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第4回:SF-Foresight(Science Fiction × Foresight)の実践 ~強制発想編~

小林幹基 & SF-Foresightプロジェクト


 第3回では、SF-Foresight(Science Fiction × Foresight)の実践として、
●ベーシックインカム(以下、BI)(※1)の導入により起こりそうな変化を捉えた「ありそうな未来(=未来イシュー)」
●BIとは関係なく起こりうる不確実な社会の変化を捉えた「ありうる未来(=想定外社会変化仮説)」
をそれぞれ導出した。第4回では、上記の異なる2種類の未来、つまり、「ありそうな未来」と「ありうる未来」が同時に実現したときに、どのような未来が存在しうるかを“強制的に”考える。

 読者の皆さんの中には、BIが実現した後の社会を描くために、どうして「BIとは関係なく起こりうる不確実な社会の変化(=ありうる未来)」を考える必要があるのだろうか、と不思議に思う方もいるかもしれない。しかしながら、携帯電話が、単なる通信手段から、ひとりひとりが自己表現するためのツールとなり、さらにはチュニジアをはじめとするアラブ諸国の独裁政権を崩壊へと導いたように、また、ガソリン車を規制するカリフォルニア州の一連の政策が、電気自動車をファッションやスタイルとして支持するセレブ層やシリコンバレーのスタートアップ経営者により支えられているように、技術や政策は、それ単独で社会を変えるものではなく、その技術や政策の「外側」の事象と複雑に絡み合いながら、社会の様相を変えていくものである。つまり、「BIは、未来の社会をどう変えるのか?」を考えるためには、「BIとは関係なく起こりうる不確実な社会の変化」に目を向け、「それがBIにどう影響を与えるのか?」を洞察する必要があるのである。
 未来洞察では、「強制発想」というプロセスにおいて、「ありそうな未来とありうる未来が同時に実現したら何が起こるか?」を強制的に考えることで、「どんな化学反応が起こるのか?」、「結果、どんな未来の社会をもたらすのか?」を洞察する。具体的な手順は以下の通りである。
①縦軸に「ありそうな未来(=未来イシュー)」を配置する
②横軸に「ありうる未来(=想定外社会変化仮説)」を配置する
③各交点で交わる2つの未来が同時に実現したときの社会像のパーツを、全ての交点で強制的に発想する(個人作業)
④各パーツを編集・統合しながら社会像に昇華させる(ワークショップ)

オンラインワークショップによる手順①~④のイメージ

 一例として、未来イシュー「E. 医療・介護・福祉領域におけるセーフティネット提供主体が公的機関から自律的な共同体になる」と想定外社会変化仮説「3. 自己表現手段としての自作パーソナルモビリティ」の交点における、検討のプロセスを取り上げる。

 まず前提として、着想の元となった未来イシューおよび想定外社会変化仮説を振り返ろう。「E. 医療・介護・福祉領域におけるセーフティネット提供主体が公的機関から自律的な共同体になる」では、ベーシックインカムが実現した社会においては、医療・介護・福祉などの公的サービスは、一義的にはベーシックインカム、つまり、現金支給に集約されるため、もはや公的機関によるサービス提供は期待できない社会を想定している。そのような社会においては、「万が一」のリスクに備える方法として、住民たちが自律的な共同体を構成するようになると考えた。国・自治体による「公助」が現金支給に一本化された結果、共同体による「互助」が復活し、社会の底にふたをする、というイメージである。
 一方、想定外社会変化仮説「3. 自己表現手段としての自作パーソナルモビリティ」では、当然ながら、ベーシックインカムとは全く関係のない社会変化を描いている。
 足元の変化の兆しとして、①欧州の若者を中心に、「フライトシェイム(飛び恥)」に代表されるように、環境負荷の高い移動手段を避けるといった考え方が出てきていること、また、米国ではモノをあまり所有せずに極小住宅を車に乗せて移動するスタイルが若者を中心に広がりつつあることを受けて、移動手段の選択や移動のスタイルが価値観・アイデンティティを反映した、いわば自己表現の手段になっていくと考えた。さらに、②コロナ禍で「自作」の機会が増えていること、モビリティのパーソナル化・小型化が進んでいることを踏まえると、自身の価値観・アイデンティティを表現する手段として、パーソナルモビリティを自作・改造するというムーブメントが広がるのではないか、と考えた。

