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【その1】テレビの未来を見据え「ながら。」 ~真説・メディアの同時利用論~ 6. 番組の質の低下?それは視聴者とビジネスの必然

2009年04月24日 井上忠靖氏 (電通総研 コミュニケーション・ラボ チーフ・リサーチャー)、倉沢鉄也、、叶内朋則、紅瀬雄太


6. 番組の質の低下?それは視聴者とビジネスの必然

(倉沢)番組の質の低下の話も、今にはじまった話ではないです。たとえば私の子どものころに「8時だよ全員集合」は質が低いからスポンサーの商品を買わないのだ、といった母親たちの声が大きかった記憶があります。ネットやケータイに視聴時間を食われているという前に、これも1980年代に普及してきたリモコンという存在によって、テレビ局同士の食い合いが劇的に激しくなった歴史を乗り越えているという事実を記憶しておく必要がありますね。秒単位で他局に移る視聴者を引き止めるための番組づくりやCMづくりの工夫が30年来行われてきているので、対インターネットが史上最大の危機とは言えない、という見方もしておく必要があります。たとえばドラマのCM前のシーンで出てきた主役級のタレントが出ているCMを1発目に出すという単純なことも含めて、テレビ側も意外と足腰は強い、したたか、ただしそのノウハウは経営戦略として何も体系化されていない、という面をきちんと認識して、この手の議論をする必要があります。

(井上)番組の質の評価で難しいのは、誰にとっての質かという話です。テレビはいま、F1層(20~34歳女性)とF2層(35~49歳女性)、つまり購買意欲と決断の権限を持った女性たちに向けて作っていると言って差し支えないでしょう。はっきり言って男性のために地上波のテレビ番組は作っていないですね。おじさんおじいさんたちが番組の質をとやかく言っているとしたら、それはそれで気持ちはわかります。彼ら向けには作ってないのですから。もうオールターゲットの番組をお茶の間で見るなどという幻想は遠い昔の話ですので、そこでお茶の間テレビ論が出てくるのは、テレビが現在どう作られていて、何をビジネスとしているか、をつぶさに見ていない人の挙げる論点と言わざるを得ません。こうした議論を述べる立場にあるおじさんおじいさんは、そのことを早く認識、自覚すべきでしょう。

(宮脇)論じている人がわかっていないという点は重要ですね。テレビへの悪口のひとつとして、バラエティの時間帯でチャンネル変えて、どのタイミングから見ても同じような番組が出てきた、逆にバラエティ番組を1時間ずっと見ようとすると、単調な繰り返しで見続けるとつまらない、チャンネル変えても全部同じことやっている、という物言いがあります。おじさんおじいさんのアレルギーは、女性向けにビジネスをせざるを得ない事情から出ているのでしょうね。

(井上)テレビをめぐる議論の中で、多様性がないという点は常に指摘されているところですね。それはそうです。そういう議論をしている人に向けて番組を作っていないし、その人たちはテレビを見て、CMを認知して、商品を買うきっかけにしてくれたりはしないのです。あなたが見たいテレビは儲からないです、ということではないかと思います。そこで次の議論としては、その「おじさんおじいさんがじっくり見て、儲からないテレビ」を基幹放送たる今のキー局がやるべきなのか、NHKがやってくれという話なのか、BSデジタルがやれという話なのか、ということになります。どの層にどのメディアが映像を見せるのがしっくりくるのか、といった議論もすべき時にきています。

(倉沢)ではおじさんおじいさんが自己主張するほど、人々はじっくり番組を見ているのか、その人たちに答える意味があるほど番組は見てもらえるのか、というと実態としてそうなっていないようです。じっくり見る番組はBSデジタルなどのモアチャンネルでやっていますのでそちらで見てください、その代わりてんこ盛りのテレビショッピングを見ていただくか、月額視聴料金を申し受けるかのどちらかですよ、となります。それでテレビ局のビジネスが成り立つか否かは、その次の議論になります。

(井上)その象徴が、かつて高視聴率を誇ったジャイアンツ戦の、近年の扱われ方です。今はもう地上波ではほとんど消滅したに近い状態ですね。その分、BS各局が野球の中継をまじめにやっていて、M2層とM3層つまり35歳以上の男性が確実にそちらに流れています。そういった意味でBSの視聴率は、まだ地上波と肩を並べるほどとまでは言えませんが、順調に育っています。
ジャイアンツ戦が地上波テレビのゴールデンタイムから徹底せざるを得なくなった最大の理由は、チャンネル権をメインに持っているお母さんや娘たちはまったくジャイアンツ戦に興味を示さないからです。昔のようにお父さんがチャンネル権を握っていて、強制的に見させられて、否が応でもジャイアンツの選手を覚えさせられた、といったサイクルが途切れてしまっています。かつての高視聴率の定番番組が、家庭の構造的な変化の結果として消えていったことの象徴的な事例だと思います。

(倉沢)それと、社会の関心ごととして、昨日の巨人の勝ち負けの結果というものが、世代で共通のニュースにならない時代になったということもあると思います。それは単にインターネットなどニュースメディアの多様化ということでなくて、話題そのものの多様化、さらにはテレビのオンエア時間におけるニュースの時間が増え過ぎて話題が分散している、といった事情もあると思います。

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