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これからの地域公共交通の在り方⑪(最終回) ~地域交通を「社会資本」として育てる:自治体主体の潮流と学習する仕組み~

2026年03月24日 武藤一浩


最終回に寄せて
 地域公共交通をテーマにシリーズ化( )して執筆してきた。今回は本シリーズの最終回として、地域公共交通を「つくる」だけでなく「育てる」——すなわち、まちづくりの社会資本として捉え、計画・運用・改善を回し続ける「学習する仕組み」として整理し直したい。
 本シリーズでは、地方の地域交通を民間事業者だけで支えることが限界を迎えつつあり、自治体が地域交通を地域の社会資本として捉え、主体的に関与せざるを得ないことを繰り返し訴えてきた。実際、その潮流は制度面でも可視化されている。例えば、自治体が地域交通の主体となる公共ライドシェアは、制度創設(平成18年10月)以降、一定程度普及してきたが、国の整理では、令和5年12月および令和6年4月に「大幅な運用改善(※1)」が行われたことで、導入の拡大ペースが加速したとされている。自治体が「運行の担い手」や「サービス設計者」に踏み込む場面が増えるほど、地域公共交通はますます、道路や上下水道のようにまちの基盤(社会資本)として扱われるべき領域になっていくだろう。

まちを維持する循環系としての交通
 ただ、自治体主体のサービスが増えること自体がゴールではない。重要なのは、地域公共交通を「交通施策」だけに閉じず、まちを維持・発展させる循環系として設計し直すことである。筆者は以前から、まちを“生命体”に例えて説明してきた。道路は血管、モビリティは血流、行き先(病院、買い物、福祉、教育、職場、娯楽等)は臓器である。臓器が機能するには、血管が詰まらず、血流が必要量巡回することが必要だ。したがって交通計画とは、血管の構造(道路・結節点)と血流(運行・接続・頻度)を整え、臓器(生活に必要な行き先)への到達性を安定供給する、まちの循環系の設計にほかならない。
 この視点に立てば、交通計画を「誰の声に応えるか」だけで組み立てるのでは十分ではない。もちろん住民の声は重要だが、それだけでは議論が個別最適に陥りやすい。必要なのは、先に目指すまちの姿(どの臓器を守り、どの機能を維持し、どの暮らしを支えるか)を定め、その実現に必要な血流=移動の循環を逆算して設計することだ。言い換えるなら、「誰のため」よりも、「まちを維持・発展させるために、何を優先して到達保証するのか」が先に来るべきである。ここで初めて、「どこで誰のどんな移動のために」という設問は、単なる需要追随ではなく、サステイナブルなまちづくりに資する問いとして立ち上がる。

学習する仕組みを地域に残す
 しかし現実には、自治体がこの循環系の設計を自力で進めるのは容易ではない。計画づくりの経験・ノウハウが薄い自治体も多く、担当者の異動で知見が継承されにくい。加えて、データの扱い、関係者調整、合意形成の場づくりなど、交通の計画は交通部門だけで完結しない。こうした構造的課題が、計画の形骸化や実証止まりを生みやすい背景になっている。
 ここで最終回として強調したいのは、地域公共交通は「計画を作って終わり」ではなく、運行開始後の学習と改善を回し続ける仕組みがあって初めて社会資本として機能する、という点である。人口動態、需要、担い手、コスト、災害、観光の波——外部環境が変わり続ける以上、地域公共交通は完成品ではなく、運用の中で更新され続ける循環である。
 そして、この学習する仕組みは、必ずしも高額な専用システムに依存しなければ成立しないという訳ではない。むしろ継続性を左右するのは、「毎年お金がかかる仕掛け」ではなく、地域が自力で回せる最小構成である。筆者は今年度、九州国際大学の客員教授として国土交通省のモビリティ人材育成事業に取り組む中で、この最小構成を現場で回せるようにするため、「オープンデータ×オープンソース」を中核とした講義メニューを設計し、自治体職員・関係者が講義後も自走できる形で提供した。
 具体的には、国や自治体が公開・保有するデータ(オープンデータ)と、無料で利用可能な地図・可視化ツール(オープンソース)を組み合わせ、
・現状の交通サービスと行き先(臓器)の関係を可視化する
・課題を関係者で共有し、改善案を比較検討する
・最小限の運行データ(運行日報等)をデジタル化し、改善サイクルに接続する
という一連のプロセスを、講義の中で体験できるように構成した。
 その結果として、受講者(自治体・関係者)から次のような声が寄せられた。
・「住民の声に応えていくだけでなく、まちづくりに資する視点で目指すまちの姿をまず考え、その姿を目指すように交通モードやルートなどを考えないと駄目なことがわかった」
・「ツール上で関係者が共有しながら進められるため具体的な改善案を検討し易い」
・「可視化することでイメージが共有でき合意形成が格段に進めやすい」
・「手書きで対応している運行日報のデジタルデータ化を求められる価値がわからなかったが、可視化され改善に役立つのであればできるような仕組みを導入したい」
・「無料のオープンデータやツールなので講義後も自分たちで実施できるためありがたい」
 これらは、地域が問いを立て、設計し、運用し、改善し続けるために必要な要素が、現場で腹落ちしていくプロセスそのものである。言い換えれば、地域公共交通を社会資本として維持するには、オープンデータ、無料(または低コスト)ツール(オープンソース)、最低限のデジタル化、人材の組み合わせを、地域に残る形で整えることが現実解になり得る。

本シリーズの結びとして
 公共ライドシェアを含む自治体主体の動きが広がる時代において、地域公共交通の議論は交通単体で閉じない。まちの臓器 (行き先)をどう保ち、血管(道路)をどう整え、血流(移動)をどう巡らせるか——この循環系を、計画に落とし込み、運用で学習し、改善し続けることが、これからの地域公共交通の在り方である。本シリーズが一貫して訴えてきた「地域公共交通=まちづくりの社会資本」という見立てを、最終回の結びとして改めて共有し、本稿を締めたい。
 そして最後に、今後の関わり方についても一言だけ添えておきたい。筆者は今後も九州国際大学の客員教授として、本稿で述べた循環系としての地域公共交通を地域に広め、自治体と関係者が自力で問いを立て、設計し、改善を回し続けられる状態づくりに、引き続き携わっていきたいと考えている。本シリーズはここでいったん筆を置くが、地域公共交通をめぐる取り組みは今後も積み重なっていく。立場は変わっても、現場とともに、この循環系を各地で育てていく一助になれればと思う。


(※1) 運用改善(令和5年12月/令和6年4月)の具体例:
・「時間帯による空白」の考え方を導入し、タクシーの営業区域であっても、夜間などタクシーの営業時間外を交通空白として公共ライドシェア導入を可能にする。
・地域公共交通会議の運営手法を見直し、導入判断を円滑化する(例:一定期間で結論に至らない場合の取扱い等)。
・タクシーとの共同運営(優先配車など共存の仕組み)を導入し、タクシー営業区域内でも公共ライドシェアを導入しやすくする。


本コラムは「創発 Mail Magazine」で配信したものです。メルマガの登録はこちらから 創発 Mail Magazine

※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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