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第2部 パネルディスカッション
「幸福な最期」を選び取るために


 だからこそ、自然に老衰死を迎えるための体制をつくっていく必要があると考えているんですが、実際、高齢者向けの住まいでどのぐらい看取りが進んでいるかのデータがあります。介護付き有料老人ホームと呼ばれる看護師が常駐しているホームでさえ、まだ30%ぐらいしか看取りができていないんですね。



 どういう高齢者住宅で看取りが進んでいるのか、クロス集計をしてみた結果、おもしろい結果が出ています。何と「看取りに積極的な姿勢を持つホームほど看取り率が高い」ということがわかったんです。人員配置、看護師が常駐している、お医者さんや病院が隣にある、そういうことよりも「看取りに“気合い”が入っているホーム」で看取りが進んでいるのです。「看取りをやっていくぞ」という介護主体型のホームほど看取り率が高いということがわかってきたんですね。



 その証拠に、我々の高齢者住宅銀木犀では看取り率76%です。別に看護師がいるわけではない、訓練された介護士がいるわけでもない、普通の賃貸住宅でもこれだけ高い率で看取りができるということ。これをもっともっと僕は日本全国の高齢者施設に広げていきたいという想いで、厚労省さんと「高齢者向け住まいにおける看取り等の推進のための研修に関する調査研究事業」を開始しました。



 私が旗振り役になって、どうやったら全国の高齢者住宅で看取り率を上げていけるか、自然な老衰死を迎えていただけるか、いよいよ最期というときに救急車を呼ばないでもいい体制ができるかということを、調査研究しています。
 実は、この事業とは別にVR、バーチャル・リアリティという技術を使った認知症の一人称体験「VR認知症体験会」というものを全国で展開しています。すでに2万人の方に受講していただいたのですが、非常に好評です。VRと研修は親和性が高いということがわかりました。



 そこで、1本作品をつくってみました。高齢者の終末期と救急医療の現場をイメージするためのVRです。まさに救急車で運ばれた高齢者の視点になって、皆さんは救急医療を受ける。それをイメージしていただくVRです。本当にリアリティがあって、ご自身が心肺蘇生を受けるときに骨の折れる音が聞こえるぐらい、それぐらいの体験をして、それでもまだ自分の親、自分の愛する入居者たちを救急医療の現場に送りますか、ということを問題提起したい。




 これは沖縄中部病院で実際に撮影してきました。
 介護が主体的に看取りに向かっていくためには、やはり介護士の意識改革が必要です。看取りや医療の話になると、どうしてもお医者さんの、医療職の仕事だろうというふうに考えてしまっている介護士が多いので、「いやいや、違うんだ。看取りというのは生活なんだ。まさにアドバンス・ケア・プランニングが1番得意なのは介護士たちなんだよ」ということを伝えていく必要があります。
 それを知ってもらうために、看取りを体験できるVR作品も今つくっています。まさに、お部屋に入ったらお亡くなりになっているということを疑似体験できるようなものです。そこで、良質な看取りとはどういうことかを事前に体験しておくことによって、ご自身のホームでの看取り率を上げていこうというプロジェクトです。



 私がやっているVR認知症体験会では、本当にたくさんの人たちの意識改革が実現しています。これを応用して、さらに大きく広げるために、ソーシャルインパクトボンドというビジネスモデルを活用して、高齢者住宅にどんどん看取りの研修を提供していきたいと思っています。



 今、いろんな自治体とお話を進めています。例えば東京都だったら、3年後に東京都内の高齢者住宅における看取り率がぐっと上がると医療費がこれだけ下がる、目標とする指標が達成できたときにだけ、報酬が民間資金提供者にバックされる仕組みです。民間資金提供者からVRを提供する我々サービス提供者にお金が入って、さらに東京都の高齢者住宅への看取り研修を提供していく。このサイクルを県または都で実現させて、全国展開していきたいと思っています。
 もし、今日、自治体の方がいらっしゃったら、是非お話を聞いてください。私の話は以上になります。
どうもありがとうございました。(拍手)



(紀伊) 下河原さん、どうもありがとうございます。
 お祭りも含めて、地域に開かれた住まい、まさに生活の場ですよね。「生活の場で看取る」、これは「文化」を再びつくっていくことなんだ、とおっしゃったのが非常に印象的でした。
 皆様にご意見をいただく前に、私から幾つか質問させていただこうと思います。
 今でこそ、7割とか8割のお看取りの率でいらっしゃいますが、もともと下河原さんは医療や介護の関係の方ではないとお聞きしています。いきなりそこまで行けたのだろうか、というのが聞いていての疑問でして、看取りをやっていこうと思われたきっかけや、銀木犀で看取りがきちんとできるようになるまでのご苦労があれば、是非教えてください。これから高齢者住宅での看取りに積極的に取り組みたいという方に参考になるのではないかと思います。
(下河原) ありがとうございます。本当におっしゃる通り、僕はもともと鉄屋の息子なので、医療とか介護を全く知らない状況で高齢者住まいを始めてしまって、最初に入居してきた方が余命3カ月の末期の乳がんの方だったんですね。その方に、「私はここで死にます」と言われて、「死にます、と言われても困ります」と言ったのを覚えています。そのぐらい素人だったんですが、その方が看護師の方で、「私が死に方を教えてあげる」とおっしゃられて、本当にその方に死に方を教えていただいたんですね。
 そこから、よし、やろうということで始めたんですが、いろんな人たちから批判を受けました。「素人が看取りとか言うんじゃない」ということで怒られたんですが、「どうして、医療とか介護を知らないと看取りができないと言うのだろう」というのが全然わからなくて、とにかくがむしゃらにやったんです。
 そうすると、隣にいらっしゃる悠翔会の佐々木先生をはじめとして、理解のある在宅のドクターや訪問のナースたちが協力してくださって、どんどん看取りが当たり前になっていったんです。実は、介護士が1回でも看取りを経験すると、変な話、「癖になる」んです。「これはすばらしい、こんなすばらしいことがあるのか」と感じるようなんですね。家族にも感謝され、本人も本当に幸せそうに亡くなっていく。それを経験すると、皆さん、それに積極的になっていくんです。
 だから、僕は高齢者住まいでは、1回目の看取りがすごく重要で、それが成功すると、2回目、3回目というのはスムーズにいくんだと確信しています。
(紀伊) ありがとうございます。今、介護職も人手が足りなくて、3Kというか、おむつ交換して、食事介助しているだけなんでしょう、みたいなイメージを持たれているかと思いますが、そこももしかすると、看取りに取り組むことによって、改めてやりがいとか専門性を持つ突破口になりそうですね。
(下河原) そう思いますね。介護士の仕事って、ものすごくクリエイティブな仕事なんですが、1番大事な看取りの部分を、今、放してしまっている。ここをやっぱり取り戻さなくてはだめだと思うんですね。
 実は、終末期って、本当に医療はほとんど必要ない。むしろ、終末期は医療よりもやはりケアの力のほうが大事だと思うんですね。だから、なるべく医療の介入を断って、介護士が矢面に立って頑張っていくことが、最終的には介護士たちのスキルアップ、もしかしたら地位向上にもつながっていくんじゃないかと信じています。



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