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【社会・環境インフラにおける政策・事業革新】
廃棄物・資源循環分野での2050カーボンニュートラルに向けた三つの革新

2021年09月24日 副島功寛


◆廃棄物・資源循環分野での2050カーボンニュートラルは必達
 令和3年8月5日、環境省より「廃棄物・資源循環分野における2050年温室効果ガス排出実質ゼロに向けた中長期シナリオ(案)(以下、「本シナリオ案」)」が提示されました。2020年12月の菅首相の2050ゼロカーボン宣言を受け、わが国でも脱炭素政策が総動員される中、廃棄物・資源循環分野として2050年の温室効果ガス排出実質ゼロ(以下、「廃棄物・資源循環CN」)をどう実現するかについて、具体的な道筋案が提示されたといえます(注1)。また同月9日には、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第6次評価報告書、第1作業部会報告書(自然科学的根拠)のうち政策決定者向け要約が公表され、「人間の影響が大気、海洋および陸域を温暖化させてきたことには疑う余地がない。大気、海洋、雪氷圏および生物圏において、広範囲かつ急速な変化が現れている」とのメッセージが発信されました(注2)。このメッセージからの警鐘を踏まえれば、本シナリオ案は、地方公共団体(以下、「自治体」)、特に、ゼロカーボンシティ宣言をした自治体にとって、さまざまな政策・事業手段を駆使して、社会実装していく必要のある政策目標になると思われます。
 その実装検討を進める際、ポイントになるのは、廃棄物・資源循環CNの実行に向けたさまざまなコストをどのように負担していくかです。最終的に燃焼すべきごみがなくならない状況下、二酸化炭素回収・利用・貯蔵(「Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage」以下、「CCUS」)等の新技術への投資が一定期間内において想定されていますが、導入コストの低減が今後進むと仮定しても、従来と異なる新たな投資負担を避けることは難しいといえます。この投資に充当する財源は、どのように捻出していけばよいでしょうか。



◆想定される方策での対応の難しさ
 プラント設備にとってコスト削減を図るポイントの1つが稼働率向上です。1つの施設で処理するごみ量を増やし、単位あたりの固定費を下げることが効率化の有力な手段となります。しかし、その実現を阻害する要因もまたCO2が引き起こす気候変動です。今年8月、日本全体を集中豪雨が襲い被害が出るなど、近年わが国は自然災害の増加・激甚化に直面しています。施設稼働率を上げるため、施設規模を縮小しコスト負担を抑えたいと自治体が考えたとしても、増加する災害に備え、災害廃棄物を処理する余力を確保せざるを得ない側面があります。脱炭素への公共投資を支えるコスト削減は、稼働率によっては実現が難しいのが現状です。
 施設のさらなる延命化もコスト削減の有力な選択肢です。近年、建設コストの上昇から新設に伴う事業費を抑制すべく、基幹改良工事により延命化を図る期間が長期化しています。しかし、稼働年数の長期化に伴う施設機能の劣化や競争環境の制約等に伴い、基幹改良工事段階の整備コストや運営段階の修繕コストを大きく抑えることは簡単ではありません。
 広域化・集約化によるコスト削減への期待はもちろんあります。施設の規模を拡大させながら施設数の集約を進めることでエネルギー効率化を図るため、令和2年6月の「広域化・集約化に係る手引き(環境省)」等に基づき、各地で広域化・集約化検討が行われています。令和3年度中には各都道府県が広域化計画の策定を終える見込みです(注3)。一方、各自治体が施設更新時期を合わせ、住民合意を得ながら広域化を進めることは簡単ではなく、検討・調整に係る負担が小さくないことも直視する必要があります。

◆三つの革新に挑む
 廃棄物・資源循環CNを実現していくため、前提となるこうした事実と向き合った上で、その実行に向けた政策・事業の革新の可能性について考えてみます。

