Project EV電池のサーキュラーエコノミープロジェクト
インタビュー内容、役職、所属は取材当時のものです。

H.Kidoshi
2000年 キャリア入社
理工学研究科(博士) / 制御工学
創発戦略センター/シニアスペシャリスト。これまでに、再エネ事業、農業ロボット/次世代農業、高齢者向けAIシステムなどを実施。現在は、電池のサーキュラーエコノミー構築に取り組む。

J.Li
2007年 キャリア入社
経済学研究科
創発戦略センター/総合職/インキュベーションプロデューサー。EV電池のサーキュラーエコノミー(CE)を目指すプログラムのコアメンバーとして、産官学連携の共創の場(EV電池スマートユース協議会)の立ち上げや、協議会の運営を担当。
また、国や自治体からの委託事業、補助事業を通じて、モデルプロジェクトの検討と実施を推進する。

T.Momiyama
2023年 キャリア入社
農学研究科生物環境保全学専攻(博士)
創発戦略センター / 研究員 / インキュベーションプロデューサー。EVに搭載されている電池(EV電池)の資源循環モデルを社会に実装するため、政策提言や国と連携した実証事業の推進、情報発信など様々な仕事に取り組む。

T.Kinoshita
2025年 新卒入社
経済学研究科
創発戦略センター/研究員。「BACE: EV電池の循環経済を構築するプログラム」において、電池診断技術の実証試験に従事。また、EVやリユース電池の利用状況に応じたサーキュラーエコノミーへの貢献度を測る「循環貢献指標」を策定する。
モノが「使い捨て」から「価値へ変わる」社会をつくる ―EV電池のサーキュラーエコノミー構築への挑戦―
イントロダクション
使い捨て社会から、循環する未来へ。価値の設計次第で未来は変わる。
EV電池のリユース・リサイクルを軸にサーキュラーエコノミーを社会へ実装する試みだ。大量生産・大量廃棄を前提としてきた社会構造を変革し得る新市場の創出を目指し、日本総研はBACE(Battery Circular Ecosystem)と題してEV電池の循環経済を構築する取り組みを進めている。制度、事業、技術を三位一体で展開するプロジェクトにおいて、構想から現在に至るまで活動の中核を担う木通、プロジェクトのマネジメントを担う李、現場の実証と様々な情報発信を担う籾山、そして循環価値を可視化する新たな指標策定に挑む木下の4名がプロジェクトの軌跡とこれからを語る。
構想期
社会実装を前提に、ゼロから市場を構想した5年の蓄積

H.Kidoshi
私たちの取り組みは5年前、まだ国内でEV普及が限定的だった時期に構想しました。中国ではすでにリユース市場が立ち上がっていましたが、非正規流通や履歴不在の取引が多く、市場の信頼性が揺らいでいました。そこから学んだのは、「普及の後追いではなく、循環の仕組みを先につくる」重要性です。廃棄が増えてから制度を考えるのでは遅い。資源ではなく資産として価値を維持する流通設計が必要であり、そこに日本が先行できる余地がありました。

T.Momiyama
当時の国内ではEVに対して今ほど注目が集まっておらず、「循環の仕組みを今つくるべきだ」という人達は少数だったとも聞きます。そんな中で社会に理解を広げていく過程はかなり大変だったのではないですか?

H.Kidoshi
まさにそこです。EVが主流になる未来は誰も否定しない。それでも「今やる理由」が見えないと、共感は生まれない。EV電池の再組立工場、リサイクル、診断データ、保証設計、そしてこれらを取り巻く制度、そのどれか一つが欠けても循環は成立しません。そのため、まずは「一緒にやる意味」を理解してもらうことが大きな壁でした。

T.Kinoshita
プロジェクトが立ち上がってすぐにパンデミックが発生し、計画通りに活動が進まない状況もあったと思います。やはりパンデミックに伴う影響は大きかったですか?

J.Li
はい、影響は非常に大きかったです。もともとは中国で実証を進める計画でしたが、渡航ができなくなり、想定していた活動の遂行が難しくなりました。その後、活動は国内へ軸足を移しましたが、結果的にはこの転換がプラスに働いたと考えています。海外の状況を参照しながらも、国内ではより精緻な制度や市場設計が必要なことが明確になり、日本型の循環市場を構築する視点が定まったからです。市場がまだ存在しない段階で合意形成には時間も労力も要しましたが、そのプロセスこそが今につながる基盤になりました。

T.Momiyama
今の実装フェーズに関わる中で「初期の合意形成こそ最大の発火点だった」と強く感じます。EVを軸に社会を変革し得るプロジェクトだからこそ、理解を得ながら進めた蓄積が現在につながっているのだと思います。
形成期
理想を仕組みに変えるために。多様な関係者を束ねた社会実装フェーズ

H.Kidoshi
構想を形にする段階では、関係者との連携が一気に広がりました。メーカー、商社、保険、リサイクラー、自治体、学術機関……EV電池を循環させるためには、多様な主体が同時に動く必要があります。調査、政策提言、事業化検討、実証の設計。それらを分断せず、併走させることが求められました。

