1.「高校生まちづくりコンテスト」支援のきっかけ
玉川大学観光学部では、2021年から「高校生まちづくりコンテスト」を実施している。このコンテストは、高校生が地域の課題を整理した上で、当該地域が活性化するための具体的なアイデアを考案し、その実現に向けての提案を行うものである。
日本総研では、同年から協賛や審査等の支援を行ってきた(※1)。2023年までの3年間だけでも延べ85校、509チーム、1,655名が参加した。探求型学習の一環としてコンテストへの応募を行う学校もあるなど、年々規模が拡大している。
日本総研による支援のきっかけとなったのは、理事の山田英司である。経営管理や組織ガバナンスを専門とする山田に依頼があったのは個人的なつながりによるもので、自身が日本総研で「未来社会価値研究所」を立ち上げていた時期と重なったこともあり、複数のメンバーで関与しようと決めた。結果として、観光学部の専門分野に近いまちづくりや旅行、教育業界以外からの支援は珍しいものとなっている(※2)。
世の中にはさまざまな高校生向けのコンテストがある。山田は、決勝進出者の水準はどのコンテストでも高いという印象を持っていた。そこで、決勝進出チームだけを審査するのではなく、予選を通過できなかった参加チームの全部をなるべく詳しく見ることで、今の高校生の課題認識を理解したり、加工されていない声に近づいたりしたいという気持ちがあった。当初はどの程度の規模の作業量になるのか分からなかったが、せっかくやるならしっかりとリソースを投入しないといけない、という問題意識もあり、個人ではなく複数メンバーで、協賛も含めた支援を行うことに至った。
2.子どもへの影響力の大きい先生が学ぶ楽しみを伝えられるか
コンテストの審査支援には、大きく2つのアウトプットがあった。1つ目は、参加各チームに対する結果の分析とフィードバックである。参加した高校生一人ひとりはもとより、探求学習を担当する教員や、コンテストに参加した学校側が、継続的に質の高い取り組みを行うためには、現状が可視化されていないといけないというのが山田の信念である。そこで、審査のポイント別の到達度等をまとめ、フィードバックした。
2つ目は、コンテストの運営に対する助言である。主役は高校生という主旨を貫徹できるように、外部の視点からさまざまな意見出しを行ったという。
高校生からの提案には、当然ながら、多様なレベルがあった。探求学習を行うとひとくちに言っても、もともと調べることが好きで得意な生徒であればともかく、一般にはガイダンスを受けたとしても簡単にできるものではない。特に、部活や授業、行事等で忙しい生徒が多い中、「学びの面白さを引き出す訓練ができる環境がそもそも少ない」ことを、強く感じたという。
そのような中で、高校生に影響を及ぼす立場として、やはり大きいのは教員の存在であり、教員自身がトレーニングできていたり、自主的にボランティア活動をしていたりするなど、教員が学びの面白さを体現できていると、提案の質が高い傾向にあった。「理解のある先生が学びを引っ張れることが重要」だと山田は感じ、それを日本総研のような外部が、どのように支援できるか、ということは長年の課題であるとした。
3.「何のために学ぶのか」の重要性は大人になっても変わらない
さらに、山田からは、高校生の考える力や、課題を探す力が伸びる場合には、その背景に「何のために学ぶのか」が整理されているのではないか、という指摘があった。コンテスト参加校の中で、その意識が高いのが、高専や、農業高校、商業高校等の実業系の学校だったそうだ。この背景として、現場に触れることで、学問として学ぶこととのつながりを感覚的に得やすいという点が、大きいという。
例えば料理や美容には化学が、建築や飛行機には物理が、メディアには国語や歴史が深く結びついていることを、すとんと腑に落ちるような経験をできているかどうかが、学生時代では終わらない学びへの意欲につながるのではないか、という見立てにつながってくる。この経験を実業系の高校の方がしやすいかどうかは分からないものの、筆者を含め、学びに関心のある人であれば年齢を問わず、思い当たる節がありそうな指摘だった。
高校生を支援したことは、すでに経営コンサルタントとして豊富な実績を持つ山田にとっては、以前から感じていた仮説を確認する機会であったのかもしれない。しかし同時に、高校生の提案に対するフィードバックを行ってきたプロセスが、「何が自分の能力開発につながるのか」を可視化することの重要性という点で、最近山田が注力しているテーマの1つである公務員のマネジメント能力向上に関する調査研究に生かされているという。
また、「何のために学ぶのか」と問わないと、大人になってからのリスキリングといっても勤務先からの「押しつけ」になってしまう危うさがあり、結局は定着しないという、大人も子どもも変わらない共通点を見いだしたという。
さらに、コンテストの支援は、なかなか解決されない課題や矛盾と向き合わざるを得ない機会でもあった。例えば、進学を目指す高校生にとって、日々の過ごし方に大きな影響を及ぼすのが大学入試である。入試の多様化が進んでいるが、そもそも普段の学校の成績がよくないとAO入試の受験資格がないなど、探求的な学びへの関心を受け止めてもらいにくい現実もある。
また、時間が非常に限られる中で将来何をしたいか、吟味できないケースも多い。キャリア教育といっても教師の負担を増やしてしまいがちな現状に対し、「教育分野の何に投資すべきかを問い続ける必要性」を感じたという。時間が足りないという点については、忙しい人の時間を有意義に使うためには目標(なりたいキャリア)から逆算して日々の行動を決める方法が有効だが、それでは合理的でつまらなくなってしまう可能性がある。有意義と無駄のバランスが重要であり、この点も、教育に限らずあらゆる組織の運営に通じる課題だとする。「矛盾を感じながらも、やるしかない」という山田の指摘は、現在と未来社会とが、続いている道の上にあることを示していて、現在の人が未来に対して何らかのバトンを渡そうと苦心を重ねているようにも聞こえた。
(※1) 松木繁季、青山温子、山田英司「コンテストを通じて高校生の社会参加への関心を高める ~玉川大学観光学部の取組~」、「未来社会価値研究所 所報2023-2024」(P67-70)
(※2) 玉川大学「第5回高校生まちづくりコンテスト」
ホームページを参照。※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
関連リンク
連載:子どもの声を聴いて動いた研究員のココロ
・【第1回】 導入
・【第2回】 学ぶ目的を意識すること

