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子ども向けの商品は「子どもの最善の利益」にかなっているか(第2回)

2012年05月11日 村上芽


・拡大続くおもちゃ/キャラクター商品の市場規模と背景
 第2回の今回は、おもちゃ/キャラクター商品を取り上げる。玩具産業の対象領域は多岐にわたる。日本玩具協会の調査※1によれば、主要分野だけで10分野※2あり、その合計市場規模は2010年度で6,639億円となった(テレビゲームを除く)。この調査では2007年以降4年連続で規模が拡大しており、なかでも男児向けのキャラクター商品が好調だったという。
 キャラクター商品や、その元となるアニメや漫画といえば、日本の強みとして海外に売り出そうとする動きが官民ともに活発であるが、この商売は大量生産・大量消費の行動パターンを引きずってはいないだろうか。好調だった分野のターゲットである「男児」には、まだ自分の購買意思にもとづく買い物をしない幼児~低年齢児を含むが、小さな子どもの欲求をうまく利用して、親をはじめとするおとなの行動意欲を短期間に煽っている可能性がある。
 おとなに次々とおもちゃを買い与えられて育つことは、地球環境がさらに劣化していくだろう将来を生きなければならない子どもにとって望ましい経験だとは考えられない。
 男児向けキャラクター商品を具体的にみてみる。例えば仮面ライダーシリーズの場合、毎年9月に更新される作品に合わせて、ベルトなどの周辺グッズがいっせいに切り替わる。9月に誕生日のある子のプレゼントは毎年、予約して入手するベルトだというのも実際、よく聞く話である。ベルトが品切れで、入手するために奔走する親も少なからずいる。また、古くはゴレンジャーに始まったスーパー戦隊シリーズと呼ばれる戦闘物も、同じように1年1作で更新されていく。また、アンパンマンやポケモンの場合、それぞれ絵本やテレビ、ゲームから登場するキャラクターが次々と増えていき、それらをぬいぐるみなどとして収集したり、キャラクターグッズとしてありとあらゆる日用品を揃えたりすることが目的化している。
 なお、キャラクタービジネスの市場規模(商品化や版権)は、玩具よりもはるかに大きく2.3兆円を越している※3

・片付けの憂鬱と短視眼的な購買
 子どもが、実際に新しいおもちゃをもらって遊ぶ場面を考えると、「おもちゃをもらう→包みを開ける→喜ぶ→遊ぶ→飽きる→次の遊びに移りたい→渋々片付ける」というサイクルとなり、2回目からは「おもちゃ箱などから出す→遊ぶ→飽きる→次の遊びに移りたい→渋々片付ける」というサイクルになる。くどいように「片付ける」までを繰り返したのは、実際、子どもとおもちゃの日々の生活は、おもちゃをもらったり、出したりして終わるわけではなく、遊んで片付けるまでが一連のサイクルであることを想定しておかなければならないと考えるからである。
 子どものおもちゃをどう片付けるか、整理するかは親にとって問題になる。毎年更新されていく、興味を持って見なければ、ほとんど違いがわからないキャラクターのおもちゃの山。包装されてきた紙箱にきちんと納めれば少なくとも箱のかたちで整理されるものの、かさばるうえに片付けに時間がかかってしまう。したがって包装はすぐに捨てるとなると、中身はその他小道具とも混ざり合っておもちゃの箱のなかへ。ほどなく何かの小物か部品を紛失してしまい、「なくなった」「こわれた」という理由も付けられていつのまにか死蔵されてしまう。やがて、子どものおもちゃのために割けるスペースはいっぱいとなり、捨てる・捨てないという局面に向き合う羽目になる。
 そして、子どもはといえば、本来であればおもちゃで遊び、年齢とともに本気でそのおもちゃと遊ぶことから卒業していくはずのところ、遊び尽くす前にすぐに飽きてしまったり、先のような理由で使えなくなったとレッテルを貼ったりすることによって、次のプレゼントをおとなに要求するようになる。
 そうこうしているうちに、年に1回の誕生日以外にも、何かと子どもが新たなおもちゃを手にできる機会がめぐってくる。年末年始。進級。子どもの日。長期休暇。両親、祖父母、おじ・おば、友人・知人。子どもにプレゼントを与えるおとなはたくさんいる。子どもに一番身近なおとなである親も、「また新しいのが出たら、どうせそれを欲しがるでしょう」という短視眼的な子どもの欲求を容易に想像することが出来る。そこで、片付けや「捨てる・捨てない」の局面が来ることが分かっていても、与えた瞬間に子どもが喜ぶものを選んだり、他のおとなにリクエストを代弁したりするという安易な選択に傾いてしまう。もしかするとお金ではなく時間を使って子どもと遊んでやるほうがお互いの満足感が高かったかもしれないにもかかわらず。

