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これからの地域公共交通の在り方⑥ ~地域交通計画策定のDX~

2024年07月09日 逸見拓弘


 同タイトルでシリーズ化( )して執筆してきた本稿の第6回は、自治体の地域公共交通計画の策定について述べたい。

 地域公共交通は、厳しい運営状況にある。過疎化・少子高齢化等を背景に地域の交通事業者は長年にわたって採算の悪化が進んでおり、コロナ以前から地方圏では9割近くの路線バス事業者が赤字の状態であった(※1)。また、労働人口不足を背景に事業の担い手不足も進んでおり、道路運送事業の運転者の6割以上は55歳以上と高齢化が進む(※1)

 一方、地域住民の日常生活における移動の問題の深刻化も進んでいる。高齢者等の免許返納が進み移動手段に制約を抱える住民が増加しているが、公共施設等の統廃合や目的地の移転で遠距離移動を余儀なくされる外出機会も多くなっている。

 こうした地域の移動課題の深刻化もふまえ、国は、2020年に自治体の地域公共交通計画(以下、地域交通計画)の策定を努力義務化し、2023年には地域交通法の改正を行った。さらに、2023年9月には、「地域の公共交通のリ・デザイン実現会議」を設立し、12府省庁および有識者等で地域交通を再構築していくための議論を進め、2024年6月にとりまとめを公表している。とりまとめでは、各自治体はデジタルも活用して法定協議会、地域公共交通計画、各施策のアップデートなどを推進するように記載されている(※2)

 しかし、自治体の地域公共交通計画の策定はなかなか進んでいないのが現状だ。地域公共交通計画を策定済の自治体は、令和6年4月時点で全自治体の約60%の1052に留まっている(※3)。なぜ、自治体では計画策定が進まないのか。筆者は、その要因は自治体の専門人材の不在にあると考えている。実際、関東運輸局、近畿運輸局の公表資料においても、専門人材の不在や財源の不足は計画策定の阻害要因の1つであると記されている(※4)(※5)

 創発戦略センターでは、「地域交通の社会資本化」プログラムの活動を推進している。プログラムでは、地域住民の日常生活における移動の問題に対し、先端技術も活用しながら更なる深刻化を防ぐための活動に取り組んでいる。地域住民の日常生活の問題解決は自治体がリードしてくれることに期待をしたいが、自治体も限られた人材で目の前の業務を扱うのに手一杯というのが実情だ。そこで、カギになるのはシステムの活用だ。シミュレーションシステムを活用して地域公共交通計画の策定に有益な情報を出力できれば、人材不足に悩まされる自治体の地域公共計画の策定の一助となる。場合によっては、システムが出力した情報は属人性を伴わないゆえに、地域関係者との合意形成を図りやすいより建設的な議論の叩き台になる可能性さえある。

 今後、プログラムでは、必要なシステムの要件の検討、システムを活用した合意形成手順の検討などの取り組みを進める計画である。システムを活用して策定された地域公共交通計画であれば、計画に沿った実行施策に対するモニタリングや効果検証もデータに基づいて定量的に行いやすくなり改善施策を講じやすくなるため、PDCAサイクルを推進しやすくなるという波及効果まで期待できる。プログラムで検討するシステムを活用した計画立案手法を全国各地に普及、定着させることで、将来的な公共交通業界全体のDXに貢献したい。

(※1) 国土交通省、国土交通省白書2020
   第3節 地域における移動手段を確保するために 1.現状や将来予測に基づく課題
(※2) 国土交通省、地域の公共交通リ・デザイン実現会議
(※3) 国土交通省、地域公共交通計画の作成状況一覧
(※4) 国土交通省近畿運輸局、地域公共交通確保・維持・改善に向けた取組マニュアル
(※5) 国土交通省関東運輸局、地域公共交通計画(地域公共交通網形成計画)策定による効果


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。

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