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【その1】テレビの未来を見据え「ながら。」 ~真説・メディアの同時利用論~ 10. テレビを見ない女性、は依然マイノリティー。自己体験を消してデータを見よ

2009年05月29日 井上忠靖氏 (電通総研 コミュニケーション・ラボ チーフ・リサーチャー)、倉沢鉄也、、叶内朋則、紅瀬雄太


10. テレビを見ない女性、は依然マイノリティー。自己体験を消してデータを見よ

(叶内)個人的な例としては、私の妻がまったくテレビを見ておらず、Yahoo!ニュースの配信でニュースを網羅しているので、私よりもずっと世の中のことに詳しいです。そういう人たちが今のテレビの危機の原動力になっていると思うのですが、この人たちはテレビCMのような流行の情報をどこで手に入れているのか不思議な感じがします。
知人の女性たちの話を聞いていると、テレビドラマの話はあまり出てこなくて、「24 -TWENTY FOUR-」や「SEX and the CITY」のような米国ドラマや映画の話が出てきて(地上波)テレビよりもレンタルビデオなどに視聴時間を使っているように思えます。こういう傾向の女性が複数いますので、20代30代のOL層というのは実はテレビを見てないと思われます。

(井上)その話もまた、いくつかに整理する必要があります。
まず、叶内さんの奥さまや知人の方のようなスタイルの方は今、日本全体のマーケットにおいてはまだ少数派だという厳然たる事実を確認する必要があります。F1層なら2~3割もいないかもしれません。その方々と、テレビ視聴を支えてきた意味でのF1、F2層というのは、全然違う層の人です。
この手の議論で厄介なのは、皆さんそれぞれに社会属性があって、自分の周りの価値を基準にお話をされるので、マーケット全体で見たときどうなのかを飛ばしているということなのです。自分の周辺を基準に考えてしまうくせは、人間として当然ではありますが、マーケット調査をしてマクロに語るべき事柄ではそうした認識から一度離れて数字を見ていく訓練が必要です。テレビを見ているF1層が100%いるわけではなく、見ていない層も過半数を占めているわけではないのです。マイノリティサンプルを持ってきて「こんな方々もいます」という説明は、それは事実ではありますが、そのことと今のテレビの視聴をマクロに考えることは、因果関係がないので、議論を明確に分けないといけません。
こうした論客の多くの方が、テレビのメインの視聴層の方々に会ったことがたぶんなくて、「会ったこともないのに、なぜテレビについて語れるんですか」という指摘を繰り返ししなければならないのがいつも疲れるところです。
話を戻して、先入観を外してデータを見ていきますと、テレビをまったく見ないF1層は確かにまだ少数派なのですが、そういった方々は10年前にF1にほとんど存在していなかった層であることは確かです。今後のシナリオとして、1つにはこういった方々が今後増えるという考えがありますが、これは可能性が低いと考えます。残念ながら女性が働ける社会環境が急激に変わらない日本では、20代30代でパソコンリテラシーを十分高めたOL層の方々は、その後会社を辞めて、子育てあるいは親の介護というライフステージを多く経験せざるを得なくなっていると予想されます。そこでテレビに戻ってくる割合が、現実にはかなりのボリュームになっています。かつてテレビを全然見なかった方々がかなりの時間テレビを見るようになる、という可能性が高いと思います。だから女性層のマジョリティーがテレビのヘビーウォッチャーだという点は今後も変わらないはずです。
ではテレビがそれで安泰なのかというと、そうではありません。もう1つのシナリオとして、Yahoo!ニュースしか見てない方々が形成する、ネット上のコミュニケーションの中で、「テレビって面白くないね」という世論がつくられつつあることは確かで、これが流布していくと、先ほどから話が出ているような、商業媒体としてのテレビの通貨価値自体が揺らいでくることになります。このことの方が、実は深刻な危機だと考えています。

(倉沢)NHK文研がブログの話題について調査したものを見ると、ブログというメディアではテレビ番組はあまり話題になってないようです。ブログですから日常の出来事が多いのは当然ですが、ネットに長時間使っている人の日記的な内容の中にテレビが挙がってこないという状況はあるようです。


