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持続可能で質の高い医療提供体制構築に関する提言

2021年05月11日 持続可能で質の高い医療提供体制構築に向けた研究チーム



*本事業は、米国研究製薬工業協会(PhRMA)の協賛を受けて実施したものです。

提言資料(本体)
提言資料(文書)
参考資料(アンケート)

1.背景・趣旨

・わが国の医療制度は、健康寿命の延伸に多大なる貢献をしている一方、少子高齢化、増え続ける財政負担などの諸課題に対する改革の必要性が訴えられてきたところである。
・そして、昨年から発生した新型コロナウイルス感染症による公衆衛生危機によって、わが国の医療提供体制はさらに多くの課題を突き付けられることになった。医療従事者の偏在や不足をはじめ、平常時・非常時それぞれにおける病床機能の不備、在宅での患者支援体制の未整備、ワクチン接種やデジタル化の遅れなど、それらをどのように進化させていくべきか、多くの国民が課題認識をかつてないほど深めている。
・こうした課題が顕在化し、国民の関心が高まっている今こそ、将来世代も含めた国民が安心でき、持続可能で質が高い医療提供体制を構築するための国民的な議論を行い、必要な改革を速やかに実行することが必要である。しかしながら、これまでの日本の医療制度改革に関する議論は専門的な内容に偏ってきた。そして、「社会的ニーズの最も高い医療資源・医療支出を、将来のあるべき医療提供体制の姿を起点として、どこにどのように配分し、どう国民が負担すべきなのか」という、国民目線で分かりやすい議論には欠けていた。
・以上を踏まえ、日本総合研究所は、医療制度をめぐる諸課題の解決と、あるべき医療の姿の実現に向けた検討を2年かけて行い、必要な改革を戦略的に実現するための提言を取りまとめた。

2.政策提言の骨子
 
・現在行われている医療制度改革は、医療提供者側を中心とした議論が行われており、医療の受け手である国民にも理解しやすい形で、医療のあるべき姿が議論されその実現に向けた対策(戦略的アプローチ)が取られているとは言い難い。
・日本総合研究所が実施した国民アンケート調査により、「国民に正しく情報を提供すれば、国民の選択は変わる」ということが明らかになった。わが国の医療政策改革の議論において、あるべき医療の姿を描き、国民のメリットを明確にし、これらを実現するために必要な財源や負担のあり方の説明を尽くし、関係者一丸となって取り組むための戦略的アプローチの導入が必要である。
・国民目線での改革議論を加速させるため、医療の提供価値向上に向けた提言(提言1・2)と、その土台となる国民皆保険制度維持のための財政健全性確保に向けた提言(提言3)を示したい。

(1)提言1:コロナ禍だからこそ見直すべき「かかりつけ医」の役割:国民の一生涯の健康を地域多職種連携で診るプライマリ・ケアチーム体制整備

・現在、国民一人ひとりが、その健康に責任を持つ、かかりつけの医師を持っているわけではなく、そのような医師を含めた地域の全体のサポート体制ができているわけではない。このことが、コロナ禍において、病院に行くか在宅で支援を受けるかなどの相談・サポートを身近で受けられない理由となっている。さらに、医療提供者側におけるデータ共有不足や地域連携の不足としても表れ、保健所や一部の大病院のリソースの顕著な不足が発生する状況を生み出す一因となっている。
・将来の公衆衛生危機や今後の少子高齢化への対応を考え、健康不安時の対応のほか、生活習慣病患者への質の高い医療の提供、病院・診療所間連携、在宅支援におけるかかりつけ医の役割を改めて見直すことが必要である。
・そこで、臓器ごとの専門医だけでなく、全人的・包括的に複数科/疾病の患者も診られ、患者の地域や家族の状況も踏まえて診察できる医師(プライマリ・ケア医)が必要である。そのために、国民一人ひとりが、自らが選んだ一生涯のかかりつけの多職種医療従事者チームに診てもらえる「国民の一生涯を見る日本版プライマリ・ケア」の仕組みを整備すべきである。
・これにより、国民は、個々人の疾病の治療だけでなく、地域において、人生を通して健康について相談できるチームを国民一人ひとりが持ち、健康長寿に向けた助言・指導が継続的に受けられる。医療提供体制側においては、重複的な検査・投薬の削減や機能分担によって、在宅・入院の適正化、病床の適正確保などが見込まれる。

