1.マイノリティ側の視点を突き詰めて、生活者に至る
今回登場する佐々木は、15年以上前から「子ども総研」という言葉を使って、次世代の意見を反映させた政策提言やコンサルティング活動をすべきではないか、という問題意識を持っていた人だ。佐々木が率いているグリーン・マーケティング・ラボ
の活動についてはぜひ同サイトをご覧いただくとして、本稿では年間3,000人以上の小学生と対面する中で、彼が感じていることに迫りたい。地球工学や環境工学を専攻して日本総研に入社し、環境・エネルギー・脱炭素畑のコンサルタントとして活動してきた佐々木の経歴は、「本流」という印象を与えやすい。しかしもともと、「メインストリームじゃないところ」「マイノリティの側」「流れに逆らう」という視点を好んできたという。「東京からではなく地方から」、「エネルギー供給側からではなくて需要家から」などの考え方に基づき、顧客への提案やコンサルティング業務を行ってきた。
気候変動対策の中心であるCO2削減策としては、一般には、排出量が大きい発電事業者や素材メーカー(鉄鋼、セメントなど)がいかに削減できるか、それを促す制度が作れるかに焦点が当たる。それは当然重要だが、電気や素材を使って事業を行う、排出量としてはさほど大きくはない「その他大勢」の需要家が何を買いたいか、という点に着目すれば、市場の声からもっと変えていけるものがあるのではないか。それが「供給側からではなく需要家から」という視点の変え方だった。
「需要家」を更に突き詰めれば、企業ではなく「生活者」という「ほんとうの需要家」に行きたい、という変化も、自然な流れだったのかもしれない。そして、生活者起点で脱炭素が進む、よりよい社会を作ろうと考えたときに、避けて通れないことが「行動変容」だった。生活者も、ある意味では分かりやすく「自分にとって得かどうか」「金銭的あるいはそれ以外でも、損得勘定で動く」ことが多い。しかしそれだけでは、脱炭素を実現するために必要な時間軸とあわない。「損得関係なく、やりたい」と思わせるようなジャンプがないと、脱炭素を実現できない。
2.ロジカルではないけれど大事にしたいこと
ヒントになったのは推し活や、ファンコミュニティだった。表計算ソフトで計算結果が出てくるような思考回路ではない、なぜか動いてしまうようなもの。ふだん、1円でも2円でも安い生活用品を選ぶ人も、遠くのライブまで行けてしまう理由。そういう心理と脱炭素や自然保全の掛け算には、スポーツ選手とファンが一緒に環境活動を行うといった例がある。
さらに、シンクタンクである日本総研として取り組める推し活がないか、と考えたときに出てきたのが「子ども」だった。「子どもたちのために」「将来世代のために何をしてあげられるのか」という感覚は、社会課題にもつながり、かつロジカルではないものにもつながっている。
こうして、目線をずらしていく思考回路と、「ロジカルではない」推し活という文脈が重なり、生活者の行動変容のきっかけづくりを子どもたち向けの体験学習で行おう、という企画につながっていったのだった。本当は最終需要家である生活者自身(≒大人)が自発的に学んで変わり、脱炭素につながる消費行動を取れるようになればよいが、なかなか変われないために、子ども起点で大人の意識と行動を変えていく。これが、グリーン・マーケティング・ラボの活動の根幹になった。
重要なのは、最終的にはお財布を持っている大人が購買行動を変えない限り、世の中の消費の流れが脱炭素なものに変わっていかないため、子どもたち向けの学習企画だけでは終わらせない、という点である。大人が行動を変えられるように、それを実践する場としての店舗や購買支援も行うことが、シンクタンク・コンサルタンティングの立場をフルに使える強みにもなる。教育の立場からみると、「モノを買わせるために環境学習が使われているのではないか」という警戒感が生まれないとは限らないが、学んだ知識を使って「モノの買い方」を変えたいという狙いがそもそもあるため、「こういうモノを買わせる」ことにつなげていかなければ意味がない。それについて嘘をつかずにちゃんと言えるような信頼を維持することも、佐々木が大事にしていることだ。気候変動やエネルギーの分野で長年やってきた専門家としての立場を活かしつつ、売り場に行って実際にそこに携わる仲間に入れてもらい、子どもたちに話し続けることでそれが成り立っている。
3.子どもの観察眼が、大人の無意識を動かす
結果、年間3,000~4,000人、2026年度は更に多い人数の小学生に対面で話をするようになった。出前授業以外に、水族館やショッピングモールなどでの大型イベントに出ることもあるため、そうした人数になる。学校の先生方からみると、20年にわたり脱炭素をテーマにしてきた「専門家らしい人がしゃべっている」ことが子どもたちに届くようである。日本総研だけではなく、このプロジェクトで協業しているメーカーや小売業など、いろいろな立場の人が同時にいることも魅力だ。立場の違いが、正解がないリアルな議論を見せやすくして、大人も悩んでいることが分かる、「本物の面白さ」につながっている。
子どもたちは、学んだことを家に持って帰り、家族と話をすることで、まわりの大人が買い物を変えるさまをみることができる。大人は子どもから学び、同時に子どもは大人が行動を変えるところを見える。それが、更に学びたいという意欲にもつながる。
実際、エコラベル探しに夢中になり、こちらが聞いてもいないのに続報を送ってくる子どももいる。「あの会社はこうした方がいい」「なんでこの会社はこういうものを作らないのか」と、率直に言ってくるし、質問攻めにあって大人がタジタジになることもあるという。
また、子どもは「ちゃんと」売り場の棚とモノを観察してくれる。大人は、「これまで製品の背面につけていたエコラベルを、前面に持ってきた」ことで満足して陳列してしまうところ、棚の手前には商品を押さえるレールがあった。製品の前面にラベルがあってもレールで隠れてしまい、「隠れているから見えへんやん」と言われると大人はどきっとする。「見えなかったら一緒」という本音が、大人の色眼鏡や解釈を取り払い、「言われちゃったなあ」という感覚になる。子どもはちゃんと観察してくれて、ストレートに表現することが本来できる存在であり、そうした意見を言いやすい環境であることも重要になる。いいものに対してはちゃんと「いい」、と言われることももちろんあり、そうした喜びは年齢には関係がない。
活動を通じて多くの先生や、教育委員会の方とも話をする。子どもへの説明のプロから、「こねくりまわさずシンプルにしゃべる」「行間を読ませない」「子どもに分かるような資料づくり」を学ぶ機会である。佐々木自身、5年前と現在を比べると、自分が作る資料の雰囲気が全く変わったと実感している。
活動を拡大しているグリーン・マーケティング・ラボには、脱炭素分野でのコンサルティング経験を積まずに飛び込んでくる若手もたくさんいる。佐々木が歩んできたような専門家のスタイルだけが正解なのではなく、生活者としての違和感の伝え方を磨いたり、事前に想定しきれないほどいろいろな人が集まるイベントをやり切る力をつけたりすることは、新たなシンクタンクのコンサルタント像を生むかもしれない。
※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
関連リンク
連載:子どもの声を聴いて動いた研究員のココロ
・【第1回】 導入
・【第2回】 学ぶ目的を意識すること
・【第3回】 自分の感じ方を大事にできる環境づくり
・【第4回】 子どものリズムに耳を傾け、時間を共に過ごす
・【第5回】 ヘンテコに触れて自由になる
・【第6回】 大学生に教えて、学ぶこと
・【第7回】 子どもの観察眼が大人を動かす

