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【2050年カーボンニュートラル実現に向けた地域がとるべき戦略】
~鍵を握る地域での実践に向けて~ 【その1】民間との連携

2021年05月20日 大島裕司


1.大きくかじを切った日本の気候変動対策
 2020年10月、政府は、2050年までに国内の温室効果ガスを実質ゼロとする、いわゆる「カーボンニュートラル」を宣言した。また、翌年3月には、その中間目標として2030年までに2013年度比で46%の削減を行う中間目標も発表した。
 今回の気候変動対策が、これまでのものと決定的に違う点は、「ゼロ」という目標の高さである。2005年に発効した京都議定書において、わが国の削減目標が1990年度比6%(2008~2012年の5年間平均)であった点と比較しても、そのハードルの高さの違いは明らかである。
 また、カーボンニュートラルは他の主要国でも続々と宣言され、各国では関連技術の開発をはじめ、ESG投資の呼び込みや規制強化による競合国企業へのけん制等が行われている。すなわち、世界規模で経済競争、そして主導権争いが行われている状況にあり、この競争に敗れる国や企業は世界の市場から淘汰される危険性があると言っても過言ではない。

2.「勝負の5年」
 気候変動対策は、地球全体の平均気温上昇を1.5℃以内に抑え、海面上昇や災害の激甚化等、世界各地で進む環境影響を世界全体で抑えていくことが本来の目的である(※1)
 一方、温室効果ガスの排出抑制が実現されたとしても、実際の気温上昇が抑制されるまでには少なくとも数十年のタイムラグがあると言われており、一刻も早い対策が求められる。
 また、今回のわが国におけるカーボンニュートラル宣言は、社会全体に与えたインパクトが大きかった分、この熱が冷めない間に、一気にパラダイムシフトを促す点も重要となる。加えて、前述の世界各国との「カーボンニュートラル・レース」の真っただ中という状況にある。
 以上を踏まえると、わが国ではこれからの5年程度は「ゼロ」に向けた、パラダイムシフトへの明確な道筋をつけながら、かつ中間目標である46%削減を達成するうえでも極めて重要な期間といえる。

3.求められる地域での実践
 ここまで述べてきたとおり、深刻化する気候変動、他国との激化する競争のなかで、わが国に求められているのは、具体の地域において、早期の対策を実践し、温室効果ガス削減という目に見える結果を出すことにある。
 本稿では、対策の効果的な実践に向けて、自治体等の地域関係者が、いかにカーボンニュートラルに対して戦略的に取り組むことができるかという視点に立ち、その際の重要キーワードとなる、民間事業者との連携のポイントを挙げる。

(1)「地域脱炭素化促進制度」の活用
 今回のカーボンニュートラル宣言に伴って閣議決定された地球温暖化対策推進法の改正案では、各主体が「密接な連携のもと、脱炭素社会の実現に取り組むこと」が基本理念として掲げられている。   
 その理念の実践に向けては、電源開発等の対象地域となる自治体が示す地域貢献の要件をクリアする再エネ事業等を「地域脱炭素化促進事業」と定め、事業者が示す計画がその要件を満たす場合、事業手続きを緩和させる措置が可能となった。
 よって、今後の再エネ電源開発等では、今まで以上に民間側からの地域貢献が求められるとともに、自治体は地域貢献を民間から引き出すような情報発信・PRが必要となる。



