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令和2年度 子ども・子育て支援推進調査研究事業
妊産婦及び妊娠・出産に当たっての適正な栄養・食生活に関する、効果的な情報発信に関する調査研究

2021年04月06日 小島明子青山温子齊木大岡元真希子


*妊産婦及び妊娠・出産に当たっての適正な栄養・食生活に関する、効果的な情報発信に関する調査研究(以下、「本事業」)は、令和2年度子ども・子育て支援推進調査研究事業の国庫補助を受けて実施したものです。

本事業の目的
 妊娠期及び授乳期は、母子の健康確保のために健全な食生活を送ることが極めて重要な時期であり、正しい情報に基づいた適切な食生活の支援が必要である。妊産婦の食生活の支援については、令和元年度の子ども・子育て支援推進調査研究事業(以下「調査研究事業」という)において平成18年に策定された「妊産婦のための食生活指針」(平成18年2月15日付雇児発第0215005号)の改定案を作成した。今後は、その周知啓発を進めていくことになる。
 一方で、平成30年度の調査研究事業で実施した妊娠経験のない妊娠可能な年齢の女性及び妊産婦(以下「妊産婦等」)の実態に関する結果では、妊娠に当たって適切な時期に適切な情報を把握できておらず、さらに適切な行動に結びついていない等の課題が明らかとなっている。
 また、平成29年度、平成30年度の調査研究事業で「妊娠中・産後のママのための食事BOOK」「働く女性のためのヘルスケアブック」、令和元年度は「授乳・離乳の支援ガイド」の啓発資材を作成しているが、厚生労働省が発信しているこれらを含めた情報に対する認知状況について十分に把握できていない。
 本事業では、妊産婦等を対象として作成された普及啓発媒体(普及啓発資材及び厚生労働省関連ウェブサイト)の認知状況等を明らかにするために、妊産婦等及び企業向けの調査を実施する。また、令和元年度「妊産婦のための食生活指針の改定案作成及び啓発に関する調査研究報告書」で作成されたリーフレットを土台として、普及に向けたさらなる検討や普及啓発資材の作成を行う。あわせて、これまでの調査研究事業の成果物である「妊娠中・産後のための食事BOOK」「働く女性のためのヘルスケアブック」「授乳・離乳の支援ガイド」を体系的に整理し、企業を起点として情報提供を促進していくためのコンテンツを作成する。

本事業の主な内容
 本事業における主な実施事項は、以下のとおりである。
1.妊産婦等を対象として作成された普及啓発媒体の周知の状況等に関する調査
2.「妊産婦のための食生活指針」普及・啓発
3.効果的な情報発信のためのコンテンツ作成
4.1,3事業のための先行研究を踏まえた調査設計

本事業で実施したアンケート及びインタビュー調査結果のまとめ
アンケート調査結果のまとめ

【アンケート調査目的1:妊産婦等を対象として作成された普及啓発媒体の周知状況の把握】
(普及啓発資材)
・妊産婦等を対象として作成された普及啓発資材の認知は、妊産婦において総じて低い。「いずれの冊子も見たことはない」が、いずれの群でも最も割合が高く、5~9割を占めた。特に、25~39歳の初産婦で認知が低い。
・普及啓発資材を認知している妊産婦の認知経路は、妊娠出産時に接触する自治体の機関や医療機関に限られる。
・認知が低い一方で、認知している妊産婦の8割前後から普及啓発資材の内容は高く評価されている。
・妊娠経験のない女性においては、「いずれの冊子も見たことはない」が、すべての年齢層でも9割を超え、対象を妊産婦に限定していない「働く女性のためのヘルスケアブック」を含め、ほとんど認知されていない。
・普及啓発資材を認知している企業は、1割未満であり、ほとんど認知されていない。
(厚生労働省関連ウェブサイト)
・妊産婦における厚生労働省関連ウェブサイトの認知は、総じて低い。「いずれのサイトも見たことはない」が、すべての群で割合が最も高く、6~9割を占めた。特に、35~39歳の初めて妊娠をした妊婦、30代の初めて妊娠をした産婦で認知が低い。
・ウェブサイトを認知している妊産婦の認知経路は、「健やか親子21(第二次)ホームページ「妊産婦のための食習慣」」については、普及啓発資材同様、妊娠出産時に接触する自治体の機関や医療機関が中心だが、厚生労働省ウェブサイト内の下部ページについては、検索エンジンが主な認知経路となっている。
・認知が低い一方で、普及啓発資材同様、認知している妊産婦の8割前後からウェブサイトの内容は高く評価されている。
・妊娠経験のない女性においては、「いずれのサイトも見たことはない」が、いずれの年齢層でも9割を超え、ほとんど認知されていない。
・企業においては、「女性の活躍推進企業データベース」が約半数を超えているが、「女性の健康推進室」「健やか親子21ホームページ」は、約2割以下である。

