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【グリーン・マーケティングの現場から】
第4回 グリーンウォッシュ批判に悩む現場
「環境のテーマとなると真面目に難しく伝えがち。伝えて終わりではなく、相手に届くまで。」
~CCNC店舗実証でのユーザーアンケートとPOSデータ分析から考察する~

2024年05月31日 グリーン・マーケティング・ラボ(GML)、佐々木努、前田もと子、穐津健太


 脱炭素に資する商品に関して企業と意見交換をする中で、メーカーと小売流通の間に存在する「溝」を感じることが多い。よく聞く声を拾い上げ、仮想的な座談会形式(※1)としてまとめてみた。

メーカーA:脱炭素に貢献できる商品を開発しようと思うが、「それでは売れないから採用できない」と小売 流通からダメ出しを受けることがある。
メーカーB:ダメ出しは小売流通からだけではなく、社内の営業部門から言われることもある。包材メーカーから脱炭素に資する提案を受けて採用しようと画策したけど、コストアップになって小売流通に対してとても提案できない、と。
小売流通C:お店としては、脱炭素貢献したいと思っているが、お客さまが求める商品を用意するのが大前提。脱炭素対応を理由にコストアップを許容してくれる生活者は多くない。
メーカーA:諸外国に比べて日本の生活者はどうも意識が遅れている。その中で、日本のメーカーは頑張っている。小売流通からは、目一杯背伸びした脱炭素商品を作ってください、とチャレンジングなことを要請される時もあり、それに対応もしている。
メーカーB:たしかに、そうした要請で脱炭素製品開発が進む側面もある。だけど、そこで挑戦的な商品を作ったとしても、結局生活者に価値が伝わらず棚から落ちてしまうことも多い。商品が育っていかないのが悩ましい。
小売流通D:生活者が求めるまで待っていては脱炭素が進まないので、小売流通がそういう商品を置くと決めて、メーカーには苦労を掛けてしまうが協力してもらうしかない。
小売流通C:有限のスペースの中で利益を出していかねばならないので、回転率とか考えると棚落ちの判断には抗えない。結局のところ、生活者が求める脱炭素商品がないということ。生活者が買ってくれる脱炭素商品があればお店は喜んでスペースをとって棚に並べる。
小売流通D:諸外国では生活者の意識が高いこともあるが、政府による規制によるものも大きい。日本でも何らかの規制が入らないと生活者の行動は変わらない。

 メーカーの言い分も小売流通の言い分もよく理解できる。非常に悩ましい問題である。要するに、「棚に置いたら売れる?売れるから棚に置ける?棚にも置けないし売れないものはどうする?」という問題と解釈できる。
 GMLでは、普段の買い物においては、売場や棚が生活者の行動に大きな影響を与える力を持っており、脱炭素の商品の市場拡大においても重要な役割を担うだろうと考えている。その仮説を検証すべく、チャレンジ・カーボンニュートラル・コンソーシアム(以下「CCNC」)において店舗実証(※2)を展開した。触れて・学んで・取り組むことによって行動変容するステップを意識して、具体的には①脱炭素に資する商品の特設棚やPOPの設置、②流通小売のアプリやチラシを通じた告知、③店舗・店頭誘導する仕掛けの配置や謎解きゲームの実施、④アプリを通じたクイズなどの学びの提供、などの施策(※3)を実施した。

図表1 CCNCの店舗実証で展開した施策イメージ



 実際に店舗に来店した生活者へのアンケート調査により、各施策に対する評価を確認したところ、以下の通りであった。詳細は図表2に示した。
●商品や活動の認知には「商品棚を見て」と回答した人が27%で最も多く、店舗に用意した棚が認知に寄与する
●脱炭素に資する商品や企業の情報の閲覧や接触(二次元バーコード読取や棚での閲覧、商品に付記されたエコラベルの探索)で、3分の2以上の生活者の関心が高まった
●体験や学びによって80%以上の生活者が商品や活動への好感が高まり、購買意欲も高まる
●脱炭素に資する商品の陳列棚の常設化や設置店舗・陳列商品の増加が望まれている

