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これからの地域公共交通の在り方⑧  ~整備された制度や施策を正しく活用してサステナブルな地域交通の実現へ~

2024年11月12日 武藤一浩


同タイトルでシリーズ化( )して執筆している本テーマについて、第8回は「サステナブルな交通(※1)の実現」に向け、整備された制度や施策とその正しい活用について述べてみたい。

年々増加する自治体主体の地域交通
 我々は本シリーズも含め度々、地方の地域交通を民間事業者で担うことは限界を迎えており、自治体は地域交通を地域の社会資本と捉えて取り組まざるを得ないと主張してきたが、最近の国および自治体、地方の交通事業者の声を聴いていると、いよいよ待ったなしの状況と感じる。
 民間事業者による地域交通の維持が困難になった場合、自治体には「自家用有償旅客運送」という方法で主体的に交通に乗り出すという選択肢がある。「自家用有償旅客運送」とは、バス・タクシー事業が成り立たない場合であって、地域における輸送手段の確保が必要な場合に、必要な安全上の措置をとった上で、市町村やNPO法人等が、自家用車を用いて提供する運送サービスである。
 その導入には、自治体が地域交通に関する協議会を設置して「地域公共交通計画」を作り、地域での合意を形成したうえで、実証実験を経て、本格導入するという定められた過程を踏む必要がある。計画と地域合意形成、実証、導入、のそれぞれの段階で国土交通省が助成や補助事業を用意しており、計画から導入までを地域で担える人材の育成に関する事業補助まで含まれている。
 結果、地域公共交通計画の策定を進める自治体は、2024年8月時点で1,119件と、直近4か月でも67件着実に増加している。このように順調に計画づくりが増加してくると、気になるのがその計画の「質」である。

交通視点だけの計画策定では不十分
 本シリーズ 「③地域交通事業者が取組むまちづくり」でも言及したが、まちを生物に例えると、まちの交通は、臓器(公共施設や店舗など行先)に血管(道路)を通じて血液(人)を届ける血流の役目を担う。このとき、臓器や血液がどこにあるのか、また、血管は毛細なのか動脈なのか、によって血流は変わってくることが想像できるように、血流だけの視点で策定された計画では生物が生きていけない。臓器、血液、血管についての計画には「立地適正化計画」がある。地域公共交通計画と立地適正化計画を同時に整備していくことで、生命を維持するかのように、地域の人々(血液)をいつどこ(臓器)に運びたいのかが反映され、初めて血の通った地域公共交通計画ができる。
 では、地域公共交通計画と共に立地適正化計画を策定している自治体がどの程度あるかというと、2023年6月時点になるが、503件と地域公共交通計画の半分程度にとどまる。国交省の担当課に聞くと、「地域のまちづくりと一体となって地域交通を計画する、といった考えで地域公共交通計画が策定されている自治体が少ない。策定された地域公共交通計画の質を今後は高めていかないといけない。」と話をされていた。

まちづくり計画と連携した「質」の高い地域公共交通計画の策定は実装に繋がる
 地域公共交通計画の「質」に関わる例を紹介したい。交通に関する実証は、地域公共交通計画に沿って進められるものとされているため、「実証をするために」といった実証実験目的で地域公共交通計画を作ってしまう事例が多々ある。実際、筆者に相談が来た北海道のある市町村では、まちを維持発展させるためのサステナブルな地域交通を整備し直したい、という想いがあるのに、EVバスや自動運転の実証をする予定なので地域公共交通計画策定から実証までをサポートして欲しい、という。どんなまちづくりの上位概念に紐づいて実証が必要と考えるかを問うたところ、どのまちづくりに関する計画にも触れられてなく、現在の自動運転の性能限界やコストも確認しないまま進めようとしていた。
 そこで、サステナブルな地域交通の整備にむけた地域公共交通計画を練り上げるために、最上位計画の「総合計画」、「都市計画区域マスタープラン」から市町村の都市計画に関する基本的な方針を確認し、その中で立地適正化計画を確認し、整合を図りながら地域公共交通計画を策定する、といった策定に向けた手順を提案し実施した。結果、進めようとしていた自動運転の実証はどこかに消えてしまい、まちを存続させるために、既存の技術で実施可能かつ脱炭素に繋がりながらも低コストな移動手段の整備を選択した計画となり、実証から実装へと着実に進んでいる。

自治体が主導し難い地域交通への取組背景
 ただ、計画づくりや実証のサポートを自治体に対して実施してみて感じたのは、自治体にはそもそも交通に関する計画を練り上げていく過去の経験やノウハウの蓄積がないことだ。地域交通の計画づくりが努力義務となったのが2020年と最近であるため、突然考えろ、と言われても適切な対応をし難い。更には、自治体の担当の異動がだいたい2年ごとに発生するため、せっかく担当者に根付いたノウハウが継承されていかない実態がある。
 国土交通省もこの問題には着目しており、上述のとおり「モビリティ人材育成事業」という補助金事業が用意されている。これは、交通に関する知見、データ活用のノウハウ、多様な関係者とのコーディネートを推進するスキルを活用しながら、地域の交通が目指すべき姿の実現に向けて主体的かつ継続的に取り組む人材を育成する事業であり、まさしく前述の問題に対応するものだ。そして、「主体的かつ継続的に取り組む人材」とある人材は、地域のまちづくりを担う自治体に内製化することが望まれている。

国土交通省が整備した制度や施策を正しく適用すべき
 筆者が交通分野に取り組んで10年以上、自動運転、MaaS、グリーンスローモビリティ、ライドシェアなど交通課題を解決できると謳われた様々なモビリティサービスの導入を模索してきたが、どれもモビリティサービス自体でサステナブルな地域交通を実現する必殺技にはならなかった。それら模索を経て今では、モビリティサービスよりも、地域のまちをどうしていくのか、その目指すまちの姿を地域関係者と真摯に向き合って合意形成を進めていけるのか、そのまちの設計に必要となるモビリティサービスが何なのか、そのモビリティサービスをどのように効率的・効果的に運用するのか、といったプロセスを正しく踏むことこそが、サステナブルな地域交通の実現に繋がると確信している。自分と同じ問題意識を持つ自治体の方々と共に、シンクタンク&コンサルティング企業として、国の制度や施策を上手く活用して、一つでも多くの地域にサステナブルな地域交通の実現させたい、という想いを抱いている。同じ想いを共有できる同志を更に増やし、取り組みを継続して行きたい。

(※1)国土交通省が発信しているこれからの地域交通に求められている方針。既存の交通形態に限らず、地域の多様な関係者の「共創・連携・協働(教育×交通、環境×交通といった〇〇×交通)」により、地域公共交通ネットワークの「リ・デザイン」(再構築)を進め、利便性・生産性・持続可能性を高めること。


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。

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