国内外の事例から考える「資金のリレー」と日本での実装
前回は、ファーストロス、劣後資金、シニア資金という3層構造を用いて、社会課題解決を目指す事業のリスクを誰が引き受けるのかを整理した。前回見たように、「財団はファーストロスを担う」「銀行はシニア資金を出す」といった固定的な整理は、実態と必ずしも一致しない。同じ主体でも、案件や事業の成長段階によって異なる役割を担い得る。今回は国内外の事例から、実際に誰が何を担い、それがどう民間資金の参加につながったのかを確認する。その上で事業の成長に沿って資金をつないでいく「資金のリレー」と日本における実装の論点を考えたい。
事例が示す多様な役割
財団は「助成」だけを担うわけではない(事例①:ゲイツ財団)
米国のGlobal Health Investment Corporation(GHIC)は、ゲイツ財団の支援を受けて2012年に設立された非営利組織である。その最初の投資ファンドとして組成されたGlobal Health Investment Fund(GHIF)は、途上国で必要とされるワクチン、医薬品、診断技術などの開発を支える。この分野は開発に長期を要し、成否を見通しにくいことからゲイツ財団とスウェーデン国際開発協力庁(Sida)は、投資家に損失が生じた場合にGHIF資本の最大6割まで補填する損失保護(保証型)を提供した(※1)。下方リスクが限定されたことで、年金基金、製薬企業、金融機関等がGHIFに参加した。GHIFは12社に投資し、その実績はグローバルヘルス製品開発分野への10億ドル超の追加投資の呼び込みにつながった(※2)。
ゲイツ財団が「財団だから助成金を出す」という固定的な役割に終始するのではなく、「何が民間資金の投入を妨げ、誰がそれを取り除けるか」という問題意識のもと、Sidaとともに損失保護という役割を担ったことによる成功だといえる。
性質の異なる参入障壁をどう取り除くか(事例②:Aceli Africa)
米国に本拠を置くAceli Africaは東アフリカ地域で農業分野の中小企業への融資を後押しする非営利組織で、ドナー資金を原資に金融機関に対してファーストロス補償や融資実行に応じた奨励金を提供している。農業分野の中小企業への融資は、貸倒リスクに加え、小口の需要が多く取引コストを含めた採算が合いにくいこと、借り手側に融資を受け、管理するための体制が整っていないという課題があった。リスク、コスト、借り手の管理能力という三つの障壁である。
Aceliは、この三つの障壁にそれぞれ異なる手段を充てた。貸倒リスクには、対象融資ごとに融資額の2〜9%を貸し手の準備金口座に積み立て、対象融資のポートフォリオで損失が生じた場合に一定範囲を先に補填するファーストロス補償(※3)。採算の障壁には、融資実行ごとに取引コストを補う奨励金。借り手には、融資の受け入れ体制を整える技術支援である。
Aceliが行ったのは、民間資金の参加を妨げる障壁を特定し、それぞれに適した手段を設計することだった。結果としてAceliの仕組みが触媒となり、現地の商業銀行やノンバンクなど、民間の資金が動いた。
休眠預金という原資は、助成にも触媒にもなる(事例③:JANPIAと英国BSC)
国内では、一般財団法人日本民間公益活動連携機構(JANPIA)が2019年度以降主に助成の財源としてきた休眠預金を活用し、2025年度から試験的に劣後出資を行っている。背景には、社会課題の解決を目的とする事業への出資では期待リターンが市場水準に届きにくく、民間資金が入りにくいという障壁がある。この劣後出資でJANPIAは出資元本の回収までは出資比率に応じた分配を受ける一方、元本を超える利益は受け取らず、他の共同出資者に譲る。あえてリターンの配分を譲歩することで民間出資者の期待リターンを引き上げ、参加を促す設計である。
休眠預金を民間資金の触媒として使う発想には先行例がある。英国では2012年、休眠口座からの4億ポンド超と大手4銀行の出資2億ポンドを原資に社会的投資の卸売機関Big Society Capital(現Better Society Capital)が設立された(※4)。同機関は、社会的事業に投融資を行う中間組織に資金を供給し、休眠預金を後続資金の呼び水としてきた。このように、同じ休眠預金という原資でも、どのリスクを引き受け、リターンをどこまで譲るかという設計によって、助成の財源にも、民間資金を呼び込み市場を形成する触媒にもなり得る。
行政も補助金以外の役割を担い得る(事例④:東京都ファンド)
子育て世帯等を対象に家賃を抑えて住宅を提供するアフォーダブル住宅は、低廉な家賃と事業性の両立という課題を抱える。東京都は2026年、官民連携アフォーダブル住宅供給促進ファンドとして4つのファンドを創設した。都が最大100億円を出資し、民間出資と合わせて総額200億円以上の規模を目指すものである(※5)。行政が補助金の交付者ではなく出資者として参画し、都の資金を呼び水に民間資金を組み合わせる設計となっている。ここでの行政は民間投資家の参加条件を改善する役割を果たしている。
4つのファンドの一つでは、運営会社である株式会社LivEQuality大家さんが、損失を最初に負担する最劣後の資金を出し、公益財団法人社会変革推進財団(SIIF)が、同社への出資を通じてその負担を支える。損失を最初に引き受けるこの資金と、利回り面で譲歩する都の出資がともに呼び水となり、そこに銀行等の民間資金が加わる。リスクの引き受け方が異なる資金が層をなす、国内でも先行的な事例である。
「障壁の除去」と「資金のリレー」
これらの事例に共通するのは、「何が民間資金の投入を妨げているのか」が特定され、その障壁の除去に公的資金やフィランソロピー資金が投入されている点である。もう一つの共通軸は、「時間(事業の成長段階)」である。 第3回で整理したリスク分担の3層構造に、事業の時間軸を重ねると、成長段階ごとに必要な資金が入れ替わる構図が見えてくる。
ここでいう「事業の成長段階」とは、社会課題の解決に直接取り組む事業と、その実施主体の成長段階を指す。以下では、その各段階に対して、資金提供者がどのような資金や支援を提供できるかを整理する。
【1. 構想・実証段階】:事前調査・実証のための助成金や技術支援(事例②の技術支援)が、社会課題解決事業のモデル検証や、その実施主体の組織・運営基盤の形成を支える。
【2. 事業化段階】:不確実性が最も大きいこの時期、公的資金やフィランソロピー資金によるファーストロスや保証(事例①・②)が、民間資金より先に損失を引き受け、その入口を開く。
【3. 成長段階】:事業収益は生まれ始めるものの市場水準に届かない局面では、劣後資金によるリターンの譲歩やリスク負担(事例③・④)が、民間投資家の参入条件を整える。
【4. 拡大段階】:事業モデルと実施体制が確立した後は、地域金融機関や機関投資家によるシニア資金(通常融資・投資)(事例④で加わる銀行等の民間資金)が、社会課題解決事業の持続的かつ大規模な展開を支える。
一つの資金が全区間を担うのではなく、区間ごとに担い手が入れ替わる。その受け渡しを整えるのは、各事例で見てきたような、障壁を特定し仕組みを設計・運営する主体である。リスク分担の構造を事業の成長に沿って接続するこの設計は、資金のリレーと呼べるものだ。【2. 事業化段階】:不確実性が最も大きいこの時期、公的資金やフィランソロピー資金によるファーストロスや保証(事例①・②)が、民間資金より先に損失を引き受け、その入口を開く。
【3. 成長段階】:事業収益は生まれ始めるものの市場水準に届かない局面では、劣後資金によるリターンの譲歩やリスク負担(事例③・④)が、民間投資家の参入条件を整える。
【4. 拡大段階】:事業モデルと実施体制が確立した後は、地域金融機関や機関投資家によるシニア資金(通常融資・投資)(事例④で加わる銀行等の民間資金)が、社会課題解決事業の持続的かつ大規模な展開を支える。
日本でも資金のリレーを動かすために
本連載の第1回で、日本の課題は「資金の量の不足」ではなく「多様な資金が別々に動き、事業の段階に応じてつながっていないことではないか」と述べた。
日本でも、補助金、休眠預金、信用保証、政府系・地域金融機関、インパクト投資など、各区間を担い得る制度や主体は存在し、JANPIAの劣後出資や東京都のファンドが示すように現行制度のもとでの先行実装も動き出している。
日本版ブレンデッドファイナンスで問われているのは、既にある資金や制度を、社会課題解決事業の成長に沿ってどうつなぎ直すか、そのための制度と機能を設計することである。
大規模な法改正や制度整備が整うのをただ待つのではなく、まずは現行制度のもとで「いまできる実装」を愚直に重ねる。そして、現場の実装で直面した壁を将来整備すべき論点として可視化する。こうした実例の蓄積と課題抽出のサイクルが、日本版ブレンデッドファイナンスの議論を前に進める出発点となるだろう。
次回は、この資金のリレーを動かすために、財団、自治体、企業、金融機関、中間支援組織などがどのような役割を担い、合意を形成し得るのか、日本版ブレンデッドファイナンスの担い手について考えたい。
脚注
(※1) Fitchett, J.R., Li, J.F. and Atun, R.,"Innovative financing for late-stage global health research and development: the Global Health Investment Fund,"
International Health, 8(1), 2016.(※2) Impact Investment Initiative for Global Health (Triple I for GH),"Global Health Investment Corporation - Innovative Approach for Improving Global Health,"
2026. (※3) Aceli Africa, "Financial Incentives."

