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【コーポレート・ガバナンス改革の展望】
第4回 変化する社外取締役の役割② ~誰が社外取締役を選ぶのか~

2021年02月01日 山田英司


 前回は、昨今のコーポレート・ガバナンス改革はモニタリングモデルを意識したものであり、特に業務執行を監督するという意味でマルチステークホルダーを意識した多角的な視点での監督が必要であることから、取締役会においても多様なスキルやノウハウが求められることを説明した。また、取締役会の独立性を担保するには、社外取締役が主体となって監督すべきであることから、コーポレートガバナンス・コードの改訂によって、取締役会に社外取締役を3分の1以上選任することが要請されるようになった。一方、企業サイドでは、「そもそも論」として、適切な監督を行うスキルを有した社外取締役を、経営陣から独立したプロセスで、どのように指名・選任するかに頭を悩ませているのも事実である。
 そこで、今回は社外取締役の指名プロセスについて、取締役会の過半数以上を独立社外取締役が占める米国および英国の状況を紹介しつつ、日本企業における今後の方向性について考察する。

米国・英国企業における指名・選任プロセス
 米国・英国におけるコーポレート・ガバナンスはモニタリングモデルに基づいており、そのため執行から独立した立場の社外取締役が取締役会の多数を占めていることはすでに述べた通りである。一方で、これらの社外取締役が監督という責務を適切に果たし得るかという点は、株主などステークホルダーの大きな関心事項である。そのために、Proxy Statement(米国)やAnnual Report(英国)などの開示書類で、各取締役の経歴だけでなく、性別・年齢・在任期間・性別・国籍およびスキルの状況をBoard Compositionという形で整理、開示し、取締役会の監督機能が働くことを担保している。

英国・米国における指名・選任に関する開示項目(一般例)
●取締役会・委員会の役割・議題
●取締役会・委員会の人員構成
・社内・社外の構成(独立性の担保状況)
・スキル・ノウハウの状況(スキルマトリックス)
・多様性の担保(出身地、性別)
・取締役の就任期間
●中長期の取締役のリクルーティング方針、サクセッション・プラン
●実効性評価を通じた取締役会・委員会および構成員の評価。


 さらに、重要とされているのが、取締役の選任プロセスである。モニタリングモデルでは、取締役会は経営陣から独立した立場で執行状況を監督することが原則であり、社外取締役が取締役会を主導することが前提である。そのため、社外取締役の選任プロセスも、当然、経営陣から独立したものであるとされる。
それでは、米国・英国企業はどのような社外取締役の指名・選任プロセスを取っているのであろうか。以下では、一般的な指名プロセスについて整理する。 



 図表1は、米国・英国企業の社外取締役の指名プロセスを図式化したものである。株主総会に上程する取締役の選解任に関する検討は、一般的には社内・社外にかかわらず指名委員会が担っており、CEO等の業務執行取締役の選解任の提案を通じて業務執行の監督に係る実効性を担保している点では、日本企業と同じである。そのため、一見すると日本企業と大きな差異が無いように見える。
 一方で、指名委員会の運営に目を転じると、多くの米国・英国企業では独立性を担保するため、独立社外取締役が主導権を持っていることは注目すべきポイントである。これは、取締役会の多数を占める独立社外取締役の指名プロセスは、CEO等の指名と同様に重要なガバナンスの要素であり、モニタリングモデルを担保するために経営陣から独立した存在である必要性を認識されているからと考察される。実際に多くの米国・英国企業において、筆頭独立取締役が指名委員会の委員長となっていることからも、指名における経営陣からの独立性が重要であることが理解されよう。
 取締役候補者の指名は、このような体制の下で行われる。具体的なプロセスとしては、取締役会・委員会の構成(スキル、国籍、ジェンダー、任期など)と、取締役会・委員会および個々の取締役の評価を行った上で、株主等の外部提案や経営陣からの推薦も含め、取締役の重任と新任について検討される。なお、米国・英国企業においても、一定の要件を満たす独立社外取締役を確保することは容易ではないため、指名の検討に先駆けて候補者人材のプールを形成することも重要なプロセスとして組み込まれている。
 なお、現任の取締役を重任させるか否かの判断については、実効性評価の結果が用いられることが米国・英国企業では一般的であり、指名プロセスに実効性評価が組み込まれていることにも留意すべきである。
 このように、米国・英国企業では、指名委員会が独立社外取締役の指名プロセスを主導するが、指名委員長と構成メンバーに責任と負荷が増すことは確かである。そのため、①活動を支援するための組織と予算を確保する、②特に責任と負荷が大きい委員長およびメンバーの報酬に加算する、などの措置が必要になる。特に、①については、日本では秘書役と訳されるCompany Secretaryが事務局の責任者となって、情報収集や内外の調整、さらには予算確保を行うのが一般的である。
 これらのことから、米国・英国企業では、業務執行を監督するモニタリングモデルの重要な要素である、独立社外取締役の指名・選任プロセスを重視していることが理解できよう。

日本企業における課題と展望
 それでは、日本企業では、どのようなプロセスで社外取締役が指名されるのであろうか。経済産業省の調査からは、多くの上場企業では圧倒的に社長・CEOが主体となって指名しており、その他を含めると7割近く、執行サイドが社外取締役の指名に関与していることが分かる。



 この背景として、社外取締役の候補になり得る人材マーケットが現段階では十分に整備されておらず、経営陣のネットワークに頼らざるを得ないことが挙げられる。また、多くの日本企業がマネジメントモデルからモニタリングモデルへの移行期にあるため、取締役の指名では、取締役会の多数を占める業務執行取締役の主たる関心事となっている。つまり、社外取締役の検討プロセスが十分に整備されていないことが、社長・CEOによる指名がいまだ主流であることの本質的な要因であるといえよう。
 現在、コーポレートガバナンス・コードの改訂議論においては、取締役会における社外取締役の質的・量的な充実が求められている。そのうえでガバナンスの実効性を高めるという観点から、社外取締役の指名プロセスそのものについても、経営陣から独立させることは重要であり、そのためには下記のステップを踏む必要がある。

ステップ1 指名委員会をリードする役割を担う社外取締役の決定
ステップ2 指名委員会をサポートする組織整備と予算確保
   (以降、社外取締役を主体とした指名プロセスを推進)
ステップ3 取締役会・委員会における監督項目の再定義
ステップ4 スキルマトリックス等を活用した、取締役構成の検討
ステップ5 具体的な社外取締役候補者の抽出
ステップ6 社外取締役を中心とした指名委員会での議論


 繰り返しになるが、コーポレート・ガバナンスの高度化とは、取締役会が独立した立場で、経営陣の業務執行を適切に監督することである。そして、この高度化を実現するためには、個々の取締役が適切なスキルやノウハウを有しているだけではなく、指名プロセスまで経営陣から独立していることも重要なポイントである。
 なお、監督の質を担保するという意味では、このようなプロセスで指名・選任された社外取締役が、期待したパフォーマンスを発揮しているかを評価することも重要である。これについては、取締役会の実効性評価の在り方と併せて、次回以降で解説する。

※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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