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【グリーン・マーケティングの現場から】
第4回 グリーンウォッシュ批判に悩む現場
「環境のテーマとなると真面目に難しく伝えがち。伝えて終わりではなく、相手に届くまで。」
~生活者の脱炭素リテラシーの向上が脱炭素市場創出のカギを握る~

2024年05月31日 グリーン・マーケティング・ラボ(GML)、佐々木努、前田もと子、穐津健太


 脱炭素に資する商品の説明を見ると、商品パッケージやPOP、商品ウェブサイトなどに注釈を含めてたくさん文字が並んでいることが多い。筆者はこの分野で永らく仕事をしているのでそれなりの専門家と自負しているが、それでも相応の語彙力と読解力が試される「難文」である。これは決して「悪い」と言っているのではない。そうしないといけない「事情」があるわけだ。まずは論より証拠、難文の一例(※1)をお示しする。

 商品A:グリーンな素材をマスバランス方式により使用し、第三社による適切な検証と認証を経て、当社の通常商品と比較して製造段階のCO2削減を15%削減しています
 商品B:既存の製造設備とプロセスを用いて製造するが、バイオマス由来特性を割り当てた素材とすることで従前の素材の品質と物性を維持しながら脱炭素化を実現しています
 商品C:CFPガイドライン(経済産業省・環境省)やISOを参照して自社で作成した算定ルールに基づき、商品の原材料調達から廃棄・リサイクルされるまでのライフサイクル全体の工程で排出されるCO2排出量を可視化しました
 商品D:業界インベントリ調査報告書およびLCIデータベースIDEA Ver.3を用いた算定を基本とし、季節変動ある原料については最も調達量の多い産地由来のもので代表し、混載輸送に関しては金額ベースで按分してCO2排出量を算出しています

 この説明文を読むだけで、関わった方々の作業や苦労、そして正確に情報を伝えようとする真摯な姿勢を想像することができる。しかしながら、そこまで思いを汲めるのは筆者がこの界隈の人間だからである。ごく一般的な生活者にはおそらく何を言っているかも分からないだろうし、その商品のメーカーに勤める方でも所属部署によってはチンプンカンプンかもしれない。
 こうした事象は、なにも環境や脱炭素の領域においてのみ発生するものではない。法令等により記述することが規定されていたり、業界ガイドラインに沿って細かに記載することが慣習化したりしている例は他にもある。ただ、注意しなければならいのは、特に脱炭素に係る取り組みは、その効果や差異が目に見えて分からないことが多い(※2)ため、情報の受け手である生活者が商品の価値を理解する上で、そうした説明や注釈の情報が重要な役割を果たすことにある。
 小難しい説明が並び、たとえそれが理解できなったとしても、味が違う、効能が良い、手触りが違う、色が違う、など商品の差が実感できさえすれば、少なからず生活者に価値は伝わる。ところが、脱炭素に資する商品の場合、その脱炭素貢献の価値を説明しようとすると「目に見えない」「実感ができない」ことが多い。昨今流行りの製品あたりのCO2排出量=カーボンフットプリント(CFP)の表示などはまさにその代表例である。CO2排出量が200グラムであろうが、240グラムであろうが、その商品の違いを実感することはほぼ不可能に近い。
 では、なぜ、環境や脱炭素界隈では伝えても伝わらないことを事細かに表現しようとするのであろうか。そのカギを握るキーワードが「グリーンウォッシュ(グリーンウォッシング)」である。グリーンウォッシュとは、曖昧な表示や謳い文句など実質を伴わない過大な環境訴求のことを指す。EU理事会は2024年2月にグリーンウォッシュを禁止する指令案を採択し、生活者が適切な情報を基に環境配慮商品を購入することを目指しており、海外で事業展開する企業は対応が必要になる。早晩、日本にも導入されるようなことがあれば、企業活動に及ぼす影響は大きい。
この指令案においては、例えば次のような訴求がダメだ、と判断されることになる。
●「環境にやさしい」「グリーン」「自然にやさしい」などの立証できない一般的な環境訴求
●製品や企業活動の一部の環境貢献を全体のものとして発出する環境訴求
●認証されていないラベルを表示した環境訴求