 また、POSデータを用いて対象商品の販売数が実証の前後でどう変化したか、それが近隣の実証に参加していない店舗と比較してどうだったかを検証した。棚を組んで商品を並べ訴求することで、全ての店舗で実証前に比べて対象商品の1日当たり販売点数は50~60%増となった。また、施策を展開していない近隣店舗と比較しても、23~67%増加しており、店舗での棚を活用した訴求に一定の効果があったと考えられる。さらに、実証後の販売点数も実証前よりも1日あたり販売点数は増加した水準で推移しており、店舗での訴求効果が継続できている可能性(※4)を示唆している。
 これら分析結果については、買い替えサイクルを考慮して長めに実証期間を設定したり、データ分析のサンプル数を確保したりするなどの改善を図り、2024年度の活動に反映させる予定である。

図表2 CCNCの施策に関する生活者アンケート結果(回答者数252)(※5) 
 


図表3  実証前後での対象商品の販売数の増減(POSデータ分析結果)



 これらの結果から、店舗に棚を置き適切な訴求を行うことで、普段は目に触れることがない/知らなかった脱炭素に資する商品を知り、商品や企業の取り組みを学ぶことで興味関心が湧き、試しに買ってみた、というように生活者の行動が変わったことが想像できる。生活者にはこうした棚はポジティブに捉えられていることも分かった。やはり、生活者の購買において変容を促す際に棚の効果は大きいということだろう。
 事実、日本総研が別途実施した大規模な生活者アンケート調査でも、回答者数14,205名のうち、76%の生活者が脱炭素に資する商品を購入したいと望む一方で、そうした商品と出会ったことがないと回答する生活者が75%も存在することが分かっている。また、そうした商品を購入するために有効な施策として、店頭特集棚の設置や棚への誘導・表示を求める声がポイント付与と同じくらい存在することも確認できている。このことが実証を通じて検証できた恰好である。

図表4  脱炭素に資する商品に関する生活者の声(回答者数14,205)(※6)

*右側は全回答者のうちエコ行動が高と中に区分された生活者(※7)(回答者数6,267)を対象


 ただし、この結果だけを受けて、本稿の冒頭のメーカーと小売流通の間での仮想座談会の議論に結論が出せるわけではない。棚を置いて訴求したところでその行動変容は一時的なもので、購買行動が継続するかという論点がある。また、商品販売数は増加したもののそれよりも売れる商品を並べた方が売上増につながるので、棚落ちの議論の解決にはつながらないという論点もある。各施策で生活者の行動がどう変わったかという点も丁寧に検証しなければ再現性がない、という点も検討する必要があるだろう。これらは連載の別記事で論じることとしたい。

(※1) 会話内容はよく聞かれる声を踏まえ筆者が創作したもの
(※2) 2024年1月18日~2月18日の2024年1月18日~2月18日の期間に、ドラッグストア・スギ薬局の江戸川瑞江店・名古屋ゼロゲート店・須磨北店およびスーパー・万代の高槻インター店において、特設棚やアプリなどを通じて脱炭素
(※3) 実証や施策の詳細はこちらを参照
(※4) 一部店舗においては近隣店舗含めて販売点数が実証前より低下する傾向にある中、その下げ幅は近隣店舗に比べて実証店舗の方が緩やかであることから、棚による訴求による継続効果が一定程度あった可能性がある
(※5) 2024年1月18日~2月18日の実証期間中に、①万代またはスギ薬局の対象店舗に訪問し、②店舗施策や実証アプリ(減CO2アプリ)、を体験・閲覧した252名の生活者へのウェブアンケート調査の結果
(※6) 日本総研実施「くらしとカーボンニュートラルに関する生活者調査」、回答者数14,205、全国18-69歳の男女、2022/9/8-9/20に実施
(※7) エコ行動の高と低についての詳細は第2回連載を参照


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。 
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