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ビューポイント No.2023-023

【グリーン・マーケティングの現場から】
第2回 脱炭素の関心が低いことを忘れがちな現場
「まさか全員の心を動かすつもり?そもそも多くの人が脱炭素に関心がないのだけど・・・」
~生活者の脱炭素購買行動に関するセグメンテーションから考える~

2024年05月31日 グリーン・マーケティング・ラボ(GML)、佐々木努、前田もと子、穐津健太


 GMLでは、生活者アンケートを実施して得た14,205名の回答を基に、日用品の購買における環境配慮への意識の観点から生活者を以下の9つに区分した。さて、読者の皆さんはどの区分に当てはまるだろうか。
 ①高感度:幅広くアンテナを広げ、環境保護要素も含めさまざまな側面で質が高いものを希求
 ②エコ身近:周りの情報からの影響を受けることは多くなく、地道に身近な環境保護に取り組む
 ③自分好み:自分の好みに近く、質の良いものを買いたい
 ④真面目消費:安全性や環境保護についてしっかり学びつつ消費に取り組みたい
 ⑤悠々自適:オールドメディアの影響が強く、今の生活をなるべく維持したい
 ⑥コスパ重視:自分の身の丈に合った範囲で、買いやすいか/使いやすいかが大事
 ⑦無難思考:他の人との話題になるものが好きで、それ以外はこだわらず情報感度は低い
 ⑧節約重視:収入に余裕がなく、とにかく安いものがほしい
 ⑨無関心:生活に余裕が少なく、価格が気になることもあるがそれ以外にまったくこだわりはない

 この区分のうち、①~②をエコ行動高、③~⑤をエコ行動中、⑥~⑨をエコ行動低、と定義すると、エコ行動低の層は全体の56%を占める。すなわち、全体の半数以上の生活者は、日用品の購買時に環境配慮を考慮することが少なく、脱炭素に係る行動変容を促すのは難しい。別の言い方をすると、脱炭素に資する商品の市場拡大を図るには、エコ行動高・中の44%の層をターゲットに据える必要があるということになる。以降は、この44%の層に絞って話を進めることとする。
 高感度(①)~悠々自適(⑤)の5つの区分においても、よく見ていくとさまざまな特徴がある。
<高感度>
 高感度は何でも関心を持ち、すでに環境行動を実践していたりする区分である。おそらく、現時点で脱炭素に資する商品を好んで購入する中心的な存在である。行動変容を促すという観点からはすでに行動しているので、学びを訴求するような施策は不要であるが、共に情報発信・啓発することを検討したい区分である。
<エコ身近・自分好み>
 エコ身近と自分好みを見ると、関心のある施策のところで色濃く特徴が出る。エコ身近や自分好みはCO2排出量表示に関心があり、エコ身近はポイント付与施策には関心が低く、自分好みは寄付による環境貢献の関心が高い。ただし、環境行動が完全に実践できているわけでもないので、この区分が行動変容を促す対象としては最も相応しいと考えられる。
<真面目消費と悠々自適>
 真面目消費や悠々自適は、“真面目”に環境配慮に向き合ったり、自分の購買スタイルが確立している区分と言え、購買行動には正しい情報を欲したり、いつもの店舗で買い物をしたい気持ちが強い。したがい、これらの区分で脱炭素に資する商品の購入を促すには丁寧な解説やいつもの情報源からの訴求が有効となる。

図表1 GMLが考える環境配慮商品の購買に係る生活者セグメント(回答者数14,205)(※1)


 行動変容のメインターゲットとしたエコ身近や自分好みの層も、年代別に細かく見ると反応する施策にはさらに特徴が表れる。子育て層は、お店での施策や子どもも含めた体験・イベント・クイズなどが有効である。Z世代は、学びのコンテンツやCO2排出量表示、個別に自分の行動を診断することなどへの関心が高い。いずれも、一般的な世代論で語られている内容に近く、まぁそうか、と思える結果である。

 ここまで述べてきて、何が言いたいかというと、脱炭素や環境配慮商品を売ろうとする際、こうした生活者の細かなニーズや特性を見て検討することが大事ということである。マーケティングで言えば基本的なことのはずだが、脱炭素に資する商品を売ろうとする際には、この基本を忘れがちなのである。次のようなことを社内外で指摘したり、されたりしたことはないだろうか。
 ●脱炭素の行動変容のためにはポイント付与しておけばいい
 ●CO2排出量やカーボンフットプリントを表示して貢献を可視化しないといけない
 ●行動変容にはネットの方が訴求しやすく店舗を通じた訴求は難しい
 ●寄付や診断で行動変容してくれるとは思えない
 ●脱炭素の情報は真面目にしっかり用意しないと受け入れてもらえない
 
 これら指摘に対して筆者らは、ある意味正しく、ある意味で正しくない、と毎度説明する。生活者アンケート結果を見れば、当該施策で反応する生活者は少なからずいるが、全ての生活者に刺さる施策ではなく、反応しない生活者も多くいる、という解釈が正しい。環境問題や脱炭素という社会課題を扱う際には、社会全体に対して訴えかけていきたいという気持ちがどうしても先行してしまい、全ての生活者を一括りにターゲットに据えがちになる。前述した通り、それを実現できる施策はなく、結果的にぼやけた施策となってしまい、期待した効果が得られない。社会課題を扱う際には、世の中が、国民が、と考える視座を持ちつつ、生活者一人ひとりの顔や名前を思い浮かべながら丁寧に検討する視座も必要である。

(※1)日本総研実施「くらしとカーボンニュートラルに関する生活者調査」、回答者数14,205、全国18-69歳の男女、2022/9/8-9/20に実施


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。 
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