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これからの地域公共交通の在り方⑤ ~地域交通を社会資本とするため自治体の在り方~

2024年04月23日 武藤一浩


 同タイトルでシリーズ執筆してきた( )本テーマの第5回は、地域公共交通の維持確保に向けた自治体関与の在り方について述べてみたい。

自治体が推進を図るデマンドタクシーについて正しい理解が必要
 地域交通を維持確保するために自治体が主体となって推進を図る交通手段としてデマンドがあげられるが、読者の皆さんは利用されたことがあるだろうか。
 デマンドタクシーは専ら、複数の利用者からの予約要求(デマンド)に対して、乗合で運行される移動サービスである。しかし、住民の感覚からは、デマンドとは何か?タクシーとの違いは何か?といったことが分かりにくいのが現状だ。まずは、運用方法の煩雑さも含めて、この制度の内容を、利用者の正しい理解を得られるように丁寧に案内することが重要であろう。正しい理解がないと、利用方法に混乱が生じ、結果的に利用が進まなくなってしまう懸念も大きい。
 乗合で運行されるデマンドタクシーは、まず電話などで複数の予約を受け付けるところから始まる。次に、受け付けた複数の予約を取りまとめたうえで最適かつ安全な乗合運行ができるよう配車ルートを決める。そして、各利用者一人一人に乗車時間と乗車場所を再度電話などで案内し直す、といった流れが基本だ。これは、複数の予約要求を事前に取りまとめて、その要求に沿った走行ルートが都度決まる小型の路線バス、といった表現の方がわかり易いかもしれない。なので、予約を乗車前の前日に受け付けるなど、走行ルートを決めるまでに一定の時間を要すことへの理解も必要である。

自治体が進める地域交通でも課題となる2024年問題

 デマンドタクシーにおける配車ルートは安全な運行ができるよう運行計画を作る必要がある。このため、運行計画作成には運行管理者の資格が必須とされている。地域の道にも詳しく、安全に乗り降りできる場所をドライバーに指示できる高い専門性が求められる重要な役割である。よって、自治体自身が運行主体になることは困難で、普段から地域交通を事業として展開している地元交通事業者にお願いして、制度が運用されている例がほとんどである。
 そのように、自治体から運行業務が委託されるかたちでデマンドタクシーの普及推進が進んでいるのだが、働き方改革の象徴とも称される運送事業者の「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」(厚生労働大臣告示)、いわゆる運送業の2024年問題は、当該制度に対しても、大きな影響を生じさせている。住民への質の高い移動サービスを提供したい自治体側は、予約受付や運行時間をなるべく広くとって設計し、運行事業者への委託や補助などを計画しているが、受ける事業者側では労働時間制限の壁に直面し、自治体が設計する運行内容に対応できなくなっているケースが散見される。自治体側が住民サービス向上のために受付や運行時間の柔軟性を強調すると、運行事業者は法令違反を犯して地域交通を維持せざるをえないという矛盾した構造が出現してしまうのである。

地域交通の運営運行できる人づくりが重要
 自治体が地域交通を本気で維持確保していこうとするなら、安易に民間事業者に運行業務委託するより、「自家用有償」という制度の枠組みを使って、自治体自身が自ら運行を担うかたちで、地域の社会資本を維持していく姿勢が重要ではないか。当然、この場合、運転を担う人員や安全な運行計画を立てられる運行管理者が自治体職員として必要となる。自治体財政が困窮するなかで新たなコスト負担は実現しにくいという見方がある一方で、これらの雇用機会は、新たな人材を地域に定着させるための鍵にもなる。
 当社が掲げている「自律協生の地域社会実現」を目指す複数のプロジェクトでは、地元を良くしたい、という想いを持つ人や、ローカルで生きていくと覚悟を決める若者との多くの出会いがある。これらの人々が地域交通を支える人材となっていく道筋は考えられないだろうか。例えば、内閣府が進める地域活性化起業人(企業人材派遣制度)という施策がある。都市圏の民間事業者が地方自治体に人材を派遣することに予算が確保されている制度である。このような制度を上手く活用すれば、都市圏の交通事業者が地方地元の若者を採用しつつ、数年間育てたあと、地域交通を担う自治体職員として派遣していくような仕組みを構築できないかと考えている。
 若い人が「運転」というリスクの高い仕事を敬遠しがちであることは否めない。また、地元交通事業者との摩擦も懸念材料である。したがって、まずは賛同いただける自治体や交通事業者、ローカルプレイヤーとの傾聴と対話を通じ、共創の場づくりを立ち上げ、検討を進めていく考えである。


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。

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