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第2部 パネルディスカッション
「幸福な最期」を選び取るために


(紀伊) 角田さん、どうもありがとうございます。
 セミナーをしたり、ご相談を受けるなかで、これから親の介護を迎える方や、実際、今、悩んでいらっしゃる方に、とくにこれだけはちゃんとわかっておいてほしいというポイントはございますか。
(角田) 両立できるのかなと不安な方が多いので、介護を「親孝行」とか「恩返し」とか情緒的に捉えないで、「プロジェクト」として考えてほしいと提案しています。プロジェクトとなると、一人でプロジェクトはなじまないので、ケアチームを組成しようということになります。ビジネスマンの皆さんには一般的な「PDCAを回す」という考え方とすごく似ているので、そういうふうに片仮名言葉でやったらどうですかと提案しています。
 また、「両立できるのだろうか」ではなくて、「両立しま~す」と、明るく宣言すると、周りの人もきっと力をかしてくれると思うんですよね。隠れ介護でどんどん暗くならないで、明るくやってほしいなと思います。
 そのためには、やはり相談が大事です。自分で考えようとすると、ろくな知恵が湧かないのが普通なので、専門家に頼ったり、お医者さんに頼ったり、何でもいいんですが、本当に相談が大事ですよということです。
 この三つを伝えています。
(紀伊) ありがとうございます。そういうことも例えばセミナーでお話をされたりすると思うんですが、こういう両立支援プログラムを取り入れられた企業様で、風土が変わったり、「導入前後でこんな変化があった」といった事例があれば、是非ご紹介ください。
(角田) 管理職の方や人事部門の方に対してセミナーを行ったときの感想を紹介させてください。こんなコメントがありました。
 「両立するためには、介護の知識だけではなく、働き方改革も欠かせない。制度を厚くすることばかり考えていたが、中抜けを含め、残業をさせないことが重要である」「介護休業よりも時短のほうが介護向きである」「介護者へのアプローチの方法を理解でき、相談に対するための情報が得られた」、そんな声をいただいています。これから自分たちがどういうふうに取り組んだらいいのかということが整理されて、自社の両立支援制度を見直したり、あるいは働き方改革につなげていただけるような期待感が得られました。
 それから、一般の従業員向けのセミナーですごく私が印象に残ったのは、セミナーが終わった後にある方がいらっしゃって、「自分は、大阪に住んでいる親に介護が必要になったら、仕事をやめて大阪に行かなきゃいけないんだとずっと思い込んでいたんだけれど、やめなくてもいいんですねと思えました」と言っていたんです。大阪には大阪の、そこでのチームケアを自分が活用して遠距離介護をすればいいんだと思ったというのは、すごくうれしかったことでした。
 もう一つ、「こういうセミナーをわが社がやってくれたというのは、いい会社になりましたね」と言われて、そうか、愛社精神まで高めることができたのか、とも思いました。
(紀伊) ありがとうございます。
 下河原さんにお聞きしたいんですが、冒頭ご説明のなかに「これからは働く人もどんどん増えていくから、高齢者住宅は必要なんだ」というお話があったと思います。実際、銀木犀にご入居の方のご家族も、働きながらというケースが非常に多いと思うんですが、皆さん、どんな工夫をされていらっしゃるのか、是非ご紹介ください。
(下河原) 例えば自宅で介護をしていて、大分しんどくなってきて、とうとう自分の親を高齢者施設に入れなくてはいけない、という想いのご家族が結構あるんですが、そのときに、僕ら住宅側の人間としては、「違う、違う、おいしいとこ取りですよ」という話をしています。
 要は、介護を担当するのは我々、プロとして仕事をしています。ご家族でいがみ合ってしまった部分が多少あったならば、介護というちょっとしんどいところをプロに任せて、会いに来てくれる時間をつくってほしい。我々は機嫌のいい状態でいつも生活できるようにサポートしているので、今までいがみ合っていた関係を修復する時間に充ててもらえるとうれしい、そういう話をすると、ご家族も結構たくさんの日数来てくださるんです。
 最終的には、「あのまま家でずっと介護していたら、その先がどうなっていたか、本当に怖いです。こういうかたちで、いい距離感で家族と向き合えるようになって本当に幸せ」という方が圧倒的です。
 「施設に入れることが悪いこと」というイメージを変えていかないといけないと思います。
(紀伊) ありがとうございます。
 佐々木先生の患者さんのご家族の方でも、やはり働きながらという方もいらっしゃると思うんですが、先生はご家族のお仕事の配慮について、どうされていらっしゃいますか。
(佐々木) 僕は、「家族の生活をまず第1にしてください」とお伝えしています。そこがきちんとできないと、ケアはできないんです。「家族が仕事を休まなければケアができません」という状況であれば、昼間からきちんとケアを組むようにしていく。僕は「週末だけ、ちょっと一緒にいましょうか」みたいな感じでもいいんじゃないかと思っているんです。
 ただ、おばあちゃんが、夜中、ワーッと言ったら隣の部屋で寝ている娘さんは行かなきゃいけない。娘さんは昼間、仕事をしていて、夜眠れないので、健康は維持できなくなっていく。そのような時は、夜間対応型のヘルパーとかを頼むこともあれば、地域のなかに例えば銀木犀みたいなものがあれば、そこに入っていただくよう考えてもらう事もあります。