J.Li
その中で私は、国内外の調査に加えて企業との対話・コンソーシアム運営を進めていました。特に初期段階では、「参加意思はあるが、自社がどこまで踏み込めるか判断できない」という声が多く、賛同と実行の間に大きな溝がありました。立場によって論点やインセンティブが異なるため、情報を整理し、論点を言語化し続けることで、各社が「自分たちの役割」を具体的に描ける状態が少しずつ整っていった。その積み重ねが仲間を拡大させる後押しになったと感じています。そうした環境が整ったのち、次のフェーズに移りました。

T.Momiyama
私が2023年に参画したタイミングで、すでに連携の網は広がっていました。しかし、関係者が多いほど論点も複雑化し、優先順位の判断は難しくなります。現場と制度、技術と市場。それらが同時に前進しなければ循環は成立しません。当時、どのように議論を整理し、全体最適を描いていたのでしょうか。

H.Kidoshi
最初に意識したのは、「何が先に進めば循環が成立するか」を可視化することです。バッテリー診断がなければリユース電池の製造はできず、需要予測がなければ事業の見通しが立たない。だからこそ、課題を横串で把握し、各社の役割を明確にする必要がありました。

T.Kinoshita
社会を動かすためには数値に基づく議論と説得力のある情報発信が必要です。共感だけでは前に進めないフェーズでエビデンスを積み上げていく、その役割を担ったのが籾山さんですよね。

T.Momiyama
はい。私が参画した段階では、すでに多くのプレイヤーが関わっていましたが、方向性を共有しながら前進するためには「根拠の提示」が不可欠でした。私は調査レポートの作成、記者説明会、国との意見交換など情報発信の役割を担い、業界の機運を高めるため将来の市場規模やEV電池循環の必要性を定量的に示していきました。将来的に中古EVやリユース電池、電池リサイクルが含まれる国内サーキュラーエコノミー市場が8兆円規模になり得るという試算を公表した際には、議論のステージが変わった手応えがありました。それまで「興味がある」段階だった関係者が、「今取り組むべきこと」へと認知を切り替えていく感触があったからです。

J.Li
政策側との対話でも、数値に基づく議論は大きな意味を持ちました。技術・市場・制度を並行して扱うため、定性的な議論だけでは説得力がない。日本市場における電池ライフサイクル設計の可能性を整理し、関係者が共通認識を持てるよう論点を統合していきました。

T.Kinoshita
循環を「構想」ではなく成立する「仕組み」として示すことが、多様な主体と連携できた要因になっていったわけですね。

H.Kidoshi
まさにそうです。主体それぞれが役割を理解し、自ら動き始める状態をつくることが社会実装の核心です。その意味で、形成期は社会を動かすための骨格を形にしていく時間でしたね。
拡大期
協議会発足と社会的認知。循環を「構想」から「仕組み」に変えた転換点

T.Momiyama
2024年にEV電池スマートユース協議会を設立し、22団体が参画したことは大きな転機でした。それまで、各企業が個別に検討していた状況から、産官学が同じテーブルで議論する体制が整ったという点で大きな意味があります。政策提言と実証、情報発信を連動させたことで、テーマが一部の検討領域に留まらず、社会的な課題として認識され始めました。メディア露出や講演依頼が増え、社会からの視線が明確に変わった時期でもあります。

J.Li
協議会の設立は、プレイヤー同士が「一緒に前へ進む」ための合意点を形成するプロセスでもありました。市場はまだ成長段階にありますが、産官学が連携して新たな社会基盤の整備と新市場創出を推進する器ができたことは大きいと感じています。

H.Kidoshi
協議会によって、EV電池の循環は「理想を語る段階」から「仕組みを設計し、成果を蓄積する段階」に移りました。車載用電池・リユース電池・リサイクルの三層モデルは、需要と供給が同期しなければ成立しません。技術だけが進んでも、制度だけが整っても足りない。三つの歯車が噛み合う地点が見え始めたことで、検討ではなく社会実装のための設計が進むフェーズに入ったと認識しています。

T.Kinoshita
私はサーキュラーエコノミーへの貢献度を測る「循環貢献指標」の策定を担当していますが、社会実装を見据えた新たな価値評価を検討する場として協議会の存在は極めて重要だと感じています。製品の持つ価値を最大限使う「賢い利用」を評価する指標が定まれば、ユーザーの利用状況や製品に関するニーズが変わり、サプライチェーン全体の動きが一段上のレイヤーへ移るはずです。協議会での議論を通じて、その手応えを強く感じています。

T.Momiyama
以前は点で存在していたプレイヤーが線でつながり、面として社会に広がりはじめている。協議会はそのハブとなり、社会実装を押し出す原動力になっていると感じますね。

H.Kidoshi
循環には「誰かの成功」ではなく、全体が動く構造が必要です。その意味で、協議会発足は目的ではなくスタートライン。ここから先は、設計した仕組みを実際に運用し、価値を証明していくフェーズに入っています。
発展期
利用価値を可視化する。循環を成立させるための「ものさし」をつくる

