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第2部 パネルディスカッション
「幸福な最期」を選び取るために


(紀伊) ありがとうございました。
 では、最後のパートに入りたいと思います。wiwiwの角田様からプレゼンテーションをいただきます。会場にお越しの皆様を含めて、ご両親がいらっしゃる方では、これから、もしくは、まさに現在、介護に取り組んでいる方もいらっしゃるかもしれません。そういう方々がどう向き合っていけばいいのか。企業はどうそれをサポートしていくべきなのか。そのあたりを議論したいと思います。
(角田) 角田でございます。よろしくお願いします。



 まず、wiwiwという、耳慣れない会社だと思いますが、2000年に、資生堂にて「育休を女性のキャリア向上の好機につなげることをミッション」として誕生した会社です。資生堂には、当時もたくさんの美容部員はじめ女性社員がいて、その人たちが育児休業をとって職場に復帰する事がシステム化されていました。そのなかで、いざ職場復帰をしようとした際に、ずっと家で子育てだけに専念していると非常に不安になるという声が上がってきました。そこで、自宅でもスキルアップができるのではないかということで、インターネットを通じてスキルアップを図って、職場に安心して復帰できるようにするためのプログラムを資生堂が2000年に開発したわけなんです。
 これを、資生堂以外の、ほかの企業さんや自治体に所属している育児休業中の方にも利用いただこうということで、2002年から資生堂がこれをビジネスモデルとして販売を始めました。そのときの合い言葉が「育児休業期間はブランクではなく、ブラッシュアップの期間にする」ということでした。
 その後、2006年に、e-ラーニング業界の最大手であった株式会社ネットラーニングと共同出資によって株式会社化しました。
 また、育児休業をとる女性だけではなくて広く女性全般、あるいはダイバーシティ推進として女性活躍推進支援事業に取り組んでいます。さらに、2011年から、今度は、仕事と介護で悩んでいる、そういう方がきっとこれからどんどん増えるだろうということで、仕事と介護の両立支援事業も手がけるようになりました、これがwiwiwの概要でございます。



 今日のテーマの「仕事と介護の両立」における実践と課題を教えてほしいということでしたので、二つ挙げてみました。
 2014年度(平成26年度)にwiwiwが厚労省から委託を受けた事業で、全国100社を対象にした調査を行いました。現在、介護をしているという方が7%。過去に介護をしたことがある、仕事と両立しながら介護をしたことがあるという人も12.6%いらっしゃいましたので、2割ぐらいの人が経験したり介護中だという、実態がわかりました。
 また、現在は介護に直面していない方々にアンケートをとったところ、「介護に直面したときに、仕事が続けられると思う」という人が2割にすぎなかったんですね。多くの人がわからないと答えたり、続けられないと思うと答えた。この人たちには、どうしてあなたは続けられないと思うんですか、わからないんですか、というアンケートの問いかけに、「非常に不安です」という応答でした。
 その不安を紐解いていくと、「介護をイメージできない」「介護保険制度というものがあるのは知っているけれども、内容が全然わからない」「社内規則や、就業規則があるのは知っているけど、よく見ていない」ということでした。イントラネットなどで紹介していても、全然他人ごとのようで、「自分の会社には介護休業制度はない」と誤解している方も本当にいらっしゃいました。つまり、介護保険サービスや介護休業制度を利用しながらどういうふうに両立したらいいかということが全くわからないので「続けられないと思う」と答えている。そういうことが課題として見えてきました。



