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【子どもの声を聴いて動いた研究員のココロ】
第3回 自分の感じ方を大事にできる環境づくり

2026年06月18日 渡辺珠子、聞き書き:未来社会価値研究所、村上芽前田直之


1.ワークショップやコンテストを通じた学生との接点
 「子どもの声を聴いて動いた研究員のココロ」シリーズ2人目の渡辺には、「インドやアフリカ案件が多い」「ワークショップが得意」「スタートアップに知り合いが多い」など特徴的な実績がある。発行部数が10万部の『日経文庫SDGs入門』の共著者であり、ビジネスでSDGsに貢献することをテーマにした講演の経験も相当数に上る。
 渡辺が担当してきたコンサルティング業務のなかで、子どもの声がそのままストレートに体現されるのは「SAKI寄付教育プログラム」(※1)だが、同プログラムの詳細は別の記事等に譲り(※2)、ここでは個人として引き受けてきた、サステナビリティや課題解決に関する講演やワークショップ支援、ビジネスアイデアコンテスト等の経験を振り返った。渡辺が重視するのは、講義でもコンテストでも、参加する個人やチームが自らの取り組みやアイデアが社会・環境にどのような影響(アウトカムやインパクト)を及ぼすかをどれだけ考えているかという点だという。実績の多くは大学か高校向け、依頼される経路は、個人的な知り合いや、かつて仕事をした人の紹介によるケースがほとんどである。

2.英語で社会課題
 渡辺が受ける依頼の特徴のひとつは、すべて英語で実施する機会が少なからずあることだ。日本人の学生(高校生や大学生)が実施する英語を使ったビジネスアイデアコンテストや、海外の大学向けの講義、国内の大学が提供する英語限定コースでほぼ全員が留学生という授業などがある。
 まず、日本人による英語でのコンテストでメンタリング(参加者への助言)に入るケースでは、日本人の学生に対し、日本語で発表するときよりも我(が)を強く出す、白黒はっきりさせる表現を勧めることが多い。日本語で用意したものをそのまま英訳したら、訴えるものが弱くなりがちだという。
 ある高等専門学校で実施された、語学力の向上を主眼としたアイデアコンテストでは、日本の学生と、アジアの高校生がオンラインでペアを組みプレゼンをするケースがあった。「ペットボトルのポイ捨てをなくそう」というお題に対し、他国と日本との感覚の違いが浮き彫りになったことがある。タイの学生は、現地ではペットボトルは売り物になるから捨ててはダメだと考え、日本の学生は資源の節約のために道端に捨ててはいけないと考える。語学力の向上だけではなく、こうした違いが生かされるような運営をサポートしたいという。
 一方、留学生を含むビジネスコンテストの場合は、渡辺にとっても「そこに注目するの?」いう驚きのエピソードに事欠かない。プレゼン資料を作ることが多いコンサルタントであるだけに、正統派の見方ではないけれど、面白い、うれしいと思うところだけを注目して膨らませてくるようなプレゼンに出会うと印象に残るという。例えば、チョコレートメーカー向けにバレンタインデーに関する提案を競ったケースで、そのお題であるにも関わらずチョコレート以外のものを提案してきた留学生のチームが1つだけあり、目立って最終審査に残ったというケース。「自分が気に入ったアイデアで突っ走るというエネルギーのかけ方は、日本人ではあまり見ない」という。

3.課題の内容よりも、自分が日常生活で感じること
 国内外でスタートアップ支援をする渡辺は、テック系のアイデアコンテストに加わることもある。そのような場合に高得点を出すことが多いのは、あくまでも感覚的なものだが、中高一貫校や大学付属校からのチームで「コンサルタント2年目か?」と思うようなプレゼンに出会ったことも一度や二度ではない。受験勉強にかける時間が相対的に少なく、学校にも家庭にも経済的余裕があることが多いためか、企業や大学と一緒に実験や研究をしてくる学校もある。大学入試の多様化を背景にコンテストに取り組むモチベーションが高いうえ、プレゼン自体の訓練も十分で、コンテスト慣れしている高校生も少なからずいる。
 学びの環境を存分に生かしたプレゼンは素晴らしい一方で、審査する側からみると、「高校生だからこその意見や感覚はどこにあるのだろう」と思う気持ちも生まれるという。等身大の目線は人によって違うとはいえ、「子ども時代に、時間を忘れるほど遊んでいるのかな」という思いにも至る。
 こうした経験を経て、渡辺が徐々に気を付けるようになったことは、助言の前の問いかけである。「この課題はどういうことか」という中身に入る前に、「学生が日常生活のなかで何が好きか」「どういう時間の使い方が好きか」「友達と何をしゃべっているか」といった、「いいなあと日常で思う感覚」を尋ねるようになった。これは、学生向けに限らず、企業内研修でも取り入れている。
 もともと、学生の発表に対しては全否定しない、まずは安心して意見を言っていいんだと思ってもらう雰囲気づくりを重視してきたため、出てきた提案は全部褒めるつもりでやっている。ただ、中には悩むものもあるなかで、「褒めポイントを探すうちに、ふだん感じていることを大事にできているかというところに気が付いた」という。これは言い換えると、身近な気付きをとにかく褒めるという境地に至ったといえる。例えば、ペットボトルのリサイクルデータや化学的な構造よりも、「道端に落ちているペットボトルのふたを数えてきたか」というような感覚を褒めたいという。
 参加する学生の日常生活を想像するうえで重要になることのひとつが、実際に学生とやりとりする前の準備段階で、どの程度までその学校や地域の環境を理解できているかである。講師や助言者の立場には、どのような言葉を選んで学生の声を引き出すのかが問われてくる。準備時間や一つ一つのイベントにかけられるエネルギーは限られやすいが、家庭環境を含めた経済・社会的背景を理解しないで対面してしまうと、必要な配慮に気が付かない場合もあり得る。
 海外の学生とのコミュニケーションを含め、多くの経験をしてきた渡辺にとっても、「興味関心にあわせて資料を変えたり声のかけ方を変えたり、どのように褒められたらうれしいかを考えたり」する方法は少しずつ習得した。このスキルは、多様な人によって成り立っている企業向けのコンサルティングを実施するうえでも生かされている。

(※1)三井住友ファイナンス&リース株式会社、株式会社日本総合研究所 2023年6月1日付ニュースリリース 「SDGsリース「みらい2030®」(寄付型)と連携した新しいお金の教育「SAKI寄付教育プログラム」の提供について」
(※2)例えば「『寄付』から始まる社会との対話―SAKI寄付教育プログラム実施報告(法政大学)」、「どこに寄付をするかを考えることは、自分と向き合うこと(YouTube)など


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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