・望まれる企業の配慮と企業の実際
 企業が、先に例に挙げたような有力キャラクターと、子どもが何かを与えてもらえるサイクルをうまく活用して新商品を投入し続ければ、確かに収益を確保し続けられるのかもしれない。親にも、子どものおもちゃを自らのコレクションのように楽しむ人もいれば、孫にプレゼントを与えることが何よりも楽しみで、欲しいといわれるだけあげたいと考える祖父母もいるわけだから、消費者のニーズに応えているといえば応えているのには違いない。
 しかし、それは果たして尊敬されるべき「おとな」の企業だろうか。人気キャラクターやコンテンツの存在は、製薬企業にとっての新薬開発と同様、おもちゃ関連企業にとっては生命線である。それにしても、短いサイクルでキャラクターを消費し続けることが、真に持続可能な企業像だろうか。
 もちろん、子どもに大量消費・大量生産そして大量廃棄(すべてをコレクションできる子どもはいないため)を習慣付けているのはキャラクター商品だけでは決してないだろう。しかし、ここで問題にしたいのは、おもちゃやキャラクター関連の主要企業の情報発信からは、自社の意思決定や行動が、社会・環境に与えるかもしれない悪影響の認識が必ずしも感じられない点である。
 1990年に自動車メーカーのボルボが「私たちの製品は、公害と、騒音と廃棄物を生み出しています」という新聞広告を出稿して注目を集めた。自動車のように、環境負荷の高い、または分かりやすい業種ほど、反省もしやすく環境活動をPRしやすい面は確かにある。また悪影響を認識するというメッセージは、単にグリーンウォッシュに他ならないという批判もある。
 それでも、製造業であり、かつ将来世代の発達過程に深く関与している業種である「おもちゃ業界」には一定の配慮を求めたい。例えば業界最大手のバンダイナムコの場合、CSR活動報告のなかで、国内唯一の工場「バンダイホビーセンター」を、機動戦士ガンダムに登場する「スペースコロニー型工場」と位置づけ、物語のなかであるようなゼロエミッションなどを目指した省エネや公害防止、リサイクルに取り組んでいることを紹介している。また、「エコプラ」と呼ぶ黒く転色したリサイクル材をプラモデルに利用し、それをリサイクルの象徴だとしている。自社の商品の特徴をとらえ、うまく消費者に伝えているとは感じられる側面もあるものの、自社の商品群を一覧したうえで、おもちゃのライフサイクルを見直すきっかけを与えるというところまでには至っていない。
 また、売上の大半にキャラクターが関与しているサンリオの場合、CSR活動のほとんどは、いわゆる社会貢献活動となっており、自社商品の環境負荷などに対する言及はまったくない。
 非上場であるが世界的に3兆円ビジネスともいわれるポケモンをプロデュースする株式会社ポケモンの場合も、ホームページ上の事業紹介・会社概要・経営者からのメッセージからは、自社の意思決定や行動が、社会・環境に与えるかもしれない悪影響の認識への言及はない。
 ただ、望まれる配慮の萌芽が皆無だというわけでもない。業界2位※4のタカラトミーの場合、「エコトイ」と銘打った環境活動では、「100年あそぼ」をメッセージとして、おもちゃのライフサイクル(開発・設計→生産→遊び→メンテナンス→リサイクル)ごとに自社基準を設け、1つ(だけではあるが)クリアすると認定マークを付与している取り組みが始まっている。また、環境省のプラスチック製おもちゃの回収・リサイクル社会実験(PLA-PLUS(プラプラ)プロジェクト)に、同社は参加している。ファッション業界が洋服や靴の回収・下取りと販促を兼ねたプロジェクトを百貨店等と連携して行っているのに比べるとまだ普及しているとは言いがたいが、処分すると決めたおもちゃをごみ袋にざーっと詰め込んで「燃やすごみ」か「プラスチックごみ」に出すよりは、子どもへの好影響が期待できよう。最終的には、リサイクルにとどまらず、おもちゃのリユース(お下がり)の仕組みを運営企画するところまで期待は存在するといえよう。