 もし、両立支援制度が利用できないとすると、今、話題になっている、「隠れ介護」が問題になります。会社が自分たちを守ってくれると思っておらず、「介護をしているんです」と言ったら、首にされないかとか左遷されたり遠くに飛ばされてしまうのではないか、と思っていたとしたら、相談しないし、相談できないですよね。
 隠れ介護の状態だと、会社側もその人を支えよう、みんなで協力しよう、働き方を工夫しようということができませんから、その人はどんどん追い詰められて、突然、辞表を出し「え、あなた、介護をしていたの?」と上司が驚くというパターンにつながっていくと思います。
 また、実際に「介護のために無断欠勤や突然の遅刻」ということは本当に起こります。デイサービスに行ってくれると思っていたお母さんが、「今日は行きたくない」なんて言ったら、大変です。お母さんと「行ってよ」「いやだよ」とやりとりしていたら、会社に連絡なんて忘れてしまって、無断欠勤や遅刻につながってしまいます。施設に行っていても、電話がかかってきて、急に熱が高くなった、あるいは血圧が上がったから病院に連れていってください、と家族が呼び出される。育児中と同じように、突然早退しないといけなくなります。
 そういうことを繰り返している社員が自分の職場にいたり、チームのなかにいたら、どうしても、みんなの士気が落ちて、チームマネジメントや目標達成が困難になると思うのです。以前は大企業ならそれなりに余裕があったのかもしれませんが、今は、大企業でも、仕事をするチーム単位で見ると、人員は少ないので、厳しいと皆さんおっしゃいます。限られた人数でゆとりがなく、目標達成が困難になったら、本当に大変なことになると思います。
 仕事と介護を両立していると、どうしても疲れてきます。本来、のんびりしようと思っている土日に自分が介護しなければならないし、夜もトイレ介助などで十分眠れません。それが重なって、疲れと精神的ストレスが加わると、どうしても仕事中に居眠りをしてしまったり、ヒヤリハットの事例が増えたりする。疲れてくるとゆとりがなくなって、仕事を頑張ろうという気が落ちてくるので生産性も低下します。生産性が下がるため残業しなければいけないけれど残業はできない。そうやって、どんどん気持ちが追い込まれてしまうと思うのです。
 また、よく“お互いさま”の職場風土と言われますが、これは介護だけではなくて、ご自身が病気になったり、あるいは子どもさんにいろいろなことがあって不登校で、という方もいる。介護をしている人に限らず時間に制約のある社員も働きやすい職場にするには、「みんなで支えよう」という職場風土にしなければいけない、と思います。そういう職場風土がないと、どうしても人間関係が悪化する。介護をしている人も「自分がいるから迷惑がかかるんじゃないか」と思って「自分が介護離職しなければ」となっていく危険が生じます。



 前職で介護の相談を受けたときには、すでに介護離職をしてしまった方々からのご相談のほうが圧倒的に多かったわけです。その人たちの声を聞いていきますと、本当にフローの収入がなくなることの怖さを感じます。「貯金があるからいいや」とか「親が年金をもらっているから何とかなるだろう」といって軽くやめるんですが、毎月入っていた自分のお金がなくなって、だんだん貯金通帳の額が減っていくのは恐ろしいことです。印象に残っているのは、働いているときは帰り道で100円のアイスを買って、認知症のお母さんがそれを楽しみに待っていた、という方の話しです。「はい、お母さん、今日はガリガリ君だよ」といってアイスクリームを渡すと、お母さんが喜んでいる。その一つの楽しみだった100円のアイスが、仕事をやめたら、「これは…」といって買わなくなってしまうぐらいに気持ちが追い込まれていく。そういう感覚なのです。
 介護サービスの自己負担は1割とか2割だとしても、やはり月に何万円とかかるわけで、それをなるべく使わないで、仕事をやめた自分が介護をしようとなると、職場復帰は難しくなっていきますし、生涯所得が大きく減ります。退職金だけではなくて、年金まで減ってしまうということです。
 そうすると、自分にも支えなければならない子どもがいる場合、自分の将来や、自分の家族のこれからが不安になります。
 仕事をやめて介護に専念するというのは、最初は親孝行みたいな感じで、乗り気なんですが、結構密室的になりがちで、自分が社会から取り残されたように感じ、「介護うつ」につながりやすい面があると思います。
 また、虐待をした人の続柄は、息子さんが41%、夫が22%です。統計には出ていませんが、この息子41%のなかには、仕事をやめたり、仕事をしていない息子さんがかなり高率でいるのではないかと想像しています。



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