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コラム「研究員のココロ」

他人を信頼できない国“日本”を変えていくために

2007年05月28日 東一洋


1.被災地での犯罪

 「被災地 犯罪を警戒」。能登半島地震が起こった3月25日から2週間ほどたった朝日新聞記事(4月8日)の見出しである。全壊した漆器店から商品を盗もうとした男が逮捕されている。「掘り出し物」を求め、わざわざ東京からワゴン車を飛ばして被災地入りをしたらしい。一昨年夏の新潟・福島豪雨の際にも同様の報道があったと記憶している。
 我々日本人はあの未曾有の惨事であった阪神・淡路大震災後の米ワシントンポスト紙の報道を思い返すべきである。記事は大震災後の混乱した被災地でも暴動や盗難が起こらず、整然と助け合う日本人を褒め称える内容であったはずである。アメリカではこうはいかない、と。もちろん、被災地では様々なトラブルや事件が実際は発生していたのかも知れない。しかし全国からボランティアが集まり、助け合う日本人の姿はアメリカ人記者にとっては大きな驚きであったに違いない。
能登半島の避難所で暮らす被災者が「悲しい気持ちになる。他人を信用できなくなる。」とのコメントを寄せている。

2.「信頼」の社会経済的効果

 このような記事引用をしたのは、本稿では「(他人への)信頼」について述べたかったからである。
 「信頼」に関しては、米メリーランド大学政治学部ウスラナー教授の研究が興味深い(もちろん、北海道大学山岸教授の研究は他を凌駕するものである)。ウスラナー教授は、「他人への信頼(most people can be trusted)」と国レベルのイノベーション、国際化、情報化、市場開放には大きな関連性があり、その国の経済成長、経済格差、汚職・腐敗などにも影響をもたらす、と指摘している。


(資料)Eric M Uslaner“「Trust and Economic Growth in the Knowledge Society」
講演レジュメ”、内閣府経済社会総合研究所、2006年をもとに筆者作成



3.他人が信用できない

 では、ここ最近のわが国はどのような状況なのか。それを知る手がかりとして、内閣府(2002年)、同社会経済総合研究所(2004年)が「一般的な信頼度」に関して実施した全国アンケート調査結果がある。以下の図は、地域ブロックごとに比較したものである。


※左柱は2002年調査、右柱は2004年調査
※いずれもウェブ調査
(資料)内閣府2002、同経済社会総合研究所2004



 北海道はデータサンプル上の異常値と解釈しても、全国で5ポイント以上も下がっているのである。調査時点の差はわずか2年(2002年→2004年)であるにも関わらず、である。WEB調査であるという点は大いに考慮しないといけないが、わが国では、これほどまでに「他人を信頼できない」国になってしまったのであろうか。
(今年はどのような結果になるのか、筆者らは非常に強い興味を持って再度全国アンケート調査を実施する予定である。)

4.信頼の回復が急務

 ウスラナー教授の研究結果や我が国の状況をみるにつけ、このまま放置しておくことは、我が国の社会経済にとって非常に好ましくない。談合などの不正行為や事故の隠蔽工作等が次々と発覚し、格差拡大による社会の歪みが新聞紙上を賑わせている状況からも、そうした懸念を強くせざるを得ない。「(他人への)信頼」の基盤ともいえる「ソーシャル・キャピタル」の毀損は、様々な分野で「取引コスト」の増大を生み、日本経済・地域経済の低迷・混迷につながる可能性がある。また日本社会の「品格」の低下等は「国家的信頼」の低下につながり、国際関係の上でも大きなマイナスとなろう。
  このような状況を鑑み、昨年秋内閣官房において「地域活性化策の推進に関する検討チーム」が設置された。地域活性化策に関する政府の取組は省庁横断的に施策を総合的に推進することとし、その中でソーシャル・キャピタルについて検討することが決まっている。

5.私たちが出来ること

 このような国の取り組みとあわせ、我々一人一人が出来ることも多くある。自戒の念も含め、それはもっと地域に出て行くことだと筆者は考える。子どもの安心・安全や環境問題など自分達の住むまちや地域固有の課題の解決のための活動に積極的に参加することである。そうすることで市役所などとの議論の場に出る機会も増え、長期的には「(他人への)信頼」の回復、ひいてはソーシャル・キャピタルの底辺を支え、さらなる拡大につながると考えるからである。恐らくこのコラムを読むような人たちの多くは、そのノウハウやネットワークを有した人であると信じている。
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