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【その1】テレビの未来を見据え「ながら。」 ~真説・メディアの同時利用論~ 5. 極限のコストカットと「面白さが命」の狭間に、コンテンツ二次利用の現実を見よ
2009年04月17日 井上忠靖氏 (電通総研 コミュニケーション・ラボ チーフ・リサーチャー)、倉沢鉄也、、叶内朋則、紅瀬雄太
5. 極限のコストカットと「面白さが命」の狭間に、コンテンツ二次利用の現実を見よ
(倉沢)テレビコンテンツの二次利用の話は、テレビ局のビジネスの中で番組制作というものがどういう位置づけにあるのかをわかって論じる必要がありますね。
フジテレビの営業収入という数字を見ると、タイムとスポットとを足して広告収入が7割ですが、これは地上波放送局としては異常に低い数字なんですね。他のキー局は8割超です。
フジの「その他事業」は、具体的にはDVD販売の権利の収入と、「踊る大捜査線」シリーズに至る映画事業の収入です。そうなった理由は、もともと歴史的にハリウッドの大作や日本のヒット作の映画を地上波で流そうとしたときに、日テレやTBSに放映権を買われてしまって、フジはしょうがないから自分で映画をつくるしかなくなって、それが時間をかけて育ったからです。最初は「南極物語」というタロとジロの映画をつくって、以後、本腰で映画事業をやらざるをえなくなった結果、「踊る大捜査線」「海猿」のように、映画をヒットさせてテレビドラマがヒット、ないしテレビドラマを映画にしたら大ヒット、という歴史の積み上げがその異常な数字を作っている、という読み方をすべきですね。
だから映画事業を伸ばせばテレビのコンテンツ市場は伸びるという言い方もありえますが、それはフジが仕方なくやって道を切り拓いたに過ぎません。番組の焼き直しを映画でやったからテレビ局が持ち直すか、という安易なことではありません。テレビ番組はもともと広告との組み合わせでインパクトを持たせるように作ってあります。何度も繰り返し見て感動するようには作られていないのですから、映画事業ではドラマと別物を作るという心構えが必須でしょう。そこをわからないと、何か計画経済のように市場が伸びる、そのために番組を死蔵しているテレビ局はずるい、何か制度を使ってこらしめなければならない、という物言いが、官庁街から安易に出てきてしまうのだと思います。
(井上)フジテレビには、事業外収入として通販会社ディノスの売上が含まれている事情も勘案する必要がありますが、いまご説明のあったとおり、歴史的に映画事業を中心に、放送外事業収入を伸ばすことに力を入れてきました。「踊る大捜査線」のヒットを見て、よその局も、これはいい、ということで急に映画に力を入れるようになってきたというのがここ3~4年ぐらいの流れですね。その結果、日本の邦画マーケットだけを見ると、1960年代の黄金期以来の第2の黄金期という、空前の活況を呈するというおまけがつきました。
(倉沢)一方で、テレビ局がコンテンツ制作に対してどういうコスト配分をしているのかということにも視線を注ぐべきでしょうね。
キー局で見ると、番組制作に関わる社員は1割強から多くても2割といったところです。もちろん外注スタッフがたくさんいるわけですが、ようするにコストダウンの対象だと言って差し支えないです。それは広告放送のビジネス形態として、放送開始の時点でもうタイム広告枠は売り切っていて、あとは制作予算の上限が決められている、その増減は前の番組の視聴率次第で増減する、と言った位置づけだからです。だからこそ、編成や営業という、お金をあらかじめ集めるために努力する人たちが正社員で3割います。
番組制作という存在はテレビ局において実は金食い虫であって、しかしテレビは番組の面白さが命だと言い、インターネットの企業がそれを羨ましがるけれど、その現場では極限まで人件費がシェイプアップされている、その結果、視聴者の状況とビジネスの状況に極限まで順応して番組が作られている、という現実を見る必要があります。
