資金ではなく、参加条件を設計する
第1回は、社会的な必要性が高いにもかかわらず、事業として成立しにくい状況を「事業性ギャップ」と捉え、ブレンデッドファイナンスを、その隔たりを埋めながら市場をつくる考え方として紹介した。今回は、民間資本が参加しにくい理由に着目しながら、ブレンデッドファイナンスとは何を「ブレンド」するものなのかを考える。
ブレンデッドファイナンスとは何か
ブレンデッドファイナンスは、寄付、助成金、補助金、融資、投資などを組み合わせる仕組みと説明されることが多い。ただし本質は、資金を「混ぜる」ことだけではない。重要なのは、民間資本が参加できない理由を見極め、助成金、保証、劣後資本、技術支援などを通じて参加条件を整える点にある。つまり、ブレンドするのは資金の名称ではなく、異なる資金や支援が持つ機能と役割である。ブレンデッドファイナンスは、特定の金融商品ではなく、社会課題解決に必要な資本が参加できる条件をつくるための設計思想といえる。
海外ではどのように議論されてきたのか
ブレンデッドファイナンスは、2010年代半ば以降、主に開発金融の分野で発展してきた。OECDは、ブレンデッドファイナンスを「開発資金を戦略的に用いて、持続可能な開発に向けた追加的な資金を動員すること」と定義している(OECD, 2018)。その後、ブレンデッドファイナンスの専門機関であるConvergenceは、保証、技術支援、劣後資本、初期損失の負担など、具体的な手法や資本構造を体系化した(Convergence, n.d.)。近年では、BIIとBCGが、事業や市場の発展段階と、民間資本の参加障壁との関係に着目している(BII & BCG, 2025; GFANZ, BII & BCG, 2026)。また、国連グローバル・コンパクトは、企業が事業開発や市場形成に関与する手法としてブレンデッドファイナンスを位置づけている(UNGC, 2026)。つまり、海外での議論は、民間資金を動員する原則論から、事業段階とリスクに応じた設計論へと発展してきたといえる。では、こうした議論を踏まえ、日本でブレンデッドファイナンスを活用する際には何を確認すべきなのか。
日本版ブレンデッドファイナンスを考える4つの論点
ここでいう「日本版」とは、日本独自の新しい金融商品をつくることではない。むしろ、補助金、自治体予算、休眠預金、財団助成、企業の社会貢献資金、地域金融機関の融資、インパクト投資、成果連動型契約など、日本国内に既に存在する社会課題の解決のための制度・資金・担い手を、事業の段階とリスクに応じてつなぎ直し、民間資本が参加できる条件を設計する考え方である。海外で培われてきた原則や手法を日本で活用する際は、このような日本国内の課題構造や既存制度に即して、少なくとも次の4つの論点を確認することが重要である。

出所:BII & BCG(2025)、GFANZ, BII & BCG(2026)、Convergence(n.d.)を参照し、著者作成
注:SIBはSocial Impact Bond、DIBはDevelopment Impact Bondを指す
①事業段階を見極める
まだ事業モデルや需要を検証する段階なのか、一定の実績を持ち、事業化や規模拡大を目指す段階なのかによって、必要な支援は異なる。構想や実証の段階では、事前調査、事業設計、実証、データ整備などを支える助成金や技術支援が重要になる。一方、事業モデルがある程度確立した段階では、保証や劣後資本などによって、より多くの民間資本が参加できる条件を整えることが課題となる。
②参加障壁・リスクを見極める
民間資本が参加できない理由としては、損失への懸念、期待収益の不足、資金回収の難しさ、需要や事業成果の不確実性などが考えられる。その背後には、利用者データの不足、収益モデルの未確立、事業実績の乏しさ、経営体制の弱さなど、事業そのものの課題が存在する場合も多い。第1回で取り上げた「事業性ギャップ」は、金融機関や投資家から見れば、こうした参加障壁として表れることになる。
③誰がリスクを取るかを設計する
事業の段階とリスクを把握したうえで、誰の資金や支援に、どの役割を持たせるかを考える。例えば、事業の実現可能性が明らかになっていないのであれば、助成金や補助金によって調査や実証を支える。金融機関が損失リスクを単独で負えないのであれば、公的機関による保証や劣後資本、財団による初期損失の負担によってリスクを分担する。事業者の経営体制に課題がある場合には、資金提供だけでなく、経営支援や人材育成を組み合わせる。重要なのは、特定の手法を先に当てはめるのではなく、どの障壁を解消するために、誰の資金や支援を配置するのかを明確にすることである。
④誰が成果に払うかを設計する
地域交通、介護予防、就労支援、子育て支援などの国内の社会課題は利用者負担だけで採算を確保することが難しい場合がある。一方、これらの事業によって、行政コストの抑制や地域社会の維持など、利用者以外にも価値が生まれる可能性がある。
このような場合には、社会的成果に応じて行政や財団などが対価を支払う仕組みも選択肢となる。例えば、成果連動型契約、SIB、DIB、アウトカムファンドなどは、社会的成果を資金の流れに反映させるための手法として位置づけられる。すべてのブレンデッドファイナンスに成果連動の仕組みが必要なわけではないが、社会的価値を事業収入につなげることができるかは、検討すべき論点の一つである。
既存の資源をどうつなぐのか
日本には、国や自治体の補助金、休眠預金、財団助成、公益信託、企業の社会貢献資金、地域金融機関の融資、インパクト投資など、多様な資源が既にある。課題は、それらが年度や制度や目的ごとに分かれ、一つの事業の成長段階に沿って十分につながっていないことである。実証を支える資金があっても、事業化や拡大に続かず、取り組みが単年度で終わることも少なくない。日本版ブレンデッドファイナンスの出発点は、新しい資金を探すことではなく、既にある資源にどのような役割を持たせ、どうつなぎ直すかにある。その目的は、一時的な資金不足を補うことではなく、事業を育て、民間資本が参加できる条件を整え、持続可能な市場形成につなげることである。
次回に向けて
ブレンデッドファイナンスは、異なる資金や支援に役割を与え、民間資本が参加できる条件をつくる考え方である。しかし、保証や劣後資本によってリスクを分担しても、リスクそのものが消えるわけではない。最終的には、誰かがそのリスクを引き受ける必要がある。
次回は、保証、初期損失の負担、劣後資本などを取り上げながら、「誰が、どのリスクを、なぜ引き受けるのか」というブレンデッドファイナンスの中核を考えたい。
参考文献
British International Investment and Boston Consulting Group. (2025). Scaling blended finance: Practical tools for blended finance fund design.
Convergence. (n.d.). Blended Finance. Retrieved August 2026, from GFANZ, British International Investment, and Boston Consulting Group. (2026). Scaling blended finance II: Optimising catalytic capital in blended finance funds.
OECD. (2018). OECD DAC blended finance principles for unlocking commercial finance for the Sustainable Development Goals. OECD Publishing.
United Nations Global Compact. (2026). Business-led blended finance: A practical playbook. United Nations Global Compact CFO Coalition for the SDGs.
※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
関連リンク
連載:日本版ブレンデッドファイナンスを考える
・【第1回】 なぜ今、日本でブレンデッドファイナンスなのか
・【第2回】 ブレンデッドファイナンスは何を「ブレンド」しているのか