 僕の患者さんで、癌の末期の方がいて、ダブルキャンサーといって、二つの癌の手術をして、もうどうしようもないという状態で。娘さんが遠方にお住まいだったんですが、娘さんがケアに行くのが大変なので、近くに呼び寄せたんですね。しかし、ご主人もいるので、気兼ねもあって自宅ではなく、近くの銀木犀に入ってもらった。お母さんの感想は、「どうせ住み替えだし、娘の家で気を使うよりは、こっちのほうが住み心地がいいよ」とおっしゃっていました。娘さんも家が近いから、自宅の離れのような感じでちょこちょこ来て、お孫さんなんかも毎日のように来てくれて、そこでお看取りされて、「自宅と変わらないね」と言って旅立っていかれました。
 だから、住まいの選択も含めて、すべて介護だと思います。もちろん、どれも一長一短がありますが、ご家族の納得というのがあります。正解はないんだと思いますが、ご本人とご家族にとって最適な選択ができるように、まずは選択肢を示す。それぞれの選択をしたときに経済的な要件も含めてどういうふうになるのかということを伝える。
 癌の場合は、最悪、病院という選択も、もちろん、ないわけではありません。認知症の場合は、どうしても少し長期戦になるので、先ほどおっしゃった通り、まさにプロジェクトだと思います。家族が抱え込むと、家族が先に破綻することは往々にしてあるので、家族が抱え込まなくていいんだよ、ということを家族にきちんと伝えていくのはすごく大事だと思います。
(紀伊) ありがとうございます。きちんと選択をすることが大事で、その選択を支援するものとして、例えばwiwiwさんがやっていらっしゃる企業向けのセミナーもあるのでしょう。
 介護や医療については、多くの人はそれに直面するまでは理解しにくいですよね。介護保険制度も難しいし、高齢者住宅もいろんな種類があって、どこがどうなのかわかりにくい。家族側のリテラシーをどこかの時点で高めていく必要があると思うんですが、そのための接点として、一つは勤務先企業があり、下河原さんや佐々木先生のような医療・介護あるいは住宅の関係者がいらっしゃる。当然、行政としても、ご家族向けに、いかに仕事と両立ができるか、適切な選択ができるように情報をお伝えしていく必要があると思います。勝又さんにお聞きしたいのですが、そういったご家族向けの情報提供など、行政のお取り組みとして、今やっていること、これからやりたいことがあれば、是非教えていただきませんでしょうか。
(勝又) 介護離職の問題について、武蔵野市では、先ほど、お話しした 高齢者福祉計画・第7期介護保険事業計画に書き込みました。第6期までは大きく取り上げることはありませんでした。現状としてはそういう段階だと思います。
 角田さんの資料の最後のチェックリストの1番下に「地域包括支援センターに行って介護情報を得る」とありますが、私はこの地域包括支援センターを管轄している部署に所属しています。実際には、介護が始まる前に情報収集する方はほとんどいないので、こちらからどのように発信していくか、その組み立ては今後の課題です。これから取り組まなければいけないことだと思っています。
 行政の場合は、例えば保育園の入所など、介護以外の分野も関係してきます。今、ダブルケア、トリプルケアも話題になっていますので、育児の相談から介護の相談に広がることもあると思います。そういう相談に対応できるように体制を整えていくことも必要だと思います。
 高齢者支援課にいると庁内の職員の相談を受けることがあります。それも大体こっそりと相談にいらっしゃいます。もちろん、自治体によってサービスが違うので、なかなか踏み込んだところまでは相談できないのですが、「誰にも聞けないから来た」というようなところがあります。地域包括支援センターとして、介護が始まる前から介護の相談や情報収集ができるということを、もっとPRしたいと思います。
(紀伊) ありがとうございます。自分ごとにならないと、なかなか情報収集しに行かないかもしれませんが、「備えておく」というか、知っておくことは非常に大事な気がします。
 角田さんから、うまく仕事と介護の両立に取り組んで、成果を上げている企業の成功例みたいなものがあれば、最後に教えていただきたいんですが、いかがでしょうか。
(角田) 社員が「介護と仕事の両立のイメージがわからない」という実態把握ができたので、それに対してセミナーと介護ハンドブックで情報提供すると、先ほど申し上げた通り、社員からは「いい会社」だと思ってもらえる。また、本社の中枢の人たちだけでその情報を共有していても、工場の従業員さんなどには全然広がっていかないので、各地にある支店や工場でも介護セミナーをやってくださった会社があります。そうすると、本当に反応がよくて、地方色にあふれた質問が出ます。そういった従業員の方には、「本社だけが大事なのではなく、自分たちもこの会社の一員として大切にされているんだ」と受け取ってもらえて、すごく士気が上がったという実感を得たしたときは、よかったなと思いました。
(紀伊) ありがとうございます。実態をまず把握したうえで、情報をいかに伝えていくのかが大事ですね。佐々木先生に今日お話しいただいた「医療との向き合い方」のようなものも含めて、セミナーのコンテンツなどにして、うまく企業経由で伝えていけたらいいのではないかと、本日お越しの皆さんの反応を見ていて感じました。
 残りの時間が少なくなってきましたが、最後に、西沢さんから、今日の議論全体を通して、これからの制度や社会保障の仕組みも含めて、このあたりがポイントになるのではないか、ということをまとめていただけますか。



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