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これからの地域公共交通の在り方①
~事業活動から地域社会資本への変革~

2022年02月08日 武藤一浩


 2013年頃から、移動困難者の増加や地域交通の衰退に対して「次世代モビリティによる地域創生」というビジョンを掲げて活動を取り組んできた。弊社が取り組んできた「Community Oriented Stand-by MObility Service (COSMOS)コンソーシアム」「まちなか自動移動事業構想コンソーシアム」「RAPOCラボ」「は、一貫して地域側の立場に立ち、地域主体で地域の維持発展に寄与するようMaaSや自動運転などを活用した次世代モビリティの実装を目指した活動である。

 コロナ禍を経験して、これら活動が掲げてきた課題は、より加速して大きくなっている。一例をあげると、活動の場を提供してくださってきた1970年代に開発されたニュータウンでも、住民の皆さんの高齢化は着々と進行し、団塊の世代の移動困難者は急増している実態がある。と同時に、廃業に追い込まれる交通事業者も複数、出現している。こうした実情から、国も「地域モビリティの危機」という問題認識から方針を打ち出したところだ。国土交通省が令和3年度に出した第2次交通政策基本計画(※1)では、「A.誰もが、より快適で容易に移動できる、生活に必要不可欠な交通の維持・確保」「B.我が国の経済成長を支える、高機能で生産性の高い交通ネットワーク・システムへの強化」が基本方針として定められている。これは、弊社のこれまでのビジョンと合致していることがわかる。更に、基本方針A.では「地域自らモビリティデザインの実施」とあるように、地域主体を謳っている点も整合的である。

 このような背景で、今後、国が地域に求めるべき交通政策は、従来、分野バラバラで取り組まれてきた交通に関する施策を統合するかたちであろう。いわば、「地域次世代型モビリティシステム(またはサービス)」政策の構築と呼べるものである。実際の地方交通に関する政策の現状を見てみると、例えば、医療・福祉・介護分野で交通弱者へのタクシーチケット配布などの予算の急増が進められる一方、地域公共交通に関しては、ほぼ空気を運んでいるようなバスが補助金で運行されているのを目にする。現在の地方交通に関する取り組みは、分野ごとに縦割りであり、利用者目線で見ると効果効率の面で不十分であることは明らかだ。今後、政府の政策遂行にあたっては、地方交通に関連する財源をまとめ、包括的な官民協働により次世代モビリティを展開する視点が不可欠である。これによって、初めてVFM を高めることが可能になろう。

 これが実現するのであれば、これまでは単なる民間事業者によって担われているだけと捉えられてきた地域交通を、今後は地域社会資本として位置付けるといった大転換に繋がる。当然、関連法制度や業界の慣例が、依然大きな障壁となることもあるだろうが、国の新たな方針と、民間企業、自治体、交通事業者で既に構築できている協力関係があれば、実現は決して不可能ではないと確信している。弊社でも、活動を継続しているRAPOCラボを起点に、そうした大転換にむけた道筋に繋がる活動をスタートする考えであり、今後の取り組みに注目いただきたい。


(※1)交通政策基本計画は、交通に関する施策を総合的・計画的に定めた政府としての初めての計画。同計画の着実な実施により、国が直面する経済社会面の大きな変化に的確に対応し、将来にわたって国民生活の向上と我が国の発展をしっかりと支えることができる交通体系が構築されることが期待されている。

※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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