(2)提言2:デジタル化が可能にする質の高い医療の選択を加速化:健康増進と医療革新を促進するために価値に基づく医療を実装

・現在、医療サービスに対する支払いは、一部を除いて主に医療サービスの投入量に着目しているため、医療サービスの増大や非効率を招きやすい構造となっている。そして、公衆衛生危機に代表されるような社会の変動がもたらす医療に求める価値の変化、技術の進展やデジタル化による新たな価値の創造がなされた場合でも、これらの価値をデータによって評価し、価値の高い医療へのシフトを加速化する仕組みが十分実装されているわけではない。
・このような仕組みが実装されていないことは、医療全体の資源配分を固定化するとともに、新たに投資すべき分野への集中的な資源配分や、それを支える技術の発達を難しくしている。
・医療のデジタル化によって、データの収集がこれまでより容易になるとともに、新たな価値も測定しやすくなる。収集したデータに基づいて、既存医療や新たな医療の価値を評価し、価値の高い医療がより選択され、価値が高いとはいえない医療の提供が少なくなる仕組みを構築し、医療支出をより投資的に運用することが必要である。
・こうした医療のデジタル化によって、国民は正確なデータを活用した質の高い医療を継続的に受けられる。また、医療改革においては、これまでは給付を削るか財源を増やすかの主に二つの選択肢による議論が続けられてきたが、今後は医療の質を向上させながら制度の持続性を高めるという第三の選択肢をとることができるようになるとともに、ヘルスケア産業への投資促進にもつながる。

(3)提言3:国民皆保険を将来世代に引き継ぐためにコロナ禍の今こそ考えるべき医療財政:情報提供を進め国民的理解を得て必要な医療財源を確保

・現在の日本は、赤字国債によって医療費の財源不足を恒常的に賄っている状況に陥っており、国民皆保険の持続可能性が損なわれている。この状況を将来の私たちや次世代、将来の医療システムに負わせるべきではない。医療のあるべき姿、提供体制をまずは国民目線で検討し、それを実現するにあたっての必要な給付を考え、その給付に必要な財源を考える必要がある。
・日本総合研究所の実施した国民アンケート結果では、国民皆保険制度の維持に向けて情報の提供が必要と考える国民は75%に上り、国民はより理解できるための説明や情報提供がさらに必要と考えていることが分かった。そして、正しく情報提供を行えば、将来のために財源確保を考える国民が増えることも分かった。かつてなく関心が高まっている今だからこそ、現在世代の誰かが得をする議論ではなく、国民皆保険がもたらす便益を将来世代に確実に引き継ぐための責任ある議論が必要である。

3.今後の医療改革に向けて

・わが国の医療改革は待ったなしの課題である。国民の理解がより得られるべく、公衆衛生危機、少子高齢化と経済成長、財政負担増大への対応といった諸課題に対応した医療のあるべき姿を提示した上で、現状とあるべき姿の差異を計画的に埋める戦略的な対応(戦略的アプローチ)が必要である。この際、課題の対応を難しくしている根本的な原因を網羅し、これを解決し得る成功のカギを関係者・国民のいずれにも理解できるように提示すべきである。
・このためには、「国民に正しく情報を提供すれば、国民の選択は変わる」ことを念頭に置き、国民目線の検討をさらに進める「考え方の転換」が必要である。特に、コロナ禍で医療提供体制の課題を国民が目の当たりにしている今だからこそ、この考え方の転換は非常に重要である。
・わが国の各界のリーダーの強力なリーダーシップの下、医療のあるべき姿と戦略を策定することを政府の目標として定め、国民・患者・医療提供者・アカデミア・産業界・政府などの関係者と早期から連携した対話を推進することが必要である。

4.本政策提言について

・本提言は、日本総合研究所「持続可能で質の高い医療提供体制構築に向けた研究チーム」が公正・公平な視点を心がけて、患者・医療従事者視点で、中長期的な観点から社会貢献をしたいと考え、意見をとりまとめ、提示するものである。
・我々は、中長期的に検討が必要な重要課題があるべき姿とともに政府の「骨太の方針」に記載され、具体的な改革に向けた道筋が工程化されることを望んでいる。本提言については、患者、医療提供者、保険者、政府(厚生労働省、財務省等)、 経済界・産業界などの関係者と目指す方向性の一致は可能と考える。 

※「提言資料(本体)」について、以下を更新/追記(2021年5月14日)
P.6 「プライマリ・ケアの専門医」の記載を更新
P.9 各タイトルに「患者が重要と考える」旨を追記、右下部に「価値」の定義を追記

<持続可能で質の高い医療提供体制構築に向けた研究チーム>
取りまとめ川崎真規 リサーチ・コンサルティング部門 シニアマネジャー
社内アドバイザー西沢和彦 調査部 主席研究員
南雲俊一郎 リサーチ・コンサルティング部門 部長
紀伊信之 リサーチ・コンサルティング部門 部長
森下宏樹 リサーチ・コンサルティング部門
社内メンバー
リサーチ・コンサルティング部門
青山温子 小倉周人 川内丸亮介 関口美貴 徳永陽太 富田奈央子 野田恵一郎 山本健人

<本件に関するお問い合わせ>
シニアマネジャー 川崎 真規
E-mail: kawasaki.masaki@jri.co.jp
コンサルタント 小倉 周人 
E-mail: ogura.shuto@jri.co.jp
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    本提言を発表したシンポジウム(ポストコロナに望まれる日本のあるべき医療の姿)の情報はこちら
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