 一点目は、処理システムの考え方の革新です。施設運営を1自治体に閉じず、広域化・集約化を考えていく視点は、国の方針が示すとおり重要です。一方、施設統合による広域化には、「逆に施設統合に参加していない他自治体を遠ざけてしまう」側面も少なからずあります。ここで示す考え方は、複数自治体での広域処理施設整備ができる/難しい場合のいずれにおいても、広域化の概念をより柔軟に捉え、各自治体が「公共・民間の外部の処理施設とのネットワークを深化すること」を前提に処理システムを構築していくものです。現在でも災害時・定期修繕時等には、他自治体施設や民間施設での受け入れは行われていますが、そのネットワークを都道府県の内外含め、より太く、相互に機能しやすいものに更新し、運営していこうとする視点です。これによって、各自治体が定常時以外を念頭に備えるべき施設の稼働余力を抑え、更新・修繕コストを縮減させます。
 ただし、大規模災害を想定した際には、稼働余力を抑えることへの懸念が生じます。この点について、環境省は災害廃棄物対策推進検討会の中で、大規模災害時の災害廃棄物発生量と国内廃棄物処理施設での処理可能量を試算しています。慎重な議論が必要ですが、令和2年度の検討結果からは、現状の国内の処理能力について、南海トラフ地震規模の大規模災害時でも一部地域間での広域処理と3年程度の処理期間を前提とすれば十分な処理能力を有していることが分かります(注4)。また、人口減少や資源循環意識の高まり等から、ごみ量も減少傾向が見込まれていますので、今後は一定の縮減について検討余地はあるといえそうです。
 新たな処理システムの実践においては、どの組織・施設と相互ネットワークを築くか、定常時・非常時にどのように相互処理を行うかなど、自治体側において、従来と異なる処理事業の構想、政策・計画立案、実行段階でのマネジメントも求められます。しかしこのマネジメントがあることで、定常時から一定の相互処理の土壌がつくられ、災害時でも円滑に機能する処理ネットワークが築かれるといえます。

 二点目は、施設運営コンセプトの革新です。民間事業者に長期で施設運営を委託する場合、担保を求める処理性能の水準や処理性能に直接影響しない設備等の修繕の考え方などにより、修繕コストが異なります。設備をぎりぎりまで活用する方針とした場合、設備レベルでの性能保証が難しくなる懸念はありますが、まだ活用できる設備を更新対象としてしまうことにはコスト低減を妨げる側面もあります。施設の処理性能を担保しつつ、修繕コストを抑えていくには、どのレベルの修繕であれば処理性能が担保されるかについて、自治体側でも「一定のリスク判断ができる情報」が必要になります。民間事業者へ性能発注を行い、リスク判断・負担とあわせて整備・運営を委ねる官民協働事業が1999年のPFI法施行以降普及してきましたが、施設運営の発想を変え、脱炭素投資の財源を捻出していく観点からは、自治体側の判断に必要な情報基盤を整備し、自治体側でも一定のリスク判断を行っていくことも期待されます。これによって、処理性能を維持するための修繕の水準感について自治体自らが方針を持ち、民間事業者と適正水準を議論することが可能となります。一方、民間事業者にとっても、施設の処理性能を担保するための修繕コストの必要性について、自治体の理解を促す機会になるといえます。

 三点目が、公共サービスの社会実装に向けた進め方の革新です。廃棄物・資源循環に係る公共サービスを上述した観点から進めていくには、①廃棄物処理、②脱炭素政策、③レジリエンス強化といった主要な論点に加え、各自治体における事業の背景・経緯を加味した地域固有の論点を含めて、「統合的に政策課題を捉える」ことが必要です。自治体のプロジェクトリーダーは、関連する他部署の政策課題を理解しつつ、自らが所掌する事業をどのような事業に仕立てるかを見いだす役割が期待されます。具体的には、政策・事業の全体像を庁内関係部署と共有・協議しながら、時間軸と優先順位を加味した実行計画を策定・遂行する役割です。また、民間事業者との議論の「場」を通じて、新たな政策・事業知見を発掘していく感度が実践を支えます。公共と民間の対話レベルを、相互の利害調整にとどめるのではなく、新たな処理システムや施設運営コンセプトを実践していく知見を獲得するレベルまで高めてくれるからです。そして最後に求められるのが、議会・住民の理解を促すための「ストーリー」です。複合化する政策課題に対応していく時、個々の政策レベルでは様々な異論が出てきます。各政策課題の軽重・バランスを踏まえ、時代に即した廃棄物・資源循環に係る公共サービスの在り方を伝えるストーリーを公共・民間で議論された全体像を基に作ること、そして、自治体のリーダーがそのストーリーを語っていくことが期待されます。

 国から大きな方針が示された今、廃棄物・資源循環CNの達成に向け、政策・事業の現場において革新に向けた一歩を踏み出すべき時を迎えています。公共・民間の関係者による小さな試行錯誤の積み重ねから生まれる新たな知見の中に、廃棄物・資源循環分野における新たな公共サービスを社会実装していく鍵があると考えています。

(注1) 「廃棄物・資源循環分野における温室効果ガス排出実質ゼロに向けた中長期シナリオ(案)について(環境省)
(注2) 「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第6次評価報告書、第1作業部会報告書(自然科学的根拠)のうち政策決定者向け要約(環境省)
(注3) 「広域化・集約化に係る手引き(環境省)
(注4) 「令和2年度災害廃棄物対策推進検討会(第3回)、技術・システム検討ワーキンググループの検討(環境省)

※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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