(叶内)この検索ランキングは、瞬間的なブームに関わるものが多く出ている印象を持ちますが、例えばとんねるずの「食わず嫌い王選手権」で出てきたおみやげの検索が伸びる、ネットのアクセスはテレビの影響力が大きい、ネットアクセスをこれだけ誘発しているメディアはほかにない、ということだと思います。

(紅瀬)テレビCMの力が弱ったという話も、結局テレビで後押しされて、ネットで調べてから買うので、最後に触ったメディアはネットだという印象が個人には残るのだけれど、eコマースそのものも含めた消費の後押しをしているパワーとしてはまだ可能性が多く残されているのではないかと思います。

(井上)いわゆるネットリテラシーの高い女性層は、全般に所得が高い傾向にあります。一方、テレビ広告の効果という点で所得の高い層がいいお客さんかというと常にそうとは限らない。そもそもマーケティングプランを検討していくにあたって、商品やサービスの種類によってメインターゲット像というのは全く異なってくる訳です。テレビが万能とは決して申しませんが、テレビ広告を見て素直に買ってくださる方を、ターゲットとする商品やサービスも少なくない、実態はそうしたものだと思います。

(倉沢)PCの利用頻度は、もう悲しいぐらい世帯年収ときれいにシンクロする、というデータも、10年ぐらい前からあります。電通総研が以前に何年か続けていた調査でした。

(宮脇)インターネットを突破口に売上を伸ばしたいという主張のコンサルティングを担当していてクライアントからよく聞くのは、「テレビ広告の市場が2兆円もあること自体が割に合わない、ネット広告をクリックする人、ネット通販で買う人のボリュームに対して市場が合っていないのではないか」という認識なんです。この人たちはテレビをほとんど見ない2割の人たちを相手にして、それで成り立たせようとしている節がありますね。


(紅瀬)モバイル広告は今、ネット広告と違うターゲットに対する、「下流食い」と言うべきビジネスの状態になっていて、それでいいのか、それで市場は今後伸びるのか、という話を、モバイル広告業界の方々とディスカッションしました。テレビもまた「下流食い」かもしれないですね。この日本の経済状況では今後この消費ボリュームに限界があるターゲットを収益源にしていていいのかという問題意識は、モバイル広告業界側は強かったです。


(井上)テレビ広告とモバイル広告の、マーケティングにおける相性はいいと言われています。そういう意味でテレビ広告もまた「下流食い」をしていて、商品単価は低くてもその圧倒的な購買者数と商品売上額ゆえに、広告単価を非常に高く設定できる広告媒体だということが言えるのかもしれません。
10代の携帯ヘビーユーザーの調査を見ると、テレビ視聴時間が意外と長かったりします。この層はテレビについて詳しいし、テレビを見ながらケータイをガツガツ検索したりメールしあっているような層です。一方PCがメインの端末になっている層というのは、ここにいらっしゃるような、20代30代40代で仕事をしている方、PCが生活なり職場なりの中心にあるという人たちで、あるボリュームは持っていますが、絶対多数ではないという認識を踏まえる必要があります。下流というと語弊がありますが、中流のかなり幅広い人たちまでが、PCをあまり使わないで、テレビで後押しされて、ケータイをさわって、それでほとんどのことに満足しているというのが現状です。

(倉沢)ケータイ広告が下流食いをうまくしたという見方は、私は半分正解、半分違うと思っています。1990年代後半のPC上のネット広告がいかにも苦しくて、このままだとケータイ広告のIT系のオタクな広告媒体になってしまって媒体として育たない、ここから爆発的に伸びつつあるメディアの広告媒体としてきちんと使っていこう、という危惧感がありました。それを見越して初めからケータイ広告のレップ業務(広告媒体取扱専門業態)を、キャリア3社と電通と博報堂で押さえてしまいました。そこに結果としてナショナルスポンサーを持ってきたら、店頭販促ツールとしてうまく機能した、という歴史をたどったのです。結果論としてテレビ広告との親和性を示すに至った、ということではなかったかと、1998年前後の議論を思い返しています。
iモードが1999年2月開始、ケータイ広告が2000年4月に本格スタートですがこの時点でドコモが約1000万契約。その辺でようやく携帯電話が中流下流の人も使う「ケータイ」になった感じの世の中だったと思います。PCとケータイのネット広告がその時点で大きく違うことを前提にした知見は、彗眼と言うべきでしょう。

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