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【グリーン・マーケティングの現場から】
第6回 グリーン・マーケティングの処方箋を求める現場
「売り手のためのコミュニケーションから、買い手のためのコミュニケーションへ。」

2024年05月31日 グリーン・マーケティング・ラボ(GML)、佐々木努、前田もと子、穐津健太


 第1回から第5回にかけて、生活者の行動変容の観点から企業を取り巻く脱炭素の諸課題を取り上げてきた。自律的な脱炭素市場を成立するためには、企業と生活者は車の両輪として共に歩みを進めていかなければならない。今のように生活者の意識が低いままで、企業側が種々のコストを負担し続ける脱炭素対応は早晩限界がくる。余程の技術的なブレイクスルーがなければ、最終消費者である生活者による相応の負担が必要なのである。
 環境配慮商品が売れないのは、生活者の関心ゴトとして捉えられていないことに尽きる。メーカーや小売流通の企業がどれだけ環境に良い商品を作り、その価値を訴えたところで、関心がなければ見向きもされず、情報を届けることすらできない。本連載で繰り返し述べてきたように、脱炭素に係る生活者向けの啓発・教育が必要なのである。
 買う素地がない状況で「売るため(売り手のため)のコミュニケーション」を展開しても効果は得られない。教育・啓発によって生活者の脱炭素に係るリテラシーを高め、いわば「買うため(買い手のため)のコミュニケーション」も並行して実践することが望まれる。

図表1 買い手のためのコミュニケーション



 「売り手のためのコミュニケーション」とは、広告宣伝であり販売促進である。どうやら、このコミュニケーションに日本全体で年間22兆円程度のお金が投じられているらしい。業界・企業にもよるが、売上高に対して3~15%程度の金額を恒常的に売り手のためのコミュニケーションに使っている。
 それと対を成す「買い手のためのコミュニケーション」とは、所謂、消費者教育である。それを司る代表が消費者庁である。消費者庁の2024年度の一般会計予算は170億円程度で、「売り手のためのコミュニケーション」の0.1%に満たない規模しかない。
 GMLでは、脱炭素社会の構築を進めるためには、「売り手のためのコミュニケーション」から「買い手のためのコミュニケーション」にお金の流れを再配分することを提案している。日本全体でもそうだし、個別企業単位でも同様である。従前までCMや販促に投下してきた予算の1%を、脱炭素を含む社会課題解決のための生活者啓発・教育に再配分するだけで、「買い手のコミュニケーション」は劇的にやれることが増えるだろう。さらには、「売り手」側で蓄積・洗練化されてきたコミュニケーションノウハウや経験を「買い手」側にうまく移植することで、質的にも大きな変化・向上が期待できる。
 量的・質的に変化する「買い手のためのコミュニケーション」がグリーン・マーケティングである。要素に分解すると、①自治体と企業が一体となって生活者に実践的な啓発教育を行う、②売場では小売とメーカーが協力して環境配慮商品を並べる環境棚や環境販促を展開する、③①と②を接合してリテラシーの高まった生活者が購買行動を実践し市場を創出する、という一連の活動ということになる。

図表2 GMLが考えるグリーン・マーケティングの概念



このグリーン・マーケティングを実践するにあたっては、いくつか留意すべき点が存在する。
<教育起点>
 「マーケティング」と名付けてはいるが、それを販促などと矮小化して捉えてしまわないようにすべきである。生活者のリテラシーを高め、市場を形成するまでは、自社の商品を売ることを前面に押し出すことは控える懐の深さが必要になる。
<他社連携>
 困難な問題を一緒に取り組む仲間をつくることである。例えば、メーカーと小売が、従来の棚割りの商習慣を超えて、棚を通じた環境配慮商品の陳列・訴求に腰を据えて協力することが蹴り出しになる。四半期で結果が出なければ棚落ちする、という常識を打ち破る必要がある。メーカーも小売もお互いが歩み寄って実現するほか、同業他社とも協創の関係を構築し、生活者とも協働することが重要である。
<インテグリティ>
 グリーンウォッシュ対応と他社連携のためのお作法として、誠実に、品位を保ち、自らが率先する姿を示して、自治体や相手企業、生活者から信頼を獲得すことが活動の基盤となる。表面はワクワクとトキメキで大いに結構だが、裏側にはロジックとインテグリティを用意しておくことは常に留意すべきである。

図表3 グリーンな商材を扱うための心得



図表4 グリーン・マーケティング・ラボの目指す姿



 グリーン・マーケティングで実現するコミュニケーションとは、つまるところ、複数主体と部署をまたぐ統合コミュニケーションの実践である。啓発教育から店頭販促までをし、自治体・学校・小売流通・メーカーを巻き込み、サステナ、地域対応・渉外、研究開発、広報・ブランディング、販促・宣伝、採用人事など会社の多岐にわたる部署の協力を得て実践する。そうすると、旗振りと調整は誰が担うか、どの部署のどの予算から捻出するか、何をKPIに据えて活動を推進すべきか、など新しく色々決めていく必要がある。生活者の行動変容を促すためには、企業の脱炭素経営の推進のあり方をも見直していくべきだろう。

 GMLでは、志を同じくする仲間とも協力しながら、このグリーン・マーケティングの仕組みを社会実装していく。まさに「みんなで減CO2(ゲンコツ)プロジェクト」を実践するつもりである。この趣旨に賛同いただける企業は、是非、お声がけいただきたい。また、我々の取り組みをどこかで見聞きする機会があれば、その時は是非一人の生活者として興味本位で構わないので啓発教育や売場での活動に参加いただければと思う。社会を変えるには、企業の取り組みに加え、私たち一人ひとりの生活者の行動変容が大切だからだ。


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。 
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