(※4) Better Society Capital, "Shareholders."

(※5) 東京都産業労働局「官民連携アフォーダブル住宅供給促進ファンド」
2026年。参考文献
・Global Health Investment Corporation, "Global Health Investment Fund.

・OECD, "Aceli Africa: mobilising private capital for agricultural enterprises in East Africa."

・JANPIA「休眠預金等活用法に基づく2025年度出資事業の資金分配団体を選定」
2026年8月3日。 ・一般財団法人社会変革推進財団「SIIF、株式会社LivEQuality大家さんへ出資」
2026年2月27日。・株式会社LivEQuality大家さん「【ブレンデッド・ファイナンス】アフォーダブルハウジングのパイオニア『LivEQuality大家さん』、SIIFよりトラッキングストックによる資金調達を実施」
2026年2月27日。 本コラムは「創発 Mail Magazine」で配信したものです。メルマガの登録はこちらから 創発 Mail Magazine
※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
関連リンク
連載:日本版ブレンデッドファイナンスを考える
・【第1回】 なぜ今、日本でブレンデッドファイナンスなのか
・【第2回】 ブレンデッドファイナンスは何を「ブレンド」しているのか
・【第3回】 誰がどのリスクを引き受けるのか
・【第4回】 民間資金を呼び込む仕組みはどう設計されているのか

