経営コラム オピニオン 【日本版ブレンデッドファイナンスを考える】第1回 なぜ今、日本でブレンデッドファイナンスなのか
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【日本版ブレンデッドファイナンスを考える】 第1回 なぜ今、日本でブレンデッドファイナンスなのか
2026年09月08日 橋爪麻紀子
地域の公共交通機関の利用者が減り、事業の採算の確保が難しくなっても、通勤・通学や通院のための手段として頼る人にとって、その必要性は大きい。こうした社会的な必要性と経済性との間に生じる隔たりは、地域交通に限らず、子育て支援、空き家活用などに共通する課題である。こうした隔たり(以下、本稿で「事業性ギャップ」という)を埋め、社会的に必要な事業を持続可能な形に育てていくために、公的資金、民間投資、寄付・助成などを組み合わせる「ブレンデッドファイナンス」と呼ばれる資金調達手法に着目したい。本連載では、日本版のブレンデッドファイナンスを社会課題解決の市場形成の設計思想として捉え、その可能性を検討する。SDGs達成のための「資金ギャップ」 国連グローバルコンパクトは、ブレンデッドファイナンスを「公的・慈善的資金を用いて投資のリスク・リターンを改善し、資金が届きにくい市場に民間資本を呼び込む手法」と位置づけている(UNGC,2026)。その背景には、SDGs達成に必要な資金と公的資金との大きなギャップがある。途上国におけるSDGs達成のための資金ギャップは、2015年時点の約2.5兆米ドルから近年では約4兆米ドルへと拡大した(UNCTAD, 2023)。これに対し、公的資金や財団資金を初期損失(ファーストロス)の吸収、保証、技術支援などに活用し、民間資金が参加しやすい条件を整える手法が検討されるようになった。現在、ブレンデッドファイナンスによる累計動員額は2025年時点で約2,920億米ドル、取引件数は累計1,684件に達している(Convergence, n.d.)。つまり途上国では、公的資金やODAを単純に使うだけでは賄えない必要額に対し民間資本を動員するために、役割分担の議論が発展してきた。 日本での「事業性ギャップ」への応用 こうした動きは、ともすれば途上国に固有の手法と受け止められがちだが、必ずしもそれに限るものではない。 冒頭で述べたように、国内でも社会的に必要な事業であることと、民間資金が経済性を見出せる事業であることの間には事業性ギャップがある。例えば、過疎地域の地域交通は、通勤・通学や通院を支えるうえで必要性が高くても、利用者負担だけでは採算が合わず、将来需要も読みづらい。 こうした事業を支える既存の資金提供スキームにも限界がある。行政の補助金は政策目的に沿うものの、単年度予算、硬直的な使途制限といった制度上の制約がある。日本で今求められているのは、この事業性ギャップをどう埋め、投融資可能な事業へと育てていくかである。補助金頼みを乗り越え、現場を縛らずに事業の探索的活動や成長を支える柔軟なリスクマネーをいかに活用し、事業性ギャップを埋めるかという点である。「不足を補う」から「参加条件をつくる」へ ここでブレンデッドファイナンスの考え方が有効なアプローチとなる。なお、日本でも協調融資、保証、政策金融などを通じた官民連携の仕組みは存在してきた。ブレンデッドファイナンスは、社会課題解決を明確な目的とし、公的資金やフィランソロピー資金を触媒としてリスクを分担することで、本来は参加しにくい民間資本を追加的に呼び込む点に特徴がある。重要なのは、補助金、融資、投資、寄付を単に同時に使うことではない。民間資本の参加を妨げているリスクを特定し、誰がどのリスクを引き受けるかを設計することである。例えば、寄付や助成金で事前調査、事業設計、実証、インパクト測定を支え、公的機関や財団が保証や初期損失の一部を担うことで、金融機関や投資家が参加できる条件が生まれる可能性がある。実際に、自治体のファンド担当や投資家らによる、投資実務の現場では、「資金がない」よりも「投資可能な案件が少ない」という声が少なからず聞こえてくる。民間資本が参加できる事業の条件を整え、こうした資金の行き場を作る必要がある。 この視点に立つと、フィランソロピー資金は、後続の資金を呼び込む触媒となり、企業もまた、資金の受け手にはとどまらず、技術や顧客接点、事業運営の知見を活かして市場形成にかかわる主体となる。ブレンデッドファイナンスとは、足りない資金を補う仕組みではなく、多様な主体が役割を分担しながら、社会課題解決のための市場を作るための仕組みだといえる。日本版ブレンデッドファイナンスをどう考えるか 日本には、国や自治体の補助金、休眠預金、財団助成、公益信託、企業の社会貢献資金、地域金融機関、インパクト投資など、多様な資源がある。課題は、それらの量が不足していることではなく、それぞれが別々に動き、事業の段階やリスクに応じて十分につながっていないことではないか。ブレンデッドファイナンスは、お金を混ぜる技術ではない。行政、財団、企業、金融機関、事業者が役割を分担し、社会課題に資金が流れる市場を設計する考え方である。本シリーズでは、次回、ブレンデッドファイナンスの出発点として「何をブレンドしているのか」という定義と役割を整理する。その後、「誰がどのリスクを引き受けるのか」、国内外事例の共通構造、日本での制度と実装可能性、日本版モデルの担い手とアクションなどを考えていきたい。参考文献 Convergence. (n.d.). Blended Finance. Retrieved August 2026, from https://www.convergence.finance/blended-finance. United Nations Global Compact. (2026). Business-led blended finance: A practical playbook. United Nations Global Compact CFO Coalition for the SDGs. United Nations Conference on Trade and Development. (2023). World Investment Report 2023: Investing in sustainable energy for all. United Nations. 本コラムは「創発 Mail Magazine」で配信したものです。メルマガの登録はこちらから 創発 Mail Magazine ※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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