T.Kinoshita
現在、私が担っているのは「モノを長く大切に使うことは素晴らしい」という観念を、美徳で終わらせず「数値」として示す試みです。
私たちはふだん物を長く丁寧に扱うことの大事さを理解していますが、現状ではそういった観念は市場における価値に反映されていません。EV電池に置き換えて考えると、電池の価値は製造時の製品価値だけではなく、製品の利用状況に応じて変化する利用価値についても評価する必要があるということです。利用価値を整理せずに製品を循環させてしまうと、何をもって「賢い利用」とするか、すなわちどのような利用の仕方が循環経済に資するのか曖昧なままになってしまいます。だからこそ、「賢い利用」について何を基準に測るべきか――その「ものさし」を整える必要があります。単に良いことをしている、資源を無駄にしない、といった観念にとどめず、製品の持つ価値がどれだけ発揮されたかを数値として評価する。それが実現すれば、利用者はより長く大切に使える製品を求め、利用者のニーズに即した、使い捨てを前提としない製品を製造する動きが出てくるかもしれません。美徳を価値に変換し、利用価値として認められる社会をつくる。それが、このプロジェクトにおける私の役割だと考えています。

T.Momiyama
指標が整えば、ユーザーによる「賢い利用」が適切に評価されるようになりますよね。現状では価格に直結する製品の性能に関する価値評価が注目されがちですが、それに加えて「循環貢献指標」の策定は、利用者起点で新たな価値を定義する試みだと感じています。利用者も製造側も、数値に基づく意思決定ができるようになる意義は大きいと思います。

J.Li
制度面から見ても、指標策定の取り組みは次のフェーズを開く基盤となります。どのような指標が実際の利用状況を捉えられるか、どこまで評価可能なのか。実証を通じて検証し、政策提言と連動させる動きが今まさに進んでいます。市場が成長するためには、価値を評価できる状態を整える必要があります。

H.Kidoshi
循環を成立させる条件は、単に使い続けることではなく「どの状態で価値が維持されているかを説明できること」です。測定できない価値は、市場で伝わりません。評価軸が揃わなければ、保証水準も価格も揺らいでしまう。だからこそ、指標策定は社会実装を考えるうえで重要な取り組みであり、循環経済を仕組みとして成立させるための骨格になると考えています。
未来展望
循環を社会の当たり前へ。実装フェーズに向けた4人の決意

H.Kidoshi
ここまで議論してきたように、私たちの取り組みは制度・市場・技術が交差する領域であり、いずれも途中段階にあります。だからこそ、これからのフェーズでは「仕組みを社会に根づかせる」視点が重要です。個人の熱量だけでなく、組織としての一体感が成果を左右する場面が増えていく。メンバーがそれぞれの役割を持ちながらも、互いの成果に触発され、自然に前へ進んでいく。そのチームダイナミクスこそ、私たちが次のステージに向かう上での大きな強みだと感じています。

J.Li
このプロジェクトに携わる中で強く感じているのは、EV電池の循環は本当に難しい「社会課題」そのものだということです。技術や制度だけでなく、価値観や産業構造等が絡み合うため、どれか一つの主体だけで解けるテーマではありません。このチームだからこそここまで来ることができたのだと感じています。引き続きチームメンバーと力を合わせ、目指すべき循環の枠組みを実装へつなげていきたいと思います。

T.Momiyama
今後、私が目指したいのは「自分が関わる・関わらないにかかわらず、循環が社会の当たり前として根づく状態」をつくることです。循環が特別な取り組みではなく、自然に選ばれる社会を実現したいという思いが、このプロジェクトに向き合う原動力になっています。個人的な話になりますが、このプロジェクトは中途入社して間もなかった自分にとって、研究員としてやっていけるという手応えを初めて得られた取り組みでもあります。専門家として取材や講演を求められる機会も増え、責任の重さを感じる一方で自分の専門性を築いていきたいという思いも強くなりました。また、入社1年目の木下さんは、参画直後から自分の視点を言葉にし、議論を前へ動かしていく姿が印象的でした。新人であっても遠慮せずに問いや仮説を提示し、議論の地図を広げていく。その姿勢が短期間で確実に磨かれてきたと感じています。成果だけでなく、議論を前に進める存在としてチームに厚みを与えてくれており、このプロジェクトが個々の成長を後押しする環境であることを改めて実感しています。今後も、こうした相互作用が社会実装の推進力になると考えています。

T.Kinoshita
私としても、このプロジェクトに参加してから成長の速度を実感しています。若手でも遠慮なく意見を出せる環境があるため、立場に関係なく視点をぶつけ合い、そこから議論が前に進んでいく。そうした中で、自分の企画力や構造的に分かりやすく伝える力が短期間で大きく伸びている手応えがあります。プロジェクトに参加してから「良いものを最後まで使い切ることが価値として評価される社会」を実現したいという思いで活動しています。今後もこの環境で成長を続けながら、指標を社会実装につなげる役割を果たしていきます。

H.Kidoshi
私たちはまだ道半ばにいます。ですが、循環が資産として扱われる社会は確実に近づいている。その未来を具体化するために、これからもチームで挑み続けます。
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