【アンケート調査目的2:「妊産婦のための食生活指針」の普及・啓発に向けたデータ収集】
・いずれかの機関や組織から提供された「ご自身の栄養・食生活」に関する情報を、役に立つ情報と評価する理由として、妊産婦においては「知らなかった情報を知ることができたから」「写真やイラストが使われており、分かりやすかったから」がほとんどの群で3割以上を占める。
・また、妊娠経験のない女性においても、これらの項目が3割以上を占める。
・この結果を踏まえ、「妊産婦のための食生活指針」の普及・啓発に向けたリーフレット作成時には、「写真やイラスト」を活用した分かりやすさ、に留意した。

【アンケート調査目的3:効果的な情報発信のためのコンテンツ作成に向けたデータ収集】
・妊産婦にとっても、妊娠経験のない女性にとっても、企業は「栄養・食生活」に関する情報提供の主要な提供主体となっていないのが現状である。
・一方、「将来の妊娠を考えた健康づくり」について考え始める理想の時期として、妊産婦においては、多くの群で「結婚後(初めての妊娠計画前)」と並んで「社会人・単身時代」が挙げられている。
・妊娠経験のない女性では、「将来の妊娠を考えた健康づくり」について「真剣に考える必要はない」が約半数であるものの、20歳以上では「社会人・単身時代(高校・大学等を卒業後)」が次いでいる。
・企業においては、女性の健康支援に関する取り組みのなかでは、「婦人科検診受診の促進」が約6割と最も多く、栄養や食生活に関する情報提供は、対面、非対面問わず約1割未満である。

【アンケート調査目的4:コロナ禍における情報収集・情報提供の変化の把握】
・新型コロナウイルスが流行する前後の、「ご自身の健康」に関する情報収集について、妊産婦においては、産婦の多くの群で「「ご自身の健康」に関する情報収集に変化はない」が4割前後を占め、各群で最も高い項目となっている。
・一方で、25歳以上の妊婦(初産婦)では、「情報を収集する頻度が増えた」の割合が高く、4割を超えている。
・妊娠経験のない女性では、「ご自身の健康」に関する情報収集に変化はない」がすべての年齢層で半数を超え、最も高い項目となっている。
企業においては、健康情報に関する情報提供を変えた企業のうち、「健康支援セミナーをオンラインで実施」(59.4%)が最も多く、「健康管理に関する情報を動画で提供」(46.9%)と続いている。

インタビュー調査結果のまとめ
企業向け調査結果として、明らかとなったポイントは以下の通り。
・妊娠・出産に関する情報は、多様な従業員がいるなかで、情報提供の方法には、配慮が必要である。
・女性の健康に対する意識啓発は、女性自身だけではなく、管理職含めて行っていくことが必要である。実際に、管理職も含めて研修を行っている企業では、管理職の女性の健康課題に対する理解が深まっている。
・保健師と相談をしやすい環境づくりを行うことで、栄養・食生活に関する個々人の健康状態に特化した助言を可能とする。
・会社側としては、手続きの申請がある前の段階で、妊婦を早期に把握することは難しく、妊娠期への積極的な介入はしづらい。
・オンライン等を含めて情報をたくさん提供しているものの、提供されている側の反応を知ることが難しく、どのような形で情報を提供していくのが効果的なのか、検討が必要である。
・普及啓発資材については、電子ファイルの存在や、無償であること、配布の対象者等、厚労省のホームページで分かりやすく開示されていることが望ましい。自社の制度内容が入れられるなど、アレンジも自由にできることが分かると、社内で配布がしやすい。
・「働く女性のためのヘルスケアブック」については、保健師に悩みの相談をしにきた女性従業員の支援に役立っている。

本事業で実施したアンケート及びインタビュー調査結果からの示唆
 本事業で実施したアンケート及びインタビュー調査結果を踏まえた上で、得られた示唆は以下の5つである。
提言①. 普及啓発資材を活用する機会の拡大
(課題)
 妊産婦等を対象として作成された普及啓発資材は、認知者にとっては有益な情報提供媒体となっているものの、認知経路が妊娠出産時に接触する自治体の機関や医療機関に限られているため、周知自体が課題となっている。
 本事業におけるアンケート調査開始時点では、普及啓発資材の認知が低い場合の新たな周知機会として、情報を受け手に深く浸透させることのできる1対1での相談場面を想定していたが、妊産婦、妊娠経験のない女性ともに、学校(キャリアセンター)や勤務先企業、医療機関、自治体の機関などで、1対1で相談する機会は、妊娠出産時を除き、ほとんどないのが現状である。

(提言)
 妊娠出産時に有用となる普及啓発資材については、自治体や医療機関以外にも、妊産婦が接触する組織・機関からの周知を進めることが必要である。妊娠・出産に関する情報提供には配慮が必要であるものの、妊娠・出産前から有用である普及啓発資材(「働く女性のためのヘルスケアブック」)については、より広範な組織・機関での周知を進めるきっかけとして、活用がしやすいと考えられる。今後は、勤務先企業及び学校(キャリアセンター)起点で普及啓発を行っていくことが考えられる。

