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【ニューノーマルにおけるスポーツの価値】
第6回 「ソーシャル・キャピタル」を通じた孤独の克服 ―スポーツの個人体験化」と「総合型地域スポーツクラブ」の結合―

2020年11月17日 佐々木京助


1.新型コロナウイルスの拡大による孤独の蔓延
 新型コロナウイルスの拡大の影響の一つとして、孤独の蔓延が指摘されている。2020年6月上旬に九州大学が学生に行った調査では、「この1カ月、友人と直接話していますか。」という質問に対して、「全くしない」「あまりしない」と回答した者が全体の約35%に上り、「孤立を感じる」と答えた学生は「あてはまる」と「ややあてはまる」と答えた割合を足し合わせると約40%を超えることが分かった。(九州大学/2020年)
 大きな問題となっている孤独を解消する手段として、今回はスポーツの可能性を考察したい。

2.スポーツによる「ソーシャル・キャピタル」の醸成
 そもそも、スポーツの意義は一般的にどのようにとらえられているのであろうか。
 「スポーツの実施状況等に関する世論調査」(スポーツ庁/2019年)では、「スポーツが個人や社会にもたらす効果」として、1位の「健康・体力の保持増進」(全体74.4%、男性72.0%、女性76.8%)に続き、2位は「人と人との交流」(全体51.1%、男性47.9%、女性54.2%)となっており、スポーツの価値や効果に人と人のつながりを見いだす者は相当数存在することが読み取れる。
 それでは、スポーツの「人と人との交流」に係る機能とは具体的にはどのようなものであろうか。「スポーツ立国戦略」(文部科学省/平成28年)にも記載があるように、「国際交流・多文化理解」といった観点の他、地域住民の結びつきを強め、地域の一体感を生み、「ソーシャル・キャピタル(社会関係資本)」の形成に大きく寄与するものであると述べられている。 多様なスポーツの機能のうち、特にここでは、「ソーシャル・キャピタル」の形成の視点に着目したい。

参考1:「ソーシャル・キャピタル」(社会関係資本)について
(アメリカの政治学者 ロバート・パットナムの定義)
・人々の協調行動を活発にすることによって、社会の効率性を高めることのできる、「信頼」「規範」「ネットワーク」といった社会組織の特徴

参考2:「ソーシャル・キャピタル」の3要素:信頼・規範・ネットワーク

参考3:「ソーシャル・キャピタル」の分類(一部)
・「結合型」:同質なもの同士が結びつくソーシャル・キャピタル
・「橋渡し型」:異質な者同士を結びつけるソーシャル・キャピタル
(『ソーシャル・キャピタル 入門 ―孤立から絆へ―』(2011年/稲葉陽二著)より)

 「コミュニティ機能再生と「ソーシャル・キャピタル」に関する研究調査報告書(内閣府経済社会総合研究所編/2005年8月)に記載があるが、「ソーシャル・キャピタル」の3要素(参考2)と市民活動量は正の相関関係があるとされている。「ソーシャル・キャピタル」が醸成されることにより、市民の社会活動量が増加して多くの者の社会参加が実現することにより、孤独が解消すると期待できる。