(2)事業推進母体の設立
 前項の「地域脱炭素化促進事業」の中で「経済および社会の持続的発展に資する取り組み」であることが求められているように、今後のカーボンニュートラル実現に向けては、事業実施地域に対して、経済・社会面を含めたメリットをもたらす仕組みを導入することが必要となる。そして、その仕組みを継続的・効果的に回していく方法として事業体の存在がある。その際に目指すモデルとして、ドイツのシュタットベルケ(※2)がある。
 シュタットベルケは、エネルギー販売事業等の安定収益を、必要であるが赤字となりやすい事業(例:公共交通)の補填に使いつつ、事業体全体として黒字化させるという考えの下で運営される点に特徴があり、現在、日本全国で進む地域エネルギー事業(※3)等においても多くの地域で参考とされている。
 一方で、シュタットベルケは、一部の黒字事業への過度な依存、また黒字の事業からの利益を赤字の事業に充当することで、事業体全体で十分な利益が出せず、投資家への配当を出しにくいといった点が課題とされている。
 そこで、今後は、官民連携、公益性重視、多様なサービスの提供といったシュタットベルケの理念を参考としつつも、個々のサービスそれぞれで利益を出せる構造を作りながら、地域課題解決や地域の持続可能な発展に貢献していく事業体として成立していくことが求められる。
 具体的には、大手企業等と連携し、彼らが抱えるビジネス上の課題を地域側が請け負って解決するといった視点である。これにより、大手企業は自社では利益を出しにくいサービスやエリアを地域側に任せることで、収益性向上、人手不足等の解消につながる。一方で、地域の事業体は、大手企業と提携したビジネスを展開することで、BtoCビジネスとしてゼロベースで新規事業を構築することなく、地域で雇用を生みながら大手企業が持つビジネスモデルやネットワークを活用したBtoBtoCの安定したビジネスが可能となる。
 ビジネスのイメージとしては、例えば宅配事業で問題となっているインターネット注文の激増による配達件数増加、それに伴う再配達増加やドライバー不足、そしてCO2排出などに対し、ある拠点から先の「ラストワンマイル」を電動モビリティ等を活用し地域の事業体が担うといった、大手企業、地域側双方が連携してWIN-WINとなるような構図を作っていく視点である。
 


(3)効果の見える化と評価
 次に重要な視点としては、事業効果の見える化と評価である。
 例えば、畜産バイオマス発電事業には、事業で生み出された再エネとしての電力や熱によるカーボンニュートラルへの貢献だけではなく、家畜ふん尿がエネルギー化されることで、事業サイト周辺の硝酸性窒素による地下水汚染対策や臭気対策にもつながる可能性がある。
 また、前項で紹介した宅配事業等においては、高齢者が配達員等として雇用されることで、高齢者の生きがい、健康づくり促進による医療・介護費の削減といった社会・地域課題解決をもたらす可能性がある。
 こういった社会便益を評価し(SROI:社会的投資収益率評価)、そこに対して自治体が成果連動型で事業を補助するPFS/SIB(※4)のようなモデルを組み合わせていくことが重要となる。民間の収益性向上とともに、仕様達成でなく成果達成を求めることによって、民間の事業意欲を高め、結果として、地域の実情に合わせたユニークかつ継続性の高いモデル構築が可能となるからである。



4.おわりに
 カーボンニュートラル実現に向けては、官民連携による、地域での早期の実践、そのための仕組みづくりが求められることを述べた。
 実践および仕組みづくりに向けては、気候変動に関連するさまざまな取り組みを長年行い、また、地域課題の客観的な分析、分析結果から導出された効果的な民間のサービス・技術等を、第三者の立場から提案できるシンクタンクが果たすべき役割は小さくない。日本総研では、そうした期待に応えるべく、自主的な調査・研究をはじめ、情報発信や政策提言、そして自治体・企業等に対するコンサルティング支援等、さらに力を入れていくものである。
 本稿以降、引き続き「2050年カーボンニュートラル実現に向けた地域がとるべき戦略」と題し、地域での実践に向けた情報を連続で発信していく。

(※1) 1998年から2017年の20年間で発生した気候変動関連の災害で2.2兆ドルの被害があり、これは、それ以前の20年間に比べ2.5倍の増加とされる(国連・国際防災戦略事務局2018年10月発表)。
(※2) 幅広い分野の公共事業等を担うドイツの公益企業 (公社)の総称。エネルギー事業をはじめ、水道事業、公共交通等の公的サービスも担う場合もある。当社では、8年以上前にドイツ現地での調査も踏まえ、シュタットベルケをいち早く日本国内に紹介した経緯がある。
(※3) 自治体が一定関与のもと、地域資源である再エネ等を活用して地域の課題解決を目指す事業。
(※4) 社会(地域)課題解決を目的とする成果連動型民間委託事業の総称。PFSのなかでも事業コストを民間からの資金提供により実施するものをSIB(ソーシャル・インパクト・ボンド)と呼ぶ。以下URLは、国の事業において弊社が作成支援したSIBに関する導入支援資料である。
https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/knowhow.pdf
https://www.mlit.go.jp/common/001344036.pdf

※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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