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【その1】テレビの未来を見据え「ながら。」 ~真説・メディアの同時利用論~ 12. 制作費削減の煽りは、いずれローカル局問題へ
2009年06月12日 井上忠靖氏 (電通総研 コミュニケーション・ラボ チーフ・リサーチャー)、倉沢鉄也、、叶内朋則、紅瀬雄太
12. 制作費削減の煽りは、いずれローカル局問題へ

(倉沢)テレビの制作予算がなくなれば、単純につまらなくなると聞いています。これは悲しいかな、現場の努力はいろいろあるんだけど、面白いか、面白くないかは、突き詰めていくと予算になるということのようです。
(宮脇)でもその先にはタレントのギャラが下がっていくということでしょうから、そういう意味では脚本やセットやロケなどの工夫は確かに減っていくのだけれど、タレントさんはいい商売でなくなるのではないでしょうか。
(井上)制作費削減という具体策までは出ていますが、具体的にどこの質が落ちていくのかはまだ何とも言えないです。タレントに響くかというと、2007年までの売上ベースでは、吉本やホリプロのような強いタレント事務所の売上はまだ落ちてないです。08年度以降の決算では影響が出てくると思います。
なぜそう思うかというと、ここ10年来、テレビの制作費は絞りに絞ってきて、番組制作会社への支払いは、正直言って雑巾が乾くまで絞り切っている感じがあるので、ここにしわ寄せを持っていくのは、テレビ局といえども正直難しいのではないかという気がしています。もう自社のディレクターレベルのスタッフを制作現場に張り付かせることも難しくなってきて、数字とスケジュールの管理しかできていないのが実情です。

(倉沢)テレビ局社内人材のコスト削減をさらに進めるのではないですか。スタジオなどの設備は編成にも関わるおおごとですし、手をつけやすいのは人件費の削減でしょう。役員報酬の削減等が始まりましたが、一般社員の給料削減も進むでしょう。役員報酬は一種の見せしめですからね。経営視点で言えば、45歳過ぎて現場に出る気力体力がないのに1200万円からもらっている中間管理職のオッサンがいっぱいいるという状況を解決しないといけないです。それは、正直言って大手広告代理店も事態は同じです。
(宮脇)たぶんその先、長期的にダウンスパイラルが続いたときに考えられるシナリオとしては、ローカル局との関係を見直さざるをえなくなるのではないですか。現状ではローカル局へ全国ネット放映の電波料という形で、事実上の仕送りを続けていると聞いてます。
(倉沢)全国ネットで広告を売ること自体はキー局の大事な収益源でもありますから、放送法の改正にあわせてローカル局同士を合併させるなどしてエリアを広域化し、地元の中核都市の購買力である程度支えてもらう流れを作るというシナリオも十分ありうるでしょう。ただ、ローカル局が自助努力をしなくなってもう何十年もたってしまいました。全国ネットで収益の8割からを稼いで、電波塔でいるのが一番ラク、ローカル制作にローカル広告を自分で頑張るということがもうできない、という遺伝子の集団になっていると見たほうがいいでしょう。ローカル局は、置かれている地域経済の状況もさることながら、企業としての体質が変わり、若い人がこれまでの半分の給料でローカル制作にローカル広告を自分で頑張る、という仕事を始めないと、本当に壊れるなという感じがしています。手厳しいかもしれませんが、テレビが日本人の大事な財産である以上、自分の高い給料をとやかく言っている職業ではないのだ、公職なんだ、仕事は面白いからがんばるんだ、というくらいの発想で取り組む職業なのだと思います。
(井上)そのあたりは、立場上申し上げにくいことも多いのでコメントは勘弁いただきたいところなのですが(笑)、本当に闇が深いです。ただ、倉沢さんが言われることは、正論として聴くに値すべき話ですね。局によっては、地デジの投資と不景気がダブルパンチになって、ローカルでの経営に正直限界を感じているところもあると思います。その部分に手を入れることになるかもしれませんが、日本の景気次第ですので、ちょっと今後はわかりません。
(宮脇) いくつものローカル局で本当に経営が立ち行かないというのなら、それはもはや県単位の免許を出しているという制度自体がおかしいということになって、先ほどの例えのとおり、キー局の電波塔機能を担うという形が制度上認められていくことにならないのですか。
(倉沢)井上さんは言いにくいところなので私が全部言ってしまいます。
経営体として生きていくだけなら、東京の番組と東京のCMを流すのが一番いいのです。市民の多くは東京の番組とCMを見たいですし、そのほうが視聴率がとれるのです。問題はそうなると県域免許を与えられている制度の方になって、なぜそんな仕組みなのか、という話になってきます。

具体的には、各ローカル局が地元経済界の出資を相当程度受けていること、総務省側の電波政策上の建前の問題、キー局からの‘天下り’の問題、などいろいろです。この問題は、問題点をローカル局自身が一番わかっているので、外部や上から目線での改革はうまくいかなくて、身内から改革の機運が起きないと始まらないということが、コンサルティング的な視点だと、言えます。
(大木)ローカル局をクライアントにして番組を制作したり、他の媒体に広告出稿してもらったり、ということもあると聞きましたが実態としてはどうなのでしょうか。
(倉沢)媒体社が別の媒体に広告主として露出するというのは、実はアメリカでは顕著な動きです。アメリカのテレビの上位広告主にラジオ局があり、ラジオの上位広告主にテレビ局があります。日本の場合は資本関係が強いので、新聞雑誌が混じって互いの露出をしていくイメージになると思いますが、日本でこの動きはその後何もないのですか。
(井上)現在でも、テレビが広告主で他の媒体に露出するというのは、かなりあります。新聞社も各社盛んにテレビCM出しています。大手のネット媒体はテレビの深夜スポットにつくことが多いですね。DeNA(モバゲー)、ミクシィなどはテレビをつけていても目立ちます。価格が安いし、彼らの潜在ユーザーにマッチしているということでしょう。
今後こうしたトレンドが続くのかは、わかりません。出稿のオーダーは日本の景気次第ですし、媒体価格についてもスポットを含めてどんどん下がってくれば、その価格なら買うという新たな広告主も当然出てきて、需給バランスが修正されてきて下げ止まるということにもなるでしょう。このサイクルは景気よりも早く来ると思いますので、今は粛清ムードですが、何年かすると「のど元過ぎれば熱さ忘れる」でまたお祭り騒ぎになってしまうかもしれません。しかしこういう機会こそ、問題の本質に業界としてきちんと手をつけるよい時期だとは思います。
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