図表1 グリーンウォッシングとグリーンハッシング



 こうした動きを踏まえ、企業は冒頭の「難文」として紹介したように、正確に、根拠をもって、誤解なく伝える、ことを優先した対応を取らざるを得なくなっている。企業側も小難しく伝えたいと思っているわけではなく、世の中のトレンドに合わせて、正しく丁寧に伝えようとした結果である。環境貢献をしっかり伝えたいという思いとは裏腹に、難しくなりすぎて生活者に届かないというのは、なんとも残念な結末である。
 また、生活者に伝わらないなら環境貢献について訴求・発信するのは面倒なのでやめておこう、変な表現と捉えられて批判を招くおそれがあるのであればやめておこう、と、「だんまり」を決め込む=グリーンハッシングを選択する企業も出てくる。実際、私たちGMLが企業と意見交換する際にも、当局や業界団体で定められた明確な基準が出来上がらないうちは、新しい活動やその内容の発信におよび腰になるケースも散見される。
 
 日本総研が実施した生活者アンケート調査では、49%の生活者が脱炭素に向けて頑張る企業を応援したいと回答しており、それを実現するためにも35%の生活者が分かりやすい解説が欲しいとしている。また、2023年度の店舗実証での生活者アンケートでも、「脱炭素」や「カーボンニュートラル」という業界用語を用いた単語よりも、「環境にやさしい未来」などのキーワードを用いた訴求の方が、その商品を買いたくなるという結果も出ている。つまり、企業側は難しい言葉で丁寧に語らざるを得ない一方で、そうしたキーワードでは生活者には届かないということを示唆している。

図表2  脱炭素に資する商品に関する生活者の声(回答者数14,205)(※3)



 この状況を打破するには、生活者の脱炭素に係る語彙力と読解力が必要になる。いわば、生活者の脱炭素に係るリテラシーを高めるための啓発・教育活動が重要になる。この領域は国や自治体・学校などが担ってきた部分だが、良くも悪くも「公」が行うことに特徴があった。特定の企業や商品・サービスに肩入れするようなこともなく、公平性に配慮しながら、地に足の着いた消費者教育がなされてきた。その一方で、具体的な企業や商品の取り組みや表示の良し悪しを見極めるような実践的な消費者訓練までは実施するのが難しくもあった。生活者の脱炭素に係るリテラシーを高めるためには、理論と実践の両輪が必要である。「公」だから実現できることと、「民」だから実現できることを、いい塩梅で組み合わせていくことが望まれる。
 企業がせっかく取り組んできた環境に良い活動や商品も生活者に伝わらなければ、売上や収益に結びつかず、良い活動を持続することは難しい。だから、啓発や教育の領域を「公」に任せっきりにするのではなく、企業もしっかり役割を担い手当していくことが望まれる。それはCSRとか社会貢献という文脈での対応ではなく、自社の商品の売上を創るマーケティング活動として実践すべき事柄である。環境の取り組みを「伝える」で終わってしまっていたるところを、「届ける」まで実践しようということだ。それを実現できた企業が、脱炭素社会において認知と信頼と売上を獲得できるようになるだろう。

 なお、グリーンウォッシュに関する関心は、諸外国と日本とで傾向が異なる点にも言及しておく。世界的にはグリーンウォッシュの関心は最近急に拡大したものではなく、カーボンニュートラルよりも検索キーワードとしてはずっと高位にある。一方で、日本では検索数だけで見ればグリーンウォッシュへの関心は極めて低い。世界の潮流を見誤らないために、補足しておく。

図表3 Googleでのキーワード検索数のトレンド(※4)
上段:全世界、下段:日本  青色:グリーンウォッシュ、赤色:カーボンニュートラル



(※1) 内容は実際の例を参考に、筆者が創作したもの
(※2) 包装材の削減や異素材への変更など一部の脱炭素施策については実感できるが、再生可能エネルギーを用いた製造やCO2排出が少ない輸送などは商品の見た目の特性は変わらない
(※3) 日本総研実施「くらしとカーボンニュートラルに関する生活者調査」、回答者数14,205、全国18-69歳の男女、2022/9/8-9/20に実施
(※4) Google Trendsを用いて日本総研にて作成


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。 
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