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【社会・環境インフラにおける政策・事業革新】
広域化・脱炭素に資する民間メタンガス化事業を生かした事業モデル

2021年08月30日 橋本玄


 本連載では、廃棄物、上工下水道、道路といった社会・環境インフラサービスに係る広域化、災害対応、脱炭素といった個別課題に対して、公共・民間セクターが「スクラム型」で政策・事業を統合的に検討・推進していく際の着眼点を提示しています。
 本稿では、廃棄物処理分野において、近年、事業化が進んでいる、民設民営型(※1)の食品廃棄物を原料とするバイオガス発電事業(以下、「民設民営型メタンガス化事業」といいます)に着目し、民設民営型メタンガス化事業が社会・環境インフラの供給・処理システムにおいて果たし得る役割の可能性と、その実現に当たっての課題等について紹介します。

1.脱炭素社会の実現に向けて民設民営型メタンガス化事業が増加
 家庭や事業者が排出する廃棄物のうち、食品廃棄物は動植物に由来する有機物であることから、バイオマスに位置付けられます。食品廃棄物は含水率が高く、また他のバイオマスと比べてバイオガス発生量が多いことが特徴です。そのため、食品廃棄物のリサイクル手法の一つであるメタン化(微生物の働きにより、メタンを主体としたバイオガスを生成する技術)に向いているといわれています。また、生成ガスは燃焼させることで熱や電気としてエネルギー利用することができるため、メタン化ガス事業は脱炭素社会の実現にも寄与するとされています。
 国は、これまでも「食品循環資源の再生利用等の促進に関する法律」(平成12年法律第116号/以下、「食品リサイクル法」といいます)の施行等によって、メタンガス化事業を政策的に推進してきました。例えば、農林水産省は、「食品廃棄物をメタン化によりエネルギー利用することは、企業に義務化されている様々な報告の評価の改善に役立つ上(※2)、廃棄物の処理コストを削減する、新たな収益を得られるという経済的メリットにつながる可能性」(※3)があるとしています。そして、その具体的なメリットとして、「食品廃棄物のリサイクル率向上」「コスト削減・新たな収益」「分散型エネルギー」「省エネルギーの推進」「温室効果ガスの削減」「企業CSR」を示しながら、食品関連事業者による食品リサイクルを推進しています。
 こうした従前からの政策背景や、昨今の2050年までに温室効果ガスをゼロにするカーボンニュートラル(脱炭素)に向けた社会動向を受けて、食品廃棄物を排出する事業者が、食品メタンガス化施設を運営する民間の廃棄物処分事業者に対して廃棄物処分を委託する動きが徐々に広がってきています。また、こうした排出事業者のニーズに呼応し、ここ数年の間に、東京都羽村市(アーキアエナジー株式会社がプロジェクト企画・運営)、岡山県岡山市(DOWAグループが整備・運営)、埼玉県寄居町(オリックス資源循環株式会社が整備・運営)、三重県伊賀市(大栄環境株式会社および株式会社神鋼環境ソリューションが整備・運営)等において、複数の民設民営型メタンガス化事業が立ち上がってきています(※4)

2.民設民営型メタンガス化事業が果たす新たな役割の可能性~広域化~
 民設民営型メタンガス化事業は、「脱炭素」に加えて、これまで公共が担ってきた社会・環境インフラサービスの「広域化」にも資する事業であると筆者は考えています。
 わが国では、「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」(昭和45年法律第137号/以下、「廃掃法」といいます)に基づく廃棄物の分類により、食品廃棄物は性状が同一または類似していても、排出主体の違いによって、一般廃棄物(家庭より排出)、事業系一般廃棄物(食品小売業・卸売業、外食産業等より排出)、産業廃棄物(食品製造業より排出)に分類されます。また、廃掃法に規定された廃棄物の処理主体と責任の帰属の考え方に基づき、一般廃棄物および事業系一般廃棄物は市町村等が所有・運営する廃棄物処分施設において、産業廃棄物は民間の廃棄物処分業者が所有・運営する施設において、それぞれ処分(主に焼却)されています。ただし、前述の民設民営型メタンガス化事業の事例では、食品製造業者が排出する産業廃棄物としての食品残渣に加えて、食品小売業者等が排出する事業系一般廃棄物も混合処理されています(※5)。わが国では廃掃法の規定を基に、一般廃棄物は公共の廃棄物処分施設において、産業廃棄物は民間の廃棄物処分業者の施設において処分されていますが、民間メタンガス化事業ではこうした垣根も既に無くなりつつあるのです。