 では、一見関係なさそうな「セーフティネット」に関する変化と、「自己表現」や「モビリティ」に関する変化が同時に起こった場合、それらはどのような化学変化を誘い、結果、どんな未来の社会をもたらすのだろうか。ワークショップの中で、我々は2つの大きな化学変化を見出すこととなった。
 1つ目の化学変化として、「自己表現手段としてのモビリティ」は、共同体の思想・主義を表現する手段に、ひいては、新たな仲間を増やすためのアピール手段になり得ることに気づいた共同体が、こぞってモビリティを自作するようになる、というものである。中には、自由の女神のように、ランドマーク的な存在に発展するものも出てくるかもしれない。
 2つ目の化学変化として、モビリティの共作・保有(みんなでモビリティをつくり、維持する)という共同作業は、共同体のメンバー間のつながりや関わり合いを生み出し、結果として、共同体の互助基盤を強化していく、というものである。旧来の「お祭り」や「神輿」を代替するような役割を、共同体の思想・主義を反映したモビリティが果たしていくことになるのかもしれない。
 上記の2つの化学変化(=ワークショップにおける気づき)をもとに、BIが実現した後の社会像を記述したものが以下となる。

●タイトル:
共同体のセーフティネットとして機能する自作モビリティ
●概要:
自律的な共同体のインフラとして、各共同体がエリア内を徘徊するオリジナルのモビリティを共作・保有するようになる。タイニーハウスのような大型のモビリティ、バスのような中型のモビリティ、屋台のような小型のモビリティ、など大小さまざまなモビリティが、各共同体のアイデンティティを表現するものになる。つまり、モビリティが共同体のランドマークとなり、外部から共同体にジョインするか否かの判断材料となる。
共同体としてモビリティを共作することで、仲間意識の高まりとともに共助のハードルも下がっていく。結果、共同体エリアを(自動あるいは手動で)徘徊する自作モビリティを中心として、困ったときに気軽に声掛けできる(=相談できる)フローティングな関係性と場が構築され、自作モビリティが「自律的な共同体のセーフティネット(例えば、知識移転・物資融通・健康管理・孤独解消など)」として機能するようになる。

 同様の議論を各交点で実施した結果、5つのBIが実現した後の社会像が導出された。ここではタイトルのみを記す。
●自助生活の姿として『共助のパートナーは「自然」』
●共助の姿として『人を通した国内協力(「アウトソースからインソース」を推進する国内版JICA)』
●街の姿として『「新たな原体験」を提供し、「やってみたい!」を喚起するまち』
●自治体の姿として『「夢を追いかける人」を支える地方財政』
●モビリティの姿として『共同体のセーフティネットとして機能する自作モビリティ』


 さて、第2回で記載した通り、これまでに示したような未来洞察のプロセスで導出した未来の社会像を読み手(ビジネスの場面では上席になることが多い)に伝える際に、しばしば大きな苦労を要する。日常的に目を向ける機会が少ない“ありうる未来”を取り込んでいるため、議論に参加した人と、参加していない人の間で、未来の世界観を共通化しにくいのだ。そこで、画像やイラストを活用したり、シナリオを描いたり、スキットでの表現(※2)を提案したりするものの、なかなかうまくいかないのが現実である。高島先生との協業によって、上記のBIが実現した未来の社会像を、どのような格好で読み手に伝わりやすく表現できたのか、乞うご期待!ということで今回を締めくくりたい。

(※1) 政府が国民一人一人に生活に必要な最低限の収入を無条件で支給する制度
第3回:SF-Foresight(Science Fiction × Foresight)の実践
(※2) 未来に対するアイデアは「スキット(寸劇)」でプレゼンしてみよう ~プレゼンターと聞き手の“世界観”の共通化~
以上
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