テレビ番組の二次利用の促進がトレンドなどと声高に叫んだところで、いくら利益率が高くて小銭が儲かるといっても、1割にも満たない売上のために、テレビ局はそうそう積極的には動きませんよ、という捉え方をしておく必要がありますね。
こんな話は、別に新しくもなんともないのですが、コンサルティングの場だと、意外と目新しい分析ですねと言われたりします。
(井上)いまのような話を外国人相手にすると、すごくびっくりされて、ある意味でウケがいいですね。日本のメディアビジネス事情は、世界的にやはり特殊です。「なぜ?ヒット番組を生み出してもプロデューサーはボーナスが出ない?制作会社にボーナスも出ない?次の仕事をもらえるだけでハッピー?アンビリーバブル!」となりますね。日本の番組制作状況というのは下請けの制作会社にしわ寄せが行くわけですが、これは純粋に市場の力関係としてそうなっているわけですから、経産省や総務省が制度でいじっても何も改善しないでしょう。
(倉沢)最大の問題は、テレビ局の制作部門の正社員が、では自分で作りなさいといわれたときにその能力を若いうちに鍛えていないから丸投げしかできなくなっていくという、能力の喪失ですね。
(大木)欧米だと、そもそもテレビ番組制作側の、プロデューサーの役割が違いますね。資金集めそのもの、日本で言うと営業の仕事もプロデューサーが仕切ることになります。日本のテレビのプロデューサーはそんなことしませんよね。正社員にも制作会社にもそれがないまま運営されて続けているところが、世界的に見て特殊ですね。
(井上)そうですね。きわめてレアケースですが、番組制作プロデューサーがあらかじめ広告主と握っておいて、いくらぐらいなら予算が組めそうだという話までするということもないではありません。しかし、基本的にはあらかじめ制作総予算が決まっていて、あとは社内政治的にぶんどり合戦をするという話ですから、これを欧米流のプロデューサーと呼ぶのか、コストと品質の管理をしているだけじゃないか、となると「このプロデューサーという言葉は和製英語です」と言わざるを得ない側面も確かにあると言えばあります。
(大木)アメリカは番組ごとに制作会社が明確に契約を結んでいるはずですが日本はどうですか。
(倉沢)日本でも最近は番組ごとにきちんと契約書がありますよ。テレビ局と制作会社も、広告代理店と広告主も、です。あとは仕組みとして契約金額が固定か固定ではないかというだけです。
(井上)日本も主要キー局は上場企業になりましたし、1枚2枚程度の内容ですが共通契約書のようなものは作っています。但し、実態としては以前と変わらず口約束に近い仕事内容も少なくないと聞いています。
(倉沢)制作会社の二次利用の権利が弱いということも、現代では契約書に1行2行ですが明記してあるのでそれは両者の合意事項だ、という扱いになってしまいます。
少し古いのですが、下請け会社に丸投げしてつくった番組の二次利用はだれが権利を持っているかという調査を見ますと、著作権そのものがないことも含めて二次利用で制作会社に1銭も入ってこないと答えた会社が6割です。二次利用権をください、なんて言ったら、もうおまえのところには仕事やらん、ほかにあたる、って言われて終わりになるだけのことです。調査の総数が72というのは、対象企業は主に大手制作会社でしょうから、制作会社保有と共有であわせて27%という数字は、逆にこんなにあるの?という気もしますが、それでも他の業界では考えられない不利な条件での取引、という印象の調査です。だいぶ古い調査ですが、今も事情は大きく変わってないはずです。
(井上)番組制作「プロダクション」というクラスであれば、この調査結果は妥当でしょう。現在は下請法も厳しくなって、少しずつ環境整備も進んでいます。とはいえ業界としては、契約書を含めて書面でビジネス条件を取り交わすこと自体は定着したものの、契約内容を交渉する、対等に自己主張するという余地は少ないでしょう。それは両者の力関係上やむを得ない側面もあるのでしょう。
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