 他方で、これまで公共が担ってきた一般廃棄物処理施設の動向を見てみると、環境省は、市町村の厳しい財政状況や老朽化した廃棄物処理施設の増加等の喫緊の課題を踏まえて、都道府県および市町村に対して、令和3年度末を目途に廃棄物処理施設の広域化・集約化計画を策定することを求めています。また、同省は、計画の検討促進のために発行した「広域化・集約化に係る手引き」(令和2年6月)において、複数の広域化・集約化のモデルを示しています。筆者は、手引きで示された「ごみ種別毎処理分担モデル」および「民間施設の活用モデル」を応用・発展させ、民間事業者が所有・運営するメタンガス化施設を活用した広域化のモデルを今後普及させていくことの可能性に着目しています。このモデルに基づく事業の実現によって、市町村が自らの財政負担で施設整備・運営する廃棄物処分施設の数または一施設当たりの規模を縮小できることから、結果として、市町村が直面している財政難等の課題解決につながるものと考えられます。



3.民設民営型メタンガス化事業を生かした広域化モデルの実現に向けた課題等
 前述の広域化モデルに必要な民設民営型メタンガス化事業の実現にも課題が残っています。その大きな課題の一つは、無くなりつつも依然として残る、一般廃棄物(事業系一般廃棄物を含む)と産業廃棄物の間の垣根の存在です。ある民間事業者が、メタンガス化の事業化を図ろうとする場合、市町村が許認可権限を有する一般廃棄物関連の許可(処分業許可や施設設置許可)の取得、市町村の一般廃棄物焼却施設が優位な競合相手として存在することにおいて障壁が存在します。前者については、一般廃棄物の処理は基本的に市町村が行うのであるから、新たに一般廃棄物を処分する施設は不要であると市町村が判断し許認可を与えない、また、後者については、食品小売業等の排出事業者が市町村の焼却施設に焼却処理を依頼する際の手数料が市町村の条例により著しく低廉に設定されていることもあり(※6)、それまで市町村の焼却施設に処理を依頼していた排出事業者にとって、民間メタンガス化事業者に処分委託先を切り替えようとするとコスト増になってしまう、そのため経済合理性の観点から切り替えが進まないということです。
 わが国では、民設民営型メタンガス化事業を生かした広域化モデルの実現に当たり不可欠な、民設民営型メタンガス化事業そのものにも、事業化上の大きな課題があるのが現状です。この課題解決には、市町村の理解とサポートが必要です。市町村や住民を含む社会・環境インフラサービスに関係するすべての関係者が、これを自身には直接的には関係のない民間事業者のみが抱える課題とするのではなく、市町村が抱える課題解決に資する、「民設民営型メタンガス化事業を生かした広域化モデル」の実現に向けた課題と理解することが、公共・民間セクターが「スクラム型」で政策・事業を統合的に検討・推進していく上で求められています。
 市町村側にとっても、現有の廃棄物処理施設(主に焼却施設)の施設規模が食品廃棄物の処理を前提として設定されていることもあるため、今すぐに「民設民営型メタンガス化事業を生かした広域化モデル」を推進することが難しい事情はあります。しかし、今後増加していく施設の老朽化に伴う更新整備の検討の際には、広域化や脱炭素にも資する社会・環境インフラサービスの在り方の一つとして、民間メタンガス化事業を組み入れた事業モデルは十分に検討に値するものと筆者は考えています。

(※1) インフラ施設の整備・運営に当たり、民間事業者が自ら資金調達して整備し、自らが得る収益をもって事業運営をする手法のこと。
(※2) 食品リサイクル法は、食品廃棄物等の発生量が年間100トン以上の食品関連事業者に対して、毎年度、その発生量および再生利用等の状況を農林水産大臣に報告することを求めている。また、食品リサイクルの取り組みが不十分な企業は、食品リサイクル法に基づき公表・罰則を受ける。
(※3) 「食品廃棄物のメタン化に取り組んでみませんか?(農林水産省食料産業局/2018年8月)より引用
(※4) 埼玉県寄居町のオリックス資源循環株式会社のメタンガス化施設では、周辺市町村の家庭生ごみも処分される予定。
(※5) 東京都羽村市(https://nrc.tokyo.jp/wp/wp-content/uploads/2020/07/20200709.pdf
 岡山県岡山市(https://www.dowa-eco.co.jp/release/20210128_1775.html
 埼玉県寄居町(https://www.orix.co.jp/resource/service/biomass.html
 三重県伊賀市(https://dinsgr.co.jp/wordpress/wp-content/themes/HD/pdf/release_20201026.pdf
(※6) 農林水産省が公表した食品リサイクル法に基づく基本方針では、前述の事態の改善のため、「市町村による事業系一般廃棄物処理に係る原価相当の料金徴収の推進」を求めている。

※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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