要因としては恐らく二つあるのではないかと思います。一つは、死ぬまで治療するからです。「治療のやめどき」がわからないのです。「よくわからないけど、心配だから病院に行ってしまう」ということを多くの人がやっていて、人生の最終段階、最後の最後に救急車を呼ぶ、という方がまだまだ多いんですね。二つ目が、自宅で介護ができないから。本当はいろんな選択肢が地域にあるはずなのに、「とりあえず病院に送って」おけば、目の前からその人はいなくなります。「死ぬまで治療する」という部分においては、なかには「1分1秒でも長く生きたい」という明確な人生観を持っている方がいらっしゃいます。そうであれば、それをサポートするのが我々の仕事ですから、もちろん、最後まで頑張ります。しかし、実は、大部分の方はそうではないんですね。大部分の方は、いつ治療をやめていいのかがわからない。「先生、お任せします」と言っていたら、最後まで治療されて、結局、最後の最後は点滴でつながれて、生きているのか、「生かされている」のか、よくわからない状態で旅立っていく。
 自宅での介護について、先ほどから話が出ているように、実際に地域にはいろんな選択肢があるんですが、どこに何があるかがわからないし、どれが自分にとって最適なのかもわからない。実は、一人暮らしでも最後まで暮らし続けることはそれほど難しくないのですが、周りが無理だと言ってみたり、本人が自分でだめだと思ったりするんですね。このあたりについて、やはり私たちはきちんと知識を持つ必要があるだろうと思います。



 医療の役割を考えるときに、まず、私たち、人間という生き物について、皆さんによく知っていただきたいですね。我々は生き物ですから、身体の機能にはピークがあります。人間という生き物の身体のピークは大体20歳ぐらいと言われています。お見受けしたところ、ここに10代の方はいないですよね。ということは、皆さん一人残らず、「人生下り坂」です。でも、こうやってここに集って、明日のことを心配しながら、一生懸命未来に向かって進んでいる。
 何故そんなことができるのかというと、やはり社会のなかに役割があるからです。私たちは社会に貢献することで、自分が生きていることを実感している。社会とのつながりは、とくに男性にとっては部分が職場です。日本は定年制度があるので、大体60歳から65歳の間で男性の多くはこの社会的な機能を奪われて、やることがなくなって家にいる事になります。家にいても奥さんはあまり口をきいてくれない。そうすると、どんどん弱っていくんです。
 それから、身体的機能、社会的機能に加えて、心の機能(精神的機能)があります。精神的な機能は、生まれたときから成長が始まって、死ぬまで成長が続く。認知症になっても精神性は保たれると言われています。
 大きくこの三つの機能について考えてみると、我々の人生は四つのフェーズに分かれます。一つは、すべての機能が成長する子どもたちです。二つ目は、身体は日々弱っていくけれども、社会的、精神的には充実が続く私たちの世代。そして、身体は元気なのに、やることを奪われてしまう前期高齢者。その後、身体もだんだん言うことをきかない、やりたいこともできない、しかし、心は元気で、そのギャップに苦しんでいる後期高齢者。一概に高齢者といってもいろいろな高齢者がいるんだということがわかります。



 人生の最後の10年について、身体の機能が穏やかに弱って死んでいくのが「健康老衰モデル」というパターンですが、今、死亡診断書に「老衰」と書いてもらえる人は大体7%ぐらいしかいないです。生物学的に老衰という死に方ができている人は、5%ぐらいと言われています。20人に一人です。
 一方、元気なときに予期せぬタイミングでお亡くなりになる方もいます。突然死とかピンピンコロリと言いますが、高齢者も含めると、これは15%ぐらいと言われています。
 残りの8割の方々は、最後、どういうふうに過ごしていけばいいのか、興味がありますよね。



 80%を占める「疾病モデル」はこんなイメージです。「人生山あり谷あり」と言いますが、私たちの人生の老後は、最初、谷間がやってくるんですね。命の危機です。何か大きな病気をして救急搬送される。急性期病院で一命は取りとめた、リハビリもした。何とか退院できたけれども、もとのレベルまでは回復しない。
 そうこうするうちに要介護状態になります。転倒して骨折して、リハビリして元気になったと思ったら、今度は、肺炎を起こす。肺炎というのは1回やると繰り返します。2回、3回と繰り返すうちに、御飯がだんだん食べられなくなっていく。そして「どうしますか、胃瘻にしますか、点滴にしますか」と言われ「お任せします」ということになって、点滴にしても、胃瘻にしても、最後は喀痰吸引などいろんなことが必要になるので、多くの方は病院で生かされて、最後に心臓がとまったら死亡診断書を書かれる。そんな感じなんです。
 目を覆いたくなるかもしれませんが、8割ぐらいの方がこんな感じで病院で亡くなっているのが、今の日本の現状です。



 緊急入院して具合が悪くなってしまう。そこから先に、こんな生き方をしたくないということで、「健康寿命を延ばしましょう」と皆さんも一生懸命やっていると思います。歩いてみたり、脳トレをやってみたり、それをやっていただくのは全然構わないと思います。しかし、現在、日本の健康寿命と平均寿命のギャップがどれぐらいあるかご存じですか。
 現在、男性の平均寿命は81歳を超えています。女性は87歳を超えました。では、健康寿命はどうでしょうか。男性の健康寿命は、最新のデータで71歳です。女性は75.5歳ぐらいです。男女とも、人生の最後の10年は健康ではない状態で、誰かの助けを受けながら生きている。この10年間をできるだけ短くするために、厚労省も、経産省も、総務省も健康寿命延伸プロジェクトを国家的に取り組んでいるわけです。




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