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【コーポレート・ガバナンス改革の展望】
第1回 東証市場改革とコーポレートガバナンス・コード改訂のインパクト

2021年01月12日 山田英司


 コーポレート・ガバナンスの議論の対象は上場企業であるため、2021年6月を基準日とし、翌年4月に移行が予定されている東証市場改革の方向性は、多くの企業経営者にとって大きな関心事であろう。特に、市場区分における基準の一つにコーポレート・ガバナンスが挙げられており、これを受けて、コーポレートガバナンス・コードの改訂が予定されている。そのため、プライム市場を選択する企業は、改訂に対応しつつ、自社のコーポレート・ガバナンスを再構築する必要がある。連載第1回となる本稿では、東証市場改革とコーポレートガバナンス・コード改訂の方向性を整理し、そのインパクトについて考察する。

東証市場改革の方向性
 東証市場改革において、最も大きなインパクトを企業に与えるのは市場再編であることは間違いない。すでに公表されている通り、今後はプライム、スタンダード、グロースの3区分に市場再編が行われるとされる。多くの1部上場企業ではプライム市場への移行を想定し、プライム市場への移行基準についての関心が高い。この移行基準の重要な要素であるガバナンスについては、市場再編を検討した金融庁の報告書で下記のように整理されている。

市場ワーキング・グループ市場構造専門グループ報告書(2019.12.27)より抜粋(下線は筆者加筆)
(コンセプト)
プライム市場のコンセプトは、「多くの機関投資家の投資対象になりうる規模の時価総額・流動性を持ち、より高いガバナンス水準を備え、投資家との建設的な対話を中心に据えて持続的な成長と中長期的な企業価値の向上にコミットする企業及びその企業に投資をする機関投資家や一般投資家のための市場」とすることが考えられる。
(ガバナンス)
プライム市場に上場する企業については、我が国を代表する投資対象として優良な企業が集まる市場にふさわしいガバナンスの水準を求めていく必要がある。これについては、企業の持続的な成長と中長期的な企業価値向上をより実現していくという観点も踏まえ、今後、コーポレートガバナンス・コードなどの改訂等を重ねる毎に他の市場と比較して一段高い水準のガバナンスを求めていくことなどによってガバナンスを向上させる必要がある。その上で、プライム市場に上場する企業においては、自らの属する市場区分の選択を踏まえ、プライム市場にふさわしいコンプライの状況やエクスプレインの質などを達成していくことが強く期待される。


 当該報告書によると、プライム市場におけるガバナンスについては「より高い水準」のものであり、「他の市場と比較して一段高いガバナンス水準」という説明がなされている。また、同報告書では、スタンダード市場のガバナンス水準について「これまで求められてきたガバナンスの水準を引き下げることは適当ではなく、今後は、スタンダード市場全体として、コーポレートガバナンス・コードの全原則を適用する」としている。これらを鑑みると、プライム市場に属する企業は、「より高い水準」に改訂されるコーポレートガバナンス・コードを適用すると解されるであろう。

ガバナンス改革のインパクト
 東証市場再編により、プライム市場に移行する企業は、「より高度な水準」に改訂されたコーポレートガバナンス・コードへの対応を行うことになるが、この「より高度な水準」とはどのようなものであろうか。
これについては、「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」において議論され、グループガバナンスのあり方や資本効率の考え方、人材投資、監査の信頼性の確保、中長期的な持続可能性等、コロナ後の企業の変革に向けたコーポレート・ガバナンスの諸課題が挙げられている。そのなかで、特にコーポレートガバナンス・コードの改訂に盛り込むべき事項として、取締役会の機能発揮と企業の中核人材の多様性の確保について、以下の考え方が提示された。

「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」意見書(2020.12.8)の要旨
1.取締役会の機能発揮
・独立社外取締役を3分の1以上選任。なお、必要に応じては独立社外取締役の過半数の選任を検討
・取締役の選任に当たり、事業戦略に照らして取締役会が備えるべきスキルを特定し、各取締役の有するスキルの組み合わせである「スキルマトリックス」を開示。また、独立社外取締役には他社での経営経験を有する者を含める。
・指名委員会(特にCEO選解任機能)、報酬委員会の機能強化
・投資家との対話強化(筆頭独立社外取締役の設置、独立社外取締役会の議長の選任など)
・取締役会の評価の充実
2.企業の中核人材の多様性確保
・女性・外国人・中途採用者の管理職への登用等、中核人材の登用等における多様性の確保についての考え方と自主的かつ測定可能な目標を示すとともに、その状況を公表


 提言では、独立社外取締役のさらなる増員およびスキル面での充足など質量両面での強化のほか、取締役を補完する指名委員会、報酬委員会の強化など、コーポレート・ガバナンスにおいて重要な役割を果たすべき取締役会の機能強化について具体的な方向性が示されている。
 なお、従来と同様、コーポレートガバナンス・コード自体はソフト・ローであり、これらの対応を強制するものではない。しかし、対応しない場合において相応の説明責任が必要となるため、プライム市場を目指す企業は、コーポレートガバナンス・コードが求める独立社外取締役の導入に動くと想定される。さらに、東証のプライム市場は、特に米国、英国を中心とした海外の機関投資家を想定しているが、これらの投資家にとってなじみの深いモニタリングモデルでは、取締役会の監督機能を重視する。そのため、監督の担い手である独立社外取締役の人数はもちろんのこと、そのスキルや資質、さらには選任プロセスの独立性などが問われることになるであろう。
 なお、日本企業の場合は、モニタリングモデルへの移行中である企業が多く、取締役会において一定の意思決定がなされるのが現状である。そのためには良質な意思決定を行うことができる社長(CEO)を中心とした業務執行取締役の選任やサクセッションプランも重要である。これらを踏まえた上で、適切な取締役会の機能と、取締役会を担う取締役の役割を、それぞれの企業の実情を踏まえた上で定義し、取締役を選任するべきである。併せて、これらの基準とプロセスを適切に開示することが、単に「独立社外取締役の頭数を揃える」ことよりも、コーポレート・ガバナンス上では重要であると思われることを付言しておく。

※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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