3.「ソーシャル・キャピタル」と「総合型地域スポーツクラブ」の親和性
 さて、上記2.で既述したソーシャル・キャピタルの醸成とスポーツを行う場の関係性について考えてみたい。たくさんの場や機会が考えられるが、ここでは「スポーツ・ジム」「個人によるスポーツ」「総合型地域スポーツクラブ」に注目する。
 まず、民間企業の運営する「スポーツ・ジム」では、利用者がスポーツには取り組んでいるものの、個人トレーニングを主目的としているため対面のコミュニケーションは生じ難く、利用料金も比較的高額であることから誰でも参加できる性質のものではない。
 また、新型コロナウイルスの拡大の影響による外出の自粛や運動不足の影響もあって、個人が家で気軽にスポーツを楽しむことが流行している。それを筆者は「スポーツの個人体験化」と呼ぶ。例えば、任天堂の「Nintendo Switch」の「リングフィット アドベンチャー」はコロナ禍で人気を集め、品薄の状態が長く続いている。また、YouTube等で配信されているヨガやダンス教室の動画に親子で取り組む例や、「オンラインパーソナルジム」に熱心に取り組む例もみられる。これら「個人体験化したスポーツ」は、手軽でありかつ自由なタイミングで始められることから、スポーツを始める有効なきっかけとはなり得る。この点は大いに評価すべき点と筆者は考える。一方、これらの個人体験化したスポーツ活動においては、前述のソーシャル・キャピタルに必要な3要素のうち、「ネットコミュニティ」を介した「ネットワーク」については一定程度構築の可能性があるが、そのネットワークは実社会に比べてまだまだ無秩序であり、参加も匿名で可能であることから、「規範」と「信頼」が欠如しがちである。結果としてソーシャル・キャピタルは育まれず、孤独を解消するには至らない。
 そのような状況において、筆者が注目しているのは「総合型地域スポーツクラブ」である。以下の3点の理由から、「ソーシャル・キャピタル」の醸成と「総合型地域スポーツクラブ」は親和性が強く、孤独の解消に有効ではないかと考えている。
 一つ目の理由は、ソーシャル・キャピタルの分類の「結合型」と「橋渡し型」(参考3参照)のうち、総合型地域スポーツクラブは様々な者が参加し多様なネットワークが生まれることから、「橋渡し型」であることに関係する。「橋渡し型」のソーシャル・キャピタルには「開放的」・「横断的」な性質があり、異なる価値観を持つ他者に寛容であることから「社会の潤滑油」の役割を果たすと考えられる。ソーシャル・キャピタルが醸成された結果、参加者の社会参加が活発化になり、孤独の解消に近づくことが予想される。
 理由の二つ目は、経済状況や居住地の制限なく参加できる点である。民間企業の運営するジムに比べて、総合型地域スポーツクラブの年会費は低く設定されていることが多い。また、2019年3月時点で、3,599団体存在し、全国の市区町村の約80.8%に設置されており、全国ほとんどの自治体で住民がスポーツをする機会が担保されている。「孤独」に陥っている者に幅広くアプローチできる点は総合型地域スポーツクラブの強みといえる。
 理由の三つ目は、一定の参加ルール(=規範)がある中で、対面でのスポーツ活動を通じて他者への信頼が生まれ(=信頼)、結果として様々な参加者の間で人的な交流が生まれる(=ネットワーク)ことが、「ソーシャル・キャピタル」の3要素と合致した特徴を有しているといえるためである。

4.「総合型地域スポーツクラブ」による孤独の解消
 3.で確認したように、総合型地域スポーツクラブには孤独を解消する力があると考えられる。「個人体験化したスポーツ」を体験したが、孤独な状態にとどまっている者と「総合型地域スポーツクラブ」を結びつけることを目指し、筆者は、「個人体験化したスポーツ」を体験した者が、類似・延長の体験ができるプログラムを総合型地域スポーツクラブは提供する」ことを提言したい。もちろん、新型コロナウイルスの影響ですぐに実践は難しいが、感染症対策をとったうえで導入すべき新しい試みであると考えている。
 例えば、YouTubeで配信されているヨガの動画に自宅で取り組む例に触れたが、それを総合型地域スポーツクラブが活用する方策が考えられる。動画を見てヨガをするという「個人体験化したスポーツ」を、複数人の中でコミュニケーションを取りつつ実施するという簡易的なもので構わないであろう。
 「個人体験化したスポーツ」では「人と人の交流」が生まれにくいことから、ソーシャル・キャピタルが育まれず、孤独の解消にはつながりにくい。一方で、「個人体験化したスポーツ」は時間と場所を選ばず気軽にスポーツを始めるきっかけとなっていることに強みがあり、類似・延長のプログラムを総合型地域スポーツクラブが準備することを通じて「個人体験化したスポーツ」と「総合型地域スポーツクラブ」の活動をうまく結合できるのではないか。そして、「橋渡し型」である総合型地域スポーツクラブの特徴を活かして参加者の社会参画を促し、「孤独の解消」に寄与できると考えている。
 新型コロナウイルスの拡大に伴う孤独の問題は、今後も課題として残り続けると推測される。そのような「ニューノーマル」の時代だからこそ、上記のようなスポーツを通じた「ソーシャル・キャピタル」の醸成に改めて注目したい。

【参考文献】
2009年02月23日 コラム「研究員のココロ」 ソーシャル・キャピタル 2008全国調査を終えて
2007年05月28日 コラム「研究員のココロ」 他人を信頼できない国“日本”を変えていくために
2005年06月13日 コラム「研究員のココロ」 割れ窓理論とソーシャル・キャピタル
2003年12月01日 コラム「研究員のココロ」 なぜ今ソーシャル・キャピタルなのか-後編-
2003年11月25日 コラム「研究員のココロ」 なぜ今ソーシャル・キャピタルなのか-前編-

※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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