提言②. 企業における女性の健康づくりの役割強化
(課題)
 妊産婦、妊娠経験のない女性ともに、企業は「栄養・食生活」に関する情報提供の主要な提供主体となっていないのが現状である。しかし、「将来の妊娠を考えた健康づくり」について考え始める理想の時期として、妊産婦においては、多くの群で「結婚後(初めての妊娠計画前)」と並んで「社会人・単身時代」が挙げられており、学生から社会人になった女性が就業する企業には、「将来の妊娠を考えた健康づくり」に資する情報提供において、積極的な役割を担うことが期待される。

(提言)
 健康に関する相談窓口に相談にきた女性に対する栄養・食生活の助言を充実させるとともに、女性の健康支援に関するセミナー等のなかに、栄養・食生活に関するテーマを盛り込むことが期待される。食堂で提供(販売)する食事のメニューでの工夫や、アプリの活用を行っていくことも一案である。

・提言③. 企業起点での普及啓発資材の効果的な活用
(課題)
 普及啓発資材については、多くの企業が存在を認知していないことが明らかになった。さらに、入手方法が分からないといった意見も得られている。しかし、アンケート回答企業の約半数近くが、厚労省の「女性の活躍推進企業データベース」については認知しており、掲載先次第で、認知が広がる可能性がある。

(提言)
 普及啓発資材については、「健やか親子21ホームページ」のみならず、「女性の活躍推進企業データベース」にも掲載をすることで、企業の人事担当者等を通じた認知が広がる可能性がある。掲載の際には、配布の対象者が一覧で分かるようにすることや、無償であること、編集が自由にできること(ツールの提供含む)などを示すことが望ましい。企業側が自由に編集した冊子を、「健やか親子21ホームページ」に掲載・投稿できることも一案である。

提言④. 企業起点での「将来の妊娠を考えた健康づくり」への意識啓発
(課題)
 妊娠経験のない女性では、「将来の妊娠を考えた健康づくり」について「真剣に考える必要はない」が約半数である。しかし、妊産婦においては、「将来の妊娠を考えた健康づくり」について「考えたことがない」割合と、「真剣に考える必要はない」割合は、後者の方が小さくなっている(-9.7pt)。つまり、妊産婦は、自身の妊娠・出産経験を通じて、「将来の妊娠を考えた健康づくり」の重要性を認識した可能性がある。

図表5-1 「将来の妊娠を考えた健康づくり」について
「真剣に考えたことはない/考える必要はない」・妊産婦(単一回答)




(提言)
 「栄養・食生活」に関する知識をつけることは、女性の生涯の健康や、将来の家族の健康づくりに対しても有益である。また、「妊娠を考えた」健康づくりということであれば、「栄養・食生活」に限らず、不妊につながる女性特有の疾患(例:子宮内膜症、子宮筋腫など)に関する情報や治療も提供すべきである。企業向けのアンケート調査のなかでは、企業で推進していく上での講師の紹介をはじめ、企業側がどのように活動を行っていくべきか、情報を求めている声も得られている。「健やか親子21ホームページ」等を通じて、企業が女性従業員に向けてどのような意識啓発活動が実施できるか、具体的な事例やコンテンツの提供を行っていくことが望まれる。

提言⑤. 企業事例の共有
(課題)
 企業のインタビュー調査からも、未だに男性従業員が多いものの、ここ数年、若い女性従業員が増えたことから、健康課題に対する関心が高まっている状況が窺える。妊娠・出産に向けた女性の健康な体づくりに向けた取り組みは増えていくことが期待されているが、大企業だけではなく、中小含めて、多くの企業の関心を高めていくためには、優良な取り組み事例を共有することが必要である。

(提言)
 「健やか親子21ホームページ」のなかで、今回、作成した事例集を掲載しつつ、中小企業の事例の掲載も進め、共有を行っていくことが期待される。優良な事例に対しては表彰を行い、取り組みを行う企業を増やす仕掛けづくりを行っていくことも一案である。

※詳細につきましては、下記の報告書本文をご参照ください。
妊産婦及び妊娠出産に当たっての適正な栄養食生活に関する、効果的な情報発信に関する調査研究報告書(PDF:7,743KB)
①-1妊娠前からはじめよう 健やかなからだづくりと食生活Book(見開き版)(PDF:1,927KB)
①-2妊娠前からはじめよう 健やかなからだづくりと食生活Book(単頁版)(PDF:1,989KB)
②-1健やかなからだづくりと食生活Book(見開き版)(PDF:1,931KB)
②-2健やかなからだづくりと食生活Book(単頁版)(PDF:1,944KB)
③職場と一緒に!働く女性の健康づくり 企業における健康支援の取組事例.pdf(PDF:1,367KB)

①、②は、表紙が異なっておりますので、ご利用用途によってお使い分けいただければ幸いです。

本件に関するお問い合わせ
創発戦略センター スペシャリスト 小島 明子
TEL:090-5508-3565    E-mail:kojima.akiko@jri.co.jp

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