・おもちゃの夢をいつまでも
 ユニセフが東日本大震災直後の緊急支援物資としておもちゃを送った際、水も食べ物もガソリンも不足する中で災害対策本部では、おもちゃを救援物資とみなすことをしなかった※5。おもちゃはあえて分類するならば、生活必需品ではない。子どもは、おとなからみればどんなつまらないものからでも、遊び道具を自作して、実際にそれで遊ぶことに長けている。同じおもちゃでも、市販よりも手作りの方があたたかみに勝るかもしれない。
 それでも「おもちゃ屋さんで売っている」おもちゃは子どもに楽しみや夢を運ぶものであり、そうしたおもちゃのまったくない世界というのも現代においてはストイックすぎて、「子どもたちにふさわしい世界」として考えにくいと考えることが妥当だろう。
 しかし、本稿で考えたように、キャラクタービジネスは「子どもの夢」という衣をつけた、おとなの経済の都合で成り立っているビジネスという側面にも目を向けないわけにはいかない。関連企業は、おもちゃを手に入れてから卒業するまでの子どもの心理や、それにかかわりあうおとなの行動までを、より注意深く観察し、大量生産・大量消費・大量廃棄を必然としないビジネスモデルを構想することで、「子どもの最善の利益」と言い換えられるような「夢」を目指す企業であってほしい。

・子どもからの「もしもひとこと」
 「新しいおもちゃを買ってもらうのはだいすきだよ。次のたんじょうびに何をもらいたいか、もうかんがえている。たんじょうびにだめなら、サンタクロースにたのむよ。でも、べつに、あそぶときはゴーカイジャーでもシンケンジャーでもゴーバスターズでもいいんだ。たたかいごっこでは勝つときもあれば負けるときもある。プリキュアに負けるときもある。それよりも、幼稚園で遊び時間がすくなかったり、なつやすみとかにともだちと遊べなかったりするのがいちばんいやだ」

第3回では、衣服を取り上げる。

※1 社団法人日本玩具協会ホームページ 2011年6月14日発表 日本国内の玩具市場規模 2010年度
※2 10分野は、テレビゲーム関連を除いたゲーム、カードゲーム、ジグソーパズル、ハイテク系トレンドトイ、男児キャラクター、男児玩具、女児玩具、ぬいぐるみ、季節商品、並びにベビーカー・チャイルドシート・三輪車などの乗用関連を除いた知育教育玩具を指す。
※3 矢野経済研究所「キャラクタービジネスに関する調査結果2011」
※4 2011年3月の売上高ではハピネットが上回るが、同社はバンダイナムコグループの卸売企業であるためタカラトミーを2位とした。なお、タカラトミーもポケモンを扱っている。
※5 その後、宮城県教育委員会やコープにより避難所に届けられた。出所:ユニセフホームページ「東日本大震災緊急募金 第146報 緊急・復興支援活動1年報